94


 予定の七日目も過ぎ、俺たちは豪華客船クラウン・オブ・マレッサを下船する。

 迎えに来た水上機に乗って向かうは南の島。

 一応はアメリカ領となる無人島だ。

 無人島だがエロ爺こと世界有数の金持ち封月昭三の所有地だ。

 ちゃんとした屋敷が待ち構えていた。

 沖で着水した水上機からゴムボートで乗り込んだのは真っ白い砂浜。ここに来るまでの海水も澄んでいたし、泳ぐのが楽しそうだ。

 水上機の音に気付いたようで屋敷からこちらに向けて近づいてくる者がいる。


「ご無事の到着なによりです」


 出迎えてくれたのは鷹島の孫、千鳳だ。

 先行して屋敷の準備をするということだったが島に他の気配がないということは、一人でやっていたのだろうか?

 たまにしか来ない別荘だろ?

 けっこうな広さだぞ?

 だとしたら千鳳の家事能力はかなりすごいということにならないか?


「うーんんんん?」


 屋敷を見渡し島を見渡し、俺は首を傾げる。

 なんか魔力の流れが作為的だな。


「魔法的な防御機構があるか?」

「ヒョホホホ、さすがは織羽じゃな」


 俺の言葉を聞いてエロ爺が上機嫌に笑う。


「ここはいろいろと実験をしている場所での、その結果、こういうものが出来上がっておるのじゃよ」

「それにしては、本宅の警備には反映していないが?」

「鷹島が一緒におれば儂の安全は確定じゃ」

「恐れ多い言葉です」

「カッカッカッ」


 鷹島が恐縮し、エロ爺がさらにご機嫌になる。


「まっ、そんなことはどうでもいいや。千鳳さん、銃は撃てる?」

「はい。色々取り揃えています」

「よっし」

「なに? お嬢様ってばそんなに銃が撃ちたかったの?」

「あっちじゃ撃つ機会なんてなかったし、日本でもな」

「まっ、そんなものか」

「そういえば個人用の強襲用飛行ユニットなんて作ったことあるか?」

「なにそれ? どこ需要?」

「終盤にフル武装で単騎突貫する需要」

「あっはは! ロマン装備だ。いいね。考えとく」

「よしよし、素材は任せろー。あっ、でも先に思い付いたのあるからそっちから作らないとな」

「お嬢様、その前にガイルの生存確認をしたいのですが?」

「あっ! 僕の! 僕のも受け取ってくれよ!」

「へいへい、でも、そろそろ腹が減ったんだけど?」

「では、昼食をご用意いたしますのでそれまでに雑事をお片付けください。千鳳、いきますよ」


 そんな感じでまずは雑事を片付ける。

 剛からだ。

 Lが大丈夫だというので砂浜でムスペルヘイムを出させる。

 出てきたのは半径五メートルくらいのテーブル上の物体だった。

 中央にレーザー発振器のような大きな結晶体がある。


「でかいな。どうやって使うんだ?」

「これはねぇ」


 と、Lが端っこを触るとそこが開き、キーボードが現れる。

 それになにかを打ち込むと、ゴウンと音がする。中央の発振器部分が上に伸びていき、それに合わせて周りが縮んだり飛び出したりする。

 変形だ。


「おお」


 最終的にそれは全長十メートルほどの砲台となった。


「これで一つ目のセーフティがアンロックされたわけ。で、あと一つセーフティを解除すると発射できるの。そっちのパスワードはもう例の将軍様に渡してあるけど……今変えちゃうねぇ」

「そんな気軽に変えられるもんなのか?」

「はっはっはっ、開発者なんだから秘密のマスターコードぐらい持ってるわよ」


 そう言って笑うLによって作業が進められ、二番目のパスワードは俺が所持することになった。


「おいおい、渡しちゃいけない人に危ないもん渡したんじゃねぇの?」


 みたいなことをアーロンの部下が言っている……気がする。日本語じゃないからわからないが、いまだに肉体言語が有効なのかもしれない。


「世界がゾンビにでも溢れない限り使わないかな」


 ゾンビまるごとどかんと焼くのは面白そうだよね。

 ムスペルヘイムは元の状態に戻して俺のアイテムボックスに収める。

 あからさまにほっとした剛は無視して次はアーロンの用事だ。

 場所は動かさずにそのまま砂浜の上にキャリオンスライムで密封されたガイルを出す。


「これは、大丈夫なんですよね?」

「生死問わずだろ?」


 仮死状態を解除されてぼうっとしているガイルにアーロンが疑わしげな顔をする。


「生きていれば高いですし、情報を吐き出させることができる状態ならもっと高いのですが」

「そこら辺は大丈夫だ」

「信じますよ」


 そのままガイルはアーロンたちに引き渡す。彼らはこれからここでアメリカの政府関係者とガイルの引き渡しを行うのだ。

 すでにここに来たことがあるらしいアーロンは、ガイルをどこかへ連れて行く。


「ねぇねぇ、いいの?」


 こそこそとLが聞いてくる。


「問題ない。頭は偽物だから」

「え?」

「記憶の半分ぐらいはコピーしてるからそれなりな確度の情報も知ってるだろうし、問題ないっしょ」

「その技術、また今度くわしく」

「へいへい」

「もう、お嬢様ってばボクの知らないこといっぱい知ってそうでうれしい! 付いてきてよかった」

「まっ、とりあえず遊ぶべし」


 バンバン撃ちまくってやる。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る