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ファナーンに貰った大量の美容薬品でなにを作ったかというと……。
「じゃん」
「……これはなに?」
朝、リビングにぷるんと鎮座するそれに霧が顔をしかめる。
薄いミルク色の粘性物質。
スライムである。
人をダメにするアレ二つ分ぐらいの大きさを持つそれに霧が微妙な顔をするのはなぜだろうか。
「なぜ?」
「だって、あなたのスライムって基本キモイじゃない」
「基本って言うな」
だが、普段のスライムの素材がキモいのは認めよう。
キャリオン=腐肉だしな。
他の転生物のようなぷりちーさはうちのスライムにはない。うちのスライムの売りはキモカッコイイだ!
だがこいつは違う。
「こいつの名前はビューティースライム、だ!」
「ビューティー?」
「その通り、いつものあの美容品を大量に使って作ったスライムなのだ!」
「そんなのを作ってどうするの?」
「それはもちろん、浸かるのさ」
「浸かる?」
「うん」
「これに?」
「そう」
「うえぇぇぇ」
「なんで? なんでその反応!?」
「だって、別にそんなことしなくてもすごい効果じゃない」
「ふふふ、ファナーンの美容品をただ肌艶がよくなるだけと考えるのは間違いだぞ」
ファナーンの美容哲学は『外が良くなりたければ中を良くしろ』だ。なので飲み薬もあるし、肌に塗る物にしても内部に浸透して栄養を与えるようになっている。
「さらに俺が独自で混ぜた薬品によって眼精疲労、頭痛、腰痛、肩こり、疲労にも効能がありつつ、さらに按摩機能も完備した総合的な癒しを実現したのだ!」
「……それはもうビューティーじゃなくてヘルスじゃないの?」
「でも、眼精疲労には反応したよね?」
「うっ……」
「読書で疲れた目と眼精疲労原因の肩こりと頭痛にはバッチシ効くはずだよ?」
「む、むむむ」
「さあ、レッツテストプレイ」
「いや、朝からそれはいいわ」
「……それもそっか」
何となくテンションのまま作ったがいまは朝。起きたばかりでそんなものがひつようなわけもなく。
「というか、いま必要なのは俺だな」
暴れたりないけど運動して来たのにそのまま徹夜してしまってるしな。
「それなら自分で試してみたら?」
「よし、そうしよう」
「え?」
というわけで呼吸補助の魔道具を口に含む。マウスピース型だから誤飲もしないし歯ぎしり防止にもなるぞ☆
それを口に嵌めてショーツだけになるとドボンといく。
もちろん本当にドボンなんて音はしないし飛沫も飛ばない。ビューティースライムは柔らかく俺の体を受け止め、ゆっくりと内部へと運んでいく。
すっぽりと埋まるや。全身を探査するように軽くゆすり、ポジションを確認すると微かな振動を開始する。
マッサージしつつ薬効を浸透させていくのだ。状態を管理する人工知能も搭載しているので薬の取り過ぎにはならないぞ。
ああ……気持ちいい。
作っているときにも思ったけど、これってマッサージチェアの進化版でもあるな。うん。
ああ、ええんじゃあ。
声が出せないから心で思いつつ俺はすぐに眠りに落ちた。
「え? 生きてる? これ大丈夫なの!?」
外では霧がそんな感じで心配しているなんてわかるはずもなく、俺は昼時ぐらいまでそのまま寝て過ごした。
おかげで艶々になったよ。
心配した霧に叱られながらご飯を食べつつ、昨夜のことを改めて説明する。
「ふうん」
うわぁ、すげぇ興味なさそう。
「なら海外に行くのはその用事もあるの?」
「そそ」
ガイルっていう犯罪組織の幹部をアメリカに売るのだ。
「その前にこいつの仲間の情報も欲しいけどな。玩具作りがうまいみたいなんだよ」
「どうせ危ない玩具でしょ」
「残念エロくはない」
「……お仕置きが必要?」
「すいません。なんでもありません」
「そんなことよりこれから水着を買いに行かないか?」
「……そうね。どこに?」
「モール?」
「F市? H市?」
「ん~品ぞろえならH市でない? 行くなら電車だけど」
千鳳は昨日が大変だったから今日は休ませてやろう。
まぁ、水着の品ぞろえがいい店がどこにあるかなんて知らんけど、モールの広さと店舗数なら圧倒的にH市だ。さすがは県庁所在地。
ちなみにどっちに行くにしても電車は必須だ。
「いまから行くと帰りは夜ね」
「何か不都合が?」
「……ないわね。いいわよ、行きましょう」
そういうわけで支度をして、駅でちょうどいい時間があったので新幹線に変更してH市へ。
でっかいモールで水着を見て、小物を見て、夏物を見て、鞄を見て、小物を見て、夏物を見て、文具を見て、小物を見て…………。店から店へと次々と…………。
……やばい、女性のショッピングを舐めてた。
外見は変わっても中身は結局男な俺には限界がある。
だが、俺も今や外見は乙女! 途中でベンチに逃げ出すなんてやらないぞ!
最後まで付き合ってやろうじゃないか!
「ああ、楽しかった!」
「そう……だな」
フードコートに辿り着いた時にはもう疲れ切っていたよ。
疲労困憊だよ。
やばい、女子半端ない。
「まだ本屋を見てないからね」
「ああ、わかってるよ」
メインディッシュを残していますと言わんばかりに目を輝かせる霧に俺は作り笑顔で頷く。
ああ、すぐそこのゲームコーナーで心ゆくまでゾンビを撃ちたい。あるいは背後のトイなザらスで作る予定のないプラモを眺めたい。
だがそんなのは霧の行動予定にはなさそうだった。
今日は霧の好きにさせると決めてるから黙ってるが……うーむ。
「ねぇ、織羽は行きたい店はないの?」
時間はとっくに夕食時。フードコートで色々買い漁って英気を養っていると霧が聞いてきた。
「え? いや……まぁ」
「私ばっかり楽しんでるみたいだし、織羽が行きたい店も行きましょう」
「……じゃあとりあえず、あそこでゾンビを撃ちまくりたい」
「こんなところに来ても戦いなのね」
なんて霧に呆れられた。
「まぁいいわよ。行きましょう」
「おっ、そんなこと言うならやっちゃうぞ。エンディングまでやるからな」
「……本屋にはいくからね」
「はい、わかっております」
ギロリと釘を刺されたので従順に頷きつつ、食事を済ませた俺たちはゲームコーナーに足を延ばした。
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