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全員をキャリオンスライムの内部に仮死状態で確保してアイテムボックスへと格納する。アイテムボックスに生物を入れられないのが定説だが、それだと魔法生物が格納できていることを説明できない。あるいは魂の有無が原因なのかもしれないが、それでは死霊を封じた凶魂石はいいのになぜ? となる。
とはいえ自然物としての生きた状態での生物がアイテムボックスに入れられないのは事実だ。
だが裏技も存在する。いまのように仮死状態にして魔法生物であるキャリオンスライムで包んでいると格納が可能となる。
これはこれで後遺症の有無などの検証が足りていないので貴人や要人や無辜の市民なんかにはとても使えたものじゃないが、明らかな犯罪者に使うことにはなんの躊躇も感じない。
犯罪者の人権?
そういうことは罪を贖ってから言って欲しいものだ。
とはいえ『俺が法だ』なんて言っていたらいずれは俺も犯罪者の仲間入りなので大っぴらにやるつもりもない。
結局はいまの俺も市民ではあっても無力ではないし、帰ってきてからの色々を考えると無辜とも言い難い。せいぜい司法に目を付けられないようにこそこそと生きていくとしよう。
「目立たず影に生きる。いいねぇ」
影のヒーローだなと中二魂をくすぐられてニヤニヤしつつ、立ち去る前に懐かしの温泉宿を連れて来られる寸前の状態に戻す。辰が壊したままの状態で放置していて崩壊なんてしたら後味が悪いからな。
白魔法で建物一つの記憶を引き出すのはそれなりに苦労がいるが、向こうの戦争で使われる技術として破壊された城壁を瞬時に元に戻すというのもある。とはいえ一般的な方法とならないのは巨大建築物を壊れていない状態に巻き戻すよりも、職人を使って修復した方がコスト的に楽だから、非常時の緊急手段としてしか使われていない。
だが、使われている。使える人間がいる。
それなら俺にできないはずもない。
というわけで、白魔法でさっと戻して後は知らない顔で帰る。
車は三台あったが、連れてこられたときのミニバンだけを使うことにする。村上辰のだろう高級車は目立つからな。一人を洗脳状態で引き出して家の近くまで運転させ、再びアイテムボックスに戻す。
ついでにミニバンももらっておく。
この場に放置しておいても目立つだけだし、こいつらに自首させるときに使うとしよう。
次はダンジョン攻略だが、今日はもう遅い。また明日だな。
「うん?」
静かな家に戻り部屋に入ったところでスマホを確認して、いくつかメールが来ていることに気付いた。
霧たちのパーティ用メッセージグループへの招待ともう一つはエロ爺からだ。
どうやら一人暮らしの用の部屋を見つけてくれたようだ。いまは引っ越し前のクリーニングを依頼したところで、家具にこだわりがないなら一週間で身一つで来れるようにしておくということだった。
それで頼むと返信し、シャワーを浴びてから寝た。すでに零時を過ぎている。すぐに寝て五時前に起きた。
適当な服が中学時代のジャージしかなかったのでそれを着てランニングに出る。せっかく吸い取った村上辰の気を無駄にすることもない。血肉へと変えねば。
休み休みで二時間ほど走ってゲロ吐きそうになりながら近所の公園で休憩し、仙法の呼吸で体を馴染ませる。こうしておかないと筋肉痛で死ぬことになる。
呼吸が落ち着くと体がカロリーを求め始める。
家で食事は望めない。そうだファミレスに行こう。
とはいえ中学のジャージで行くのは嫌だし汗も流したい。一度家に帰ってシャワーを浴びるとしよう。
「誰!?」
玄関を開けて入ってきた俺に母親が悲鳴じみた声で問いかけてきた。
そういえば髪を切ってから顔を合わせるのは初か?
「自分の娘の顔も忘れるとは……色々終わってるなぁ」
とはいえ驚くことでもないかとそう声をかけてから上がる。
「お、織羽なの?」
「なんだ?」
「はぁ? なにごと?」
母親の声で他の二人も出てくる。
が、相手にするのも面倒なのでそのままシャワーを浴びて制服に着替えて再び家を出ようとした。
「織羽、話がある。こっちに来なさい」
両親と妹がリビングからこっちを見ている。
「俺にはない」
腹も減っているし、俺はそう言い切って靴を履く。
「待てと言っている!」
「いまさら父親面されてもなぁ……」
「織羽!」
「あ、もうすぐここ出るから、よろしく」
「なっ⁉」
「爺さん、ボケから治ってるんで詳しくはそっちで聞いてくれ」
「…………」
「じゃあな」
唖然とする三人を置いて学校の途中にあるファミレスに入る。
モーニングセットなんてやわな物は頼まない。揚げ物とハンバーグが山と盛られたワイルドプレートを五人前頼み、ささっと食べて学校に行く。
少し遅刻した。
霧が軽く責めるような目を向けてきたが、休憩時間に近づいてくることはなかった。いきなり仲良くなるような目立つことはやめようと昨夜の内に話し合っていたからだ。
地球での時間経過では俺が異世界に行って帰って来るまではだいたい一ヶ月ほどだが、異世界では五年を過ごしている。
学校でなにを習っていたかなんてさらっと忘れてしまっていた。
とはいえ集中もあまりできていない。この後のダンジョンの方に気が向いてしまっている。
おっと、そうだ。
軽い【鑑定】なら気付かれなかったが、どこまで深く入り込むことができるかな?
あいつらの持つクラスやレベルのこともそうだし、霧の持つ占い師というものも気にはなる。
見てみるとしよう。
ネーム:瑞原霧
レベル:25
クラス:占い師
これが昨夜見た軽い【鑑定】の結果だ。
では、もっと深くしてみよう。
ネーム:瑞原霧
レベル:25
クラス:占い師
筋力:7
速力:7
体力:8
知力:25
魔力:55
運力:1000
運の力が高いな。
この数値を見ると織羽の運力25というのはそれほどではないのかもしれないと思えてくる。
だが、俺が気になっているのは数値ではなく、レベルとクラスについてだ。
まずはレベルに力を注いでみるか。
「っ!」
霧が体をぶるりと震わせた。感付いたかな?
「瑞原、どうした?」
「す、すいません。背中になにかが当たったような」
「お、おれはなにもしてねぇ!」
「セクハラはだめだぞぉ」
「や、やってないって!」
後ろの席の男子が無実の罪で涙目になっている。ごめん。心の中で謝っておく。
世界記憶からの答えが脳内に表示される。
『レベル:####支援システムに基づく能力成長機能。蓄積した経験値によりクラスを基準とした能力上昇を得る』
こんな答えが返って来た。
####支援システム?
では、クラスは?
今度は世界記憶の方に干渉するから霧はなにも反応しない。
『クラス:####支援システムに基づく役割付与機能。潜在能力を強制的に肥大化させ、それに沿った能力を与え、能力に沿った成長を支援する。####支援システムにおける根幹的存在』
では、####支援システムとはなんだ?
『エラー。検索文字は正確に入力してください』
どうやらうまく隠されているみたいだ。
霧たちが遭遇した異世界体験そのものが何かの企みなのだから、そちらで使用したものなのかもしれない。
地球でもそれが適用されているのは、俺の能力と同じように一度獲得した物を奪うことは神でもできないから……なのかもしれないな。
なら後は、クラスとやらをより細かく分析してみるか。
「むむ……」
と意識をさらに集中しクラスを構成する要素を覗き見る。
「うひゃぁっ!」
「どうした瑞原!?」
「あ、あ……背中、なにか入っていませんか⁉」
「え? おい女子、見てあげなさい」
「ええ!」
霧の悲鳴は想定内だ。
教室の前でわちゃわちゃとしていたが無視して調べる。
「ふむ……」
俺向けに用語が整理されているみたいだが、やはり、という気分になる。
俺の目から見た魔法というのは師匠の数だけ大別できる。
だが、それらの魔法をさらに細かく分けた場合、大別した他の魔法と重なっている部分がないのかというとそんなことはない。魔法という大きな輪の中に白魔法やら黒魔法やら死霊魔法やらとジャンル別の小さな輪が乱立し、それらは重なり合っている、というのが真実だ。
小さな要素の集合体が一つのジャンルであり、霧の持つ占い師というクラスにもそれが適応される。
俺の目で見ているから、というのもあるのだろうが覚えのある用語がたくさん並んでいる。
占い師というのは俺から見れば白魔法寄りの要素を多く含んでいる。世界記憶に干渉するからだろう。
だが、一つだけ判別不能の要素がある。
おそらくはそれが霧独自の才能なのかもしれない。通常の白魔法では……いや、魔法を志す者では、世界記憶から過去を見ることはできても未来を知ることはできない。
だがもしかしたら、霧の才能はそれを可能にしているのかもしれない。
「なるほど、興味深い」
それに、クラスというのもそれなりに理解できた。
後はもしかしたら、非戦闘員だと思っている霧をダンジョンに連れていけるかもしれない。
そんなことを考えていたら授業が進み、昼休憩になった。
さて、食事か。
「封月さん」
ダンッ! と立ち上がろうとしたところで机に手をかけ行く手を遮られた。
そこには額に『#』こんなマークを浮かべた霧がいた。
「ちょっと、親睦を深めるためにお昼ごはんを一緒にしない?」
「お、おう……」
うん、これはばれてるな。
しかたない。怒られるとしよう。
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