108 肉と暴露
「はい、では次のゲストは、いま話題の『王国』のクランマスター、封月織羽さんです!」
「いぇー」
「織羽さんはどれくらい食べるんですか?」
「牛一頭はいけますよ」
ギャル与根さんの質問にプロ野球選手の鉄板ネタで返す。
ガヤ代わりにスタッフたちが笑ってくれる。その奥にはマネージャー代わりにいてくれている霧の冷たい視線がある。
その後はドラマの番宣に来たイケメン俳優とお笑い芸人も紹介されてから本日の挑戦メニューの紹介。
今日の店舗は焼肉屋さん。
ランチ限定の大食いメニューだそうだ。
さすが東京。食べ物屋も豊富にある。
出てきたのは『七色焼き肉丼』色んな部位の肉が使われた特大焼き肉丼。中央にはビビンバにできるようにナムルが盛られている。キムチおかわり自由。
その量、四キロ。
うまそう。焼き肉のたれが染みたご飯ってうまいよね。
大好きなギャル与根に大差をつけて勝ちたくないので同着ぐらいを目指してゆるゆる食い。ギャル与根は顎が弱いので噛みしめる系だと苦戦する印象。がんばれーと心で応援しながらこちらも多少は演技を交えてみる。
ご飯の中層からステーキが三枚登場するというサプライズにゲスト連中が悲鳴を上げる。
しんどいわー、ああしんどいわー言いながらウーロン茶を飲む。でも箸は止めない。周りのゲスト連中がぎょっとしてるが知らない。
ギャル与根にもすごいと言ってもらえた。満面のご機嫌でラストスパート勝負! 十秒譲って俺の負け。
二人でご褒美のアイスを食べて、収録後にサインと握手をしてもらう。
「いやぁ、有名人になるのも悪いことではないね」
と、サインをもらってホクホク顔の俺は千鳳の運転するいつもの高級車の中。
「で、テレビの仕事はまだ受けるの?」
「もう受けないよ」
生ギャル与根が見たかっただけです。後は興味ありません。
「そうなの。討論番組からもオファーが来ているけど?」
「そんなのは辛抱強い人に任せるよ。俺だとさらっと威圧とかして顰蹙買いそう」
「自分をわかってくれているみたいでよかったわ」
「飯を食うだけで金銭をもらえるとは、ずいぶんと富の余った世界じゃのう」
最後に言ったのは今まで黙っていた金髪美幼女のフェブリヤーナだ。ゴスな衣装を着させられた彼女はまさに生きたフランス人形。だがその手と目はスウィッチから離れない。
撮影中も目立つこと目立つこと。あとで山ほどスカウトの話が来そうだ。
まっ、そんな服を着せたのは俺と霧だけどな。
「普通はできないことをするから芸なんだよ」
「たしかに、あの量は過多じゃったな」
そんなことを言っていてもスウィッチを見ている。
ちなみにゲームは村づくりする奴だ。
「まったく、ここの住人どもの怠慢はどうにかならんのか。誰も寄付をせんぞ!」
なんてブツブツ言いながら果樹園を作ったり、虫取りに出かけたりしている。あれで世話好きなのだろう。でなければ魔神王の傀儡だと知りながら眷族のために最後まで戦ったりはしなかっただろうな。
というかドM説もあるか?
「お嬢様、これからどうしますか? 帰られますか?」
「いや、オフィスに行こうか。腹ごなししたいし、体育館の方で」
「はい」
俺の指示で千鳳が車の向きを決める。
俺たちは三年になったと同時に東京に来た。一応は高校にも在籍している。霧と一緒にお嬢様学校だ。
育ちがいい人っていうのは基本的に温厚な性格が多い。とくに箱入り娘たちが集まる場所となればその傾向は顕著だ。たまにしか学校に来ない俺たちにも彼女たちは親切だ。
……金持ちのはずなのにいろいろと狂っていた封月一族はやはりおかしいのだろう。エロ爺の執念のせいという意見もある。全面的に支持する。
「はぁ、それにしても、あのイング・リーンフォースがこの様か。まったくのう」
「なんだよ?」
「せっかくの良い男がのう」
「それを言ったらお前だっていい女だったのに」
そう言って、俺が幻影魔法で当時のフェブリヤーナを映し出す。胸部装甲がドーンとある妖艶美女だ。
「ふん、お前ほどではないな。なにしろ妾には成長の余地があるからな」
対抗してフェブリヤーナがイングの幻影を生み出す。
おお、懐かしのちょっと前の俺。異世界神話に登場する『最初の人』に理想と理想を重ね合わせたキラキラ細マッチョ。
ああ、イケメンだねぇ。
と、思っていてはっとする。
「なに?」
霧さんの冷たい声。
「ああ……まだ気にしてる?」
「……別に」
とちょっとむくれた様子で視線を逸らす。
フェブリヤーナがことあるごとにイング時代の俺のことを言うものだから、霧がそれを気にしないでいられるわけもなく、ついでだということで俺の全部を話したのだ。
つまり、俺は魂だけを召喚されてイングになったけど、その前は封月織羽だったわけではないということを。
その名前を言うと霧は驚いていた。同じクラスになった覚えはないが、それでも同学年で出た死者だから知っていたのだろう。
とはいえ、霧にとって問題なのは俺が純粋な封月織羽ではなかったということではなく、俺がちゃんと女ではないということだろう。
体は女、でも心は男。
LGBTを気取りたいわけではないがセクシャル的に厄介なことになっているのは認める。男に抱かれる気がない以上、相手には百合な感性を求めてしまうし、かといって俺の本性は男であるという。
肉だけ見れば女同士だから問題ないがその精神は男なのだ。『男っぽい女』と『男』は違うのだ。
霧が煩悶するのもしかたない。
あるがままを受け入れるなんてのは難しい。
そもそも個人個人で世界を受け入れる形は違う。それこそが個性なのだから。
「別に……あなたはあなただからいいのよ」
と、霧が小声で言った。
「ただ、私が知らないことを知っている人がいるのが、ちょっと……」
と口ごもる。
俺はそんな霧を見てにやりと笑う。
フェブリヤーナはスウィッチの向こうで舌打ちする。
「どうだ、俺の霧は可愛いだろう?」
「ふん」
「ちょっと、やめなさい!」
顔を赤くして霧が起こる。
こういう反応はなんか久しぶりで楽しい。
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