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佐神亮平たちのことに付いて話したくなさそうだった。
そして赤城綺羅とかいうちびっこJKの態度。
……ちょっと、面白くないことを想像してしまう。
なので今夜はちょっと霧に意地悪をしてやろうと気合を入れるのだが、やはり最後には俺が「あへ~」となってしまう。
強い。強すぎる。
そして、そんな俺のちょっとした態度の変化を霧は見逃さない。
「もしかして、なにか勘違いしてる?」
「な、なにも~」
ビクンビクンしてるときに耳に息をかけるのはやめて欲しい。
「言っておくけど、佐神さんとはなにもないから」
「そんなこと気にしてないし~」
「あの人は強くて頼りになるけど、ああやって女の人を侍らせたがる癖があるし。それに……わかるでしょう?」
「あ、ちょっと……いまはやめようか」
「わかっていないなら、体で教えるのみよね」
「待った待った! 俺が悪かった! 悪かったから!」
「聞こえない」
その後はみっちりと、霧が何者なのか体に刷り込まれましたとさ。
そんなこんながあって翌朝。早めに朝食を済ませると目的のダンジョンに向かった。
ナビで見る限り、そこは宿泊した温泉宿から近いが、途中から車が入れないような山道になってしまう。
念のために食料を買い込んでから現地に向かい、車が止められそうなところを探すとそれらしい場所があった。かつては資材置き場でもあったのだろう場所に何台かの車が泊まり、この場に相応しくないスーツ姿が何人かいる。
「すいません、こちらはお持ちでしょうか?」
ロールスロイスでやって来た俺たちにぎょっとした様子のギルド職員がアプリの提示を求めてきたので応える。
「あの……彼のパーティの方でしょうか?」
「彼? いいや」
「でしたら申し訳ありませんが、本日こちらのダンジョンは貸し切りとなっておりまして……」
「貸し切り? どういうことだ?」
「詳しいことはアプリ内のギルド規則をご覧ください。ダンジョン攻略の項です」
やや弱腰ながらも反論を回避するようにするりと職員は離れていく。
数台の車が止まっているが、誰も職員に文句を言ったり、帰る様子はない。
誰かを待っている様子だ。
「これは……昨日あいつが言っていたことが関係しているのかもな」
亮平が言っていたギルドからの依頼でダンジョンを攻略するというものだ。
しかし、だとしたらあいつらは?
【鑑定】で軽く眺めてみるがどれもクラスは様々だがどれも公英やアヤぐらいのレベルの連中だ。
そいつらがダンジョンに入れないのにここにいる理由はなんだろうか?
なんてことを考えているとまた一台車が入って来た。たしかアルファードだったか。
「うわっ! その車、君たちのかい?」
出てきたのは亮平たちだ。
すでに装備を整えた彼らは俺たちを見て驚いている。
「まぁな」
「へぇ、すごいんだね」
「家がな。俺じゃない」
「ははは、謙遜かな」
「ふん、キラたちだってそれぐらい買えるし! ねぇ、亮平。次はキラたちも外車を買おう」
「うーん。僕たち全員乗れるんだからアルファードでいいと思うけどね。それに……」
「なにさ?」
「たぶん、これロールスロイスのファントムだから安くて五千万とかだよ」
「ごっ!」
「買えないことはないけど、要る?」
「い……要るよ!」
「ん~それだと僕たちの『愛の巣計画』が遅れるんだけど」
「ぐぐっ!」
「いい子だから我慢しようね」
「子ども扱いしないで!」
なんていうまんま子供みたいな我が儘劇場を俺はニヤニヤと見守ってしまった。
それに気付いて綺羅が顔を真っ赤にする。
「なに笑ってんのよ!?」
「面白いから」
「はぁぁぁぁぁっ!」
「まぁまぁ」
俺が煽ると亮平がさっと間に割って入る。その速さに感心する。一瞬だが見失った。近接戦闘だけでやりあったらいまのところ負けるな。
うーん、いいな。
「でも、今日はあなたたちの出番はないわよ」
そう言ったのは賢者の咲矢春だ。
「ギルド職員から聞かなかった? 今日はわたしたちの貸し切りなの」
「そういうこと。帰るといい」
淡々と結界師の遠江纏が続く。
「あいつらはなんなんだ?」
俺は遠くでこちらの様子を窺っている異世界帰還者たちを示した。
「彼らは荷物持ちと運搬屋」
纏が説明してくれる。
「一度で攻略するから予備物資を持っておきたいし、邪魔になるからドロップ品を拾っていられない。でももったいないから彼らにそれを任せる」
「なるほど」
しかし、一番の年長がこんなそっけない話し方しかできなくていいのか?
「荷物持ちとしてなら付いて来てもいいわよ」
綺羅がニヤニヤと笑って挑発してくる。
あいにくとそれに乗る気はなかった。
「んにゃ。それならいい」
Y県内にダンジョンは他にもあるし、攻略するかどうかはともかく霧のレベル上げに勤しんでみるのもいい。
新しく手に張った瞳術士っていうのがどんなものか見てみたいしな。
「それじゃ、がんばれぇ」
「な、なによ」
俺があっさりと引いたことに綺羅が肩透かしを食らった顔をしている。が、別にお前さんと遊びたいわけでもないんだよ。
「そっちも忙しいだろうしな」
「待った」
さっさと車に戻ろうとしたら亮平に止められた。
「腕に自信があるんならちょっと僕たちと勝負しないかい?」
「うん?」
「このダンジョンは場所が悪くて攻略がぜんぜんできてないんだ。だからマップも序盤しかない。で、その序盤なんだけど二股に別れてるんだよね」
「……つまり、どっちかを俺たちに行かせたいと?」
「そういうこと。無理ならいいんだけど、もしも僕たちが進んだ方が行き止まりだった場合、そちらを通るときに敵が減ってるとありがたいしね」
「へぇ、それじゃあまるで、俺たちの攻略速度がお前らより遅いみたいじゃないか?」
「これでも僕たち、ダンジョン攻略には実績があるからね」
「ふっふっふっふっふっ……」
「ははははは……」
わっかりやすい挑発だなぁ。
だけどいいさ。
レベル250の実力を見られるかもしれない。
「で、勝負って言ったよな?」
「そうだね。もし、分かれ道がどちらでもちゃんと攻略出来たら、という条件付きにさせてもらうけど。その時は攻略できた方の言うことを聞いてもらうっていうのは?」
「ちなみに、そっちはどんな条件を出す気だった?」
「僕たちのパーティに入ってもらう」
亮平がそう言うなり、周囲がざわついた。
「おいマジかよ」
「剣聖佐神のパーティに入れるってむしろご褒美じゃん」
「あの二人、そんなに強いのか?」
「いや、女だからじゃないか?」
「ああ、パーティ女ばっかりだもんな」
「たしかに、あの二人は美人だな」
「外野うるさい!」
あ、綺羅がキレた。
背中に実際の炎を背負っての怒鳴り声で野次馬たちが黙る。
だけど亮平も俺も、そんなものは気にしていない。
「それで、どうする?」
「それなら、俺の方の条件はお前が俺の下僕になることだ」
「っ!」
さすがにそれはにはニコニコ顔を貼り付けた亮平もわずかに表情を揺らがせた。
だがそれはただ驚いただけだ。
「ふうん。いいよ」
こいつの自信には届いていない。
「その条件でいいよ。でも、荷物持ちも運搬役もそっちには回さないけど、いいのかな」
「全然問題ないな」
「なら、そういうことで」
そういうことになった。
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