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尋問をアーロンに任せるようなことを言ってしまったが、そもそもいまガイルを確保しているのは俺なのだった。
待ちガイルする必要ないのだ。
「ただいま~」
っと霧のいるマンションに戻って休憩がてら彼女とイチャイチャする。休憩とは? ってなるぐらいにしこたまやられてしまうのだがそこはそれ。
俺がいないときに【瞑想】をして、【昇仙】をすっ飛ばして【昇神】してしまったらしい。俺は経験がないが、仙法の師匠イクンに教授してもらっていたとき、そんな話を聞いたことがあるのでない話ではないのだろう。
ちなみに【昇神】には俺も達しているし女神イブラエル以外の神にも会ったことはある。
運命観測神フォルトゥーナね。ずいぶんと位階が高そうだ。
そもそも神だって自分たちの未来を理解しているかどうか怪しいからな。もしも理解していたら異世界から別の誰かを呼んで助けてもらうなんて、そんな無様なことにはならないだろって話だ。
そう考えると運命観測神というのは俺を召喚した女神イブラエルよりも高位の存在である可能性が高い。
まっ、それはともあれ。
霧が自然の魔力を感じる普通の【瞑想】をするには俺がいない方がいいというのが実証されてしまったのは哀しいが、それでも【瞑想】を深めつつあるのは喜ばしい。
というわけで、夏休みは海外旅行に誘ってみた。
千鳳に銃のレクチャーをしてもらうし、ガイルの引き渡しにも付き合うし、それに別件でエロ爺と行かなければならないイベントもある。
なんとそれら全部が一ヶ所で済むというのだ。
こんなに都合のいい話はない。
「海外……話の流れだと、アメリカなの?」
「んにゃ。南の島なんだけどアメリカじゃなくてその近くの……なんていったかな、怪しげな島国」
「怪しげって……」
「まっ、おしゃれな街を観光とはいかないらしいけど、プライベートビーチでひゃっほいはできるらしい」
「それは……」
おっ、興味が出てきたみたいだ。
「今度、水着見に行こうぜ」
「わかった」
その気になってくれたようで何より。
「あっ、でもメインは豪華客船での旅だから」
「え?」
「その島に行くまでは豪華客船に乗っていくんだと。で、帰りは飛行機」
「どうして、豪華客船なの?」
「なんかその船でないと体験できないイベントがあるんだとか」
エロ爺から内容は聞いているけど、とりあえず霧には内緒にしておこう。
一転して怪しむような顔になった霧。その様子だとまだ見えていないようだが、どうせいずれは気付かれてしまうのだろう。
その間まではそんな顔をさせておこう。
霧が眠ってから書斎に移動する。というかすでに研究室と化しているけどな。
研究だけじゃなくてここで装備も作っているから、研究っていうか工房になるのかな?
まっ、なんでもいいや。
「おっ」
早速ガイルを引っ張り出して……と思っていたのだけど魔導タブレットに着信通知が来ている。師匠から連絡があったか。
錬金魔法の師匠、ファナーンだ。青水晶の調査結果が出たのかな?
「いま通じるかなっと」
コール音五回で彼女の顔が映し出された。
「は~い、イングちゃん、おひさ~」
「お疲れ。なにかわかったのか?」
「も~ちろんよ~。詳細は資料にしてまた送るけど、あれ、純粋な固形魔力物質よ」
「へ~」
「ここまで見事な凝固物は初めて見たわ。硬くなりすぎて普通の方法だと魔力に戻せないわよ」
「ふむ……」
……たしか、爺さんが聞いたのは新しいエネルギー事業だったよな?
爺さんの言い方からしてこの青水晶が関わっているのは間違いないわけだし、魔力を電力に変換して売りに出す事業があるのだろう。
ていうか、もうあるのだ。
一応はそれをしているだろう企業の当たりは付けている。パラシフォラ・エネルギーという企業だ。
とある災害で〇電がやらかしてから名前が出始めた会社だ。法の変更からいろんな起業が電力会社から電気を買って各家庭に割安で売るという行為が可能になり、パラシフォラはそこに入り込んできた。
自社でも発電施設を持ち、どこよりも安い電気料金が可能ということで他の電力会社が悲鳴を上げているらしい。
そして、こういう電力の格安化は日本だけでなく他の国々でも起こっているのだという。
なんの技術革新も起きていないのに電力の値下げが行われた。
間違いなく、青水晶の一件がこの部分に絡んでいるに違いないだろう。
そのことを話すとファナーンは興味深げに唸った。
「これを効率的に気体に戻してしかも電気に変換しているんだ。面白い技術があるものね。イングちゃん、ちょっとパクって来てくれな~い」
「簡単に言うなぁ。無理だって」
「ちぇっ」
「自分で見つけようって気はないのかよ」
「もう見つかってる技術を意地になって探すなんて時間のむ~だ~」
「たしかに」
とはいえパラシフォラに接近する伝手……はあるかもしれないが今は時間がない。
それに、青水晶の正体がわかったならその後の発電技術とかに興味はない。
「ちなみにこんなものもあるんだが」
と、俺は金剛水晶を取り出した。
「な~にそれ~?」
声はいつも通りの間延びだが、気配が一気に引き締まった。
「ダンジョンボスを倒したらこれが出てくるみたいだ。青水晶よりも高純度の魔力物質なのか、それとも……」
「もう~イングちゃんってばいつのまにそんなに交渉上手になったのかしら~?」
いや、ファナーンがちょろいだけだって。
「で、なにが欲しいの~ん?」
「ん~」
あ……やばい。
特に欲しいものがないな。
ファナーンの作る基本的な薬の類は俺でも作れるし。
とはいえ無償で、とか後で解析結果教えてくれたらいいとかは彼女のプライド的に許さないだろう。
う~ん。
あっ、そうだ。
「イングちゃん?」
「ああ、わかったよ。例の美容品でちょっと作りたいものがあるからたくさん欲しいんだけど?」
思いついたけど、材料をたくさん作らないといけないから面倒になってやめてたのがあったな。
あれの材料を頼もう。
「まっかせとき~。はい、送信完了。そっちも送っといてね~!」
「はやっ!」
ファナーンの行動の速さに呆れつつ、俺は金剛水晶を向こう側に送った。
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