14
次の日の放課後、俺は約束通りに委員長……瑞原霧と行動を共にした。
「それで、どこに行くんだ?」
「あなたが知りたいこと」
「俺がなにを知りたいって言うんだ?」
「ねぇ、疑ってるのはわかるけど、少しは信じてくれてもいいんじゃないかしら?」
「特に仲良しでもなかったクラスメートにいきなり連れ出されて、普通はなにを考える?」
「え? それは……」
「俺なら詐欺を考える」
「もうっ!」
真面目な委員長が起こる姿は可愛い。
とはいえ、いきなりの仲間意識も困る。
「あなた、異世界帰りなんでしょう?」
「それだ」
「え?」
「どうも俺以外にも異世界帰りがいるみたいだが、だからって俺が仲間を求めてるとか思われるのは……」
「わたしが仲間が欲しいの」
「……む」
「ね、だからとりあえずわたしたち異世界帰りがどうやってこっちで折り合いをつけてるのか、知って欲しいの。それに、この間のダンジョンでの収益も分けたいし」
「…………」
「だめ?」
「わかったよ」
くそっ、こいつ普通に説得が上手いな。
霧が向かったのは学校の近くにあるコンビニだった。
中に入るとイートインコーナーでコーヒーを飲んでいる女性に声をかける。
めがねをかけた『できる女』みたいな雰囲気の女性だ。
「アヤさん」
「あ、霧ちゃん。そっちの子?」
「はい」
「え? ぜんぜんサダコじゃないよ? ていうかすっごい美人さんだけど、うわぁ」
「こちらが柴門アヤさん」
「そこの大学に通ってるんだよ。よろしくね」
「で、こちらが封月織羽さん、クラスメートなの」
「どうも」
「詳しい話は移動しながらしよっか。あれが私の車ね」
そう言うとコンビニを出て、駐車場に置いてあった軽自動車で移動する。
「ねぇ? あなたって異世界から帰って来た、でいいのよね?」
車を運転しながらアヤが聞いてくる。
「そういうあなたは?」
「ええ、異世界帰りよ」
素直だなぁ。
「腹の探り合いとかする気はないのか?」
「異世界帰りじゃない人がこんなこと気にしてどうするの? 頭おかしいと思われるだけじゃない? あなただって、私たちと出会わなかったらそんなこと気にする気もなかったでしょう」
「…………」
「悪いけど、あなたがいま考えているようなこと、私たちはとっくに考え終わっているから。先輩なの」
「異世界帰りの先輩ってなんだよ」
「本当にね」
俺が頭を抱えると二人が笑う。
「……それで、どこに向かっているんだ?」
「換金できる場所」
「ダンジョンで手に入れたものはそこじゃないと換金できないから」
「他でも売れたりするかもしれないけどそこらの質屋や宝石商とかだと高値は付けてくれないからね」
「なるほど」
この間のダンジョンがああいう風に現れたり消えたりしているのなら、いずれまた出くわすこともあるかもしれない。
そのときに無駄な努力にならないのはいいことかもしれないな。
それに、この二人もそれなりに線引きして会話をしているような気がする。
なにしろ、いまだにどちらも俺の能力とか異世界でなにをしたのかとかいうことは聞いて来ない。
戦いになった時のことを考えているのだとしたら抜け目がない。
「それで、その場所の名前はなんていうんだ?」
「冒険者ギルドよ」
「はぁ?」
そのビルには本気で『冒険者ギルド』という看板が掛けられていた。
一階にはオタク向けのアニメ専門店やグッズ店などが軒を連ね、二階には本格派のメイド&執事喫茶があり、三階は海賊酒場、山賊酒場、冒険者酒場という居酒屋とバーがある。
ここまでは異世界に行く前の俺も知っていた。
テレビで紹介されたこともあるし、俺自身がラノベ読みなので一階と二階には行ったことがある。三階も成人したら絶対に行こうと思っていた。
……ということを思い出して懐かしみたいのだが、まさかそのビルの裏口に専用のカードがなければ使えない隠しエレベーターがあるとは知らなかった。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ」
エレベーターを出ると役所の待ち受けのような場所だった。
「ここはファンタジーじゃないのか?」
「え? まだあっちの雰囲気が欲しい?」
「いや、私はもういらないなぁ」
当たり前のような顔をされてしまい、俺は微妙な気分になる。
異世界物だと冒険者ギルドは当たり前っぽいけど、俺が行った世界って実はなかったんだよな。
だから、ちょっとだけ憧れがあったんだが……残念だ。
「さて……あの受付で換金とか帰還者カードの申請とかをするんだけど、どうする?」
霧は俺の前に立ってそう言った。
「どうするって?」
「あなたがここでカードの申請をするかどうか。するなら、車で説明したメリットがある。でもあなたがそうだっていうことが多くの人に知られてしまうことになる」
「……ここまで連れてきといてそんな脅しみたいな言い方はないだろう?」
「ごめんなさい。でも、一応は確認をしないと」
ほぼ問答無用で連れてきといて……と言葉にはしてみたがそこまで嫌がっているわけでもない。その程度のリスクはすでに考慮している。
それに昭三のエロ爺の話を聞いた時から異世界帰還者たちを利用した事業が存在しているのだろうことは想像していた。
こんなに早くそれと接触できたことは、むしろ幸運な方だろう。
「いいよ。登録する」
「ありがとう。なら、行きましょう」
ほっとした顔の霧に案内されて受付に移動する。
「すいません。帰還者登録をしたいのですけど」
「はい。どちらの方でしょう」
「あ、彼女です」
「はい。それならこちらの用紙に記入をお願いします」
名前とか住所とかの普通な記入用紙だ。
あ、家族には秘密にしているのか? みたいな質問欄もあるな。
個人情報に関する部分も名前(通称可)とかだしあまり重視していないのかもな。異世界帰還者であることが重要で、細かい情報はいらないのか?
……と思わせといて裏できっちり調査する、みたいなことはしてるかもな。
あ、いま誰か俺に【鑑定】を使った。反射で妨害したが、これ役所の人間が裏で使っている可能性があるか?
まぁいいか。見せないでおこう。
そんな感じなので記入用紙の名前はイング・リーンフォースにしておいた。
「なにその名前?」
「向こうでの俺の名前」
「え? 自分で名乗ってたの?」
「あっちが勝手に名付けたんだよ」
馬鹿にした感じで笑うアヤを睨んでおき、記入用紙を返す。
それからしばらく待っているとカードが渡された。
「はい。ではカードをお渡ししますね。後、こちらのQRコードからアプリをダウンロードしていただけますと、臨時クエストなどの情報をいち早くお知らせすることができますのでよろしければどうぞ」
「それだけ?」
「はい。ギルド内の詳しい説明はそのアプリでご確認ください」
なんだか投げ槍だな。
「ほら、次はこっちに」
と今度は奥にある広い空間に連れていかれる。
「お、やっと来たな。って……え?」
奥にあるベンチから男が一人やって来る。
「誰だそれ?」
と俺を指さすその声には覚えがある。
「もしかしてあの時のヘルメット君か?」
「誰がヘルメット君だ!? って、え? その声……ていうことはお前、あんときのサダコか!?」
「誰がサダコか」
「え? うお……おお……」
「うわっ、ソードってばビビってる」
「ビ、ビビッてねぇ!」
ソード?
呼び名か?
「よろしくなヘルメット君改めソード君」
「ぐっ、お前……」
「ちなみにこの子の名前はイングちゃんよ」
「なんだその名前」
「いや、ソードよりはカッコイイと思う」
「なにを!」
「はいはい。さっさと買取してもらって移動しましょ」
霧の仲裁で無駄話をやめると、買取所のやり方を見せてもらった。
ちなみに、例の青い石は百万円で売れた。
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