125(2,999歳)「私が魔王の従魔になって人族を虐殺する話」

「閣下じゃないですか!」


「あ、ホントだ」


「お久しぶりです!」


 ロンダキルア辺境伯領城塞都市のじたくの中央広場に行くと、なじみの精鋭従士さん2名と軍人さん1名の組み合わせに出くわした。

 私はにこっと微笑みかけ、からのぉ一閃!!


「「!!」」


 ひとり――軍人さん――は脳みそを輪切りにした。

 隣のふたり目まで斬れると踏んでたんだけど、それは従士さんの【物理防護結界】に阻まれ、もうひとりの従士さんが即座に【瞬間移動】で姿を消した。


 あはは、鍛えられてるねぇホント。鍛えたのは他ならぬ私なんだけどさ。


【思考加速】1000倍、【闘気】全開、【未来視】オン!


 精鋭従士さんは1分ほどもったけれど、私の剣とニードル魔法の雨あられに耐えきれず、【魔法防護結界】がおろそかになったところで私にエクスカリバーを収納で奪われ、脳みそを輪切りにされた。


 準備運動は万端だ!

 次は本丸。


「アリス!?」


 人族最強、【王国の守護者】ジークフリートパパンだ!

 多数の精鋭従士さんたちと一緒に現れた。さっき仕留めそこなった従士さんも一緒だ。


「いや――魔王に従魔化させられている!」


 あはは、せいかーい。

 やっぱりパパンは戦闘のセンスがいい。戦いのこととなると、ホント頭がよく回る。


「総員戦闘態勢! こいつを全力で殺すぞ!」


「「「「「はっ!!」」」」」


 そして死闘が始まる。私はパパンの剣を受けつつ、従士さんたちの剣を【物理防護結界】や【瞬間移動】でかわし、彼らの攻撃魔法をレジストしていく。

 とたん、砦の広場は火の海になる。


 精鋭従士さん以上のレベルになると、【首狩りアイテムボックス】が効かないんだよね。

 しかも彼らの大半は【エクストラ・ヒール】が使えるから、決め手に欠ける。

 なので結局、相手の魔力枯渇を狙う形となる。


「――アナタ!?」


 数分ほど斬り結んでいると、ママンが現れた。


「何? いったい何をしているの、アリスちゃん!?」


「こいつは敵だ、マリア!」


「そんな、どう見たってこの子はアリスちゃん――」


「現実を見ろ! お前はホーリィ様たち、残りの戦力を集めて連れて来い! アリスさえ殺せば【ロード】されるんだ! 全力でる!!」


 視界の端、ママンは唇をぎゅっと結んでから、【瞬間移動】で姿を消した。

 なぜだろう? 胸の奥がチクリと痛む。まぁいいや、人族殺さなきゃ絶対。


 ほどなくして、ママンとディータ、ホーリィさん、バルトルトさん、トニさんアニさんジルさん、ノティアさん、リスちゃんと残りの精鋭従士さんたちが合流。

 敵は硬さを増し、戦いは三日三晩続いた。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ひとり、またひとりとかつて親しかった人たちを殺していき、心の中に塵が降り積もっていく。

 ノティアさんの脳天を勝ち割った瞬間の、ノティアさんの絶望の顔。

 ジルさんを殺した時の、アニさんの怨嗟の表情。

 リスちゃんを仕留めた時の、リスちゃんの狂乱の笑み。

 バルトルトさんを殺した時の、慈愛に満ちたバルトルトさんの目。

 他にも、親しかったはずの従士さんたちをいっぱいいっぱい殺した。


 殺す度、心の中に塵が降り積もっていく。塵が、みんなとの大切な思い出を覆い隠していく。


 そして、


「いやぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああぁぁああああああああああああああああ!!」


 パパンの亡骸なきがらを抱きしめながら泣き崩れる、ママン。

 あ、あはは……敵を前にして戦いを放棄するとか、悪手も悪手だよ、ママン。

 私はママンの背後に【瞬間移動】し、ママンを脳天から両断する。


 ……………………さて。

 広場にはかつて人間だった肉片が散乱していて、足の踏み場もない。


「…………【フルエリア・探査】」


 砦に、生きている人はいない。

 軍人さんたちは取り逃がしたな。ディータとホーリィさんも、殺した記憶がない。


 城塞都市に出るも、人っ子ひとり見当たらなかった。

 まぁ、レベル100の領民たちだものね……3日もありゃ全員避難するか。

 

 され、魔王様からのご下命通り、西に向かおう。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 順番に、街という街、村という村を【極大落雷】で焼き滅ぼしていった。

 宿場町は無人だった。川辺の街も。

 川辺の街を超えたあたりから、【瞬間移動】も【飛翔】も持たない脆弱なやつらをちらほら見るようになった。


「りょ、りょ、領主様……っ!!」


 彼らは一様に、怯えた目で私を見た。


「お、お許しくだせぇ! これからは罪を償い、品行方正に生きますから!」


 彼らは【瞬間移動】も【飛翔】も持たないから、徒歩で逃げるしかない。

 そして彼らが【瞬間移動】も【飛翔】も持たないのは、私が領民パワーレベリングの場にご招待しなかったからだ。


「あはは、罪って何のこと?」


 私はエクスカリバーを抜き放ち、目の前で土下座している強姦魔に尋ねる。


「無抵抗な女児を狙って行為に及ぼうとしたことです!」


「あぁ、なるほど」


 我が領では5歳児以上はみなレベル100なわけで。イタズラしようと思うと、4歳児以下相手にするしかない。

 よもや私も、領民パワーレベリングの結果がペドを量産するとは夢にも思わなかった。エロ本やエロDVDでも流行らせた方が、まだマシだよね。

 でもまぁ、今となってはどうでもいい。


「別に気にしてませんよ? 人族同士でつぶし合ってくれて、ありがとうと言いたいくらいです」


「だ、だったらなぜ……」


「そりゃあなたが人族だからです。さようなら、薄汚い人族さん」


 エクスカリバーを振り下ろす。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 領都では、腕に覚えのあるらしい高レベル領民らからの反撃を受けた。

 初手【極大落雷】で都中と焼き尽くしたというのに、それに耐えて反撃してきた人が多数いて、驚いたよ。


 そうして、私は西へ西へと進んでいく。

 人族を見かければ殺し、街や村を見かければ焼き滅ぼす。

 夜が来て、夜通し虐殺し続けて朝が来て、そしてまた虐殺した。


 殺すたびに、また一段と、心の塵が積もり積もっていく。思考が鈍化していって、ただただ機械的に人族を探し、見つけ次第殺す装置と化していく。


 人族の悲鳴、血の色、肉の音……。

 早く終わらさなきゃ。魔王様に褒めてもらうんだ。それだけが、私の生き甲斐なんだから……。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ふと気づくと、やたらと豪華な部屋で剣をふるっていた。

 目の前の男剣士がやたらと強い。【思考加速】1000倍、【闘気】全開、【未来視】オンで戦ってるのに、全然勝てない。


 なんか見覚えあるなぁ、この男。あと男を魔法で支援してる男女も。

 誰だったっけ? まぁいいや、どうせ殺すんだから。






「アァァァァリィィィィィスゥゥゥゥゥッ!!」






 目の前の男が剣をふるいながら大声を上げた。

 うるさいなぁもう。

 けど、なんだかとても懐かしい声。何百年、何千年と聞いた――


「っ!!」


 脳の奥がガチンッと痛んだ。

 思わず剣を取り落とし、崩れ落ちる。

 私と戦っていた男が私を抱き留め、私にキスしてきた!


 ちょちょちょっ、私にはフェッテン様という大事な相手が――


「っぷは! フェッテン様!?」


「アリス!!」


 戦ってた相手はフェッテン様だった!!

 そして、背後にはディータとホーリィさん。


 周り――王城、謁見の間は血の海だった。陛下と宰相様のご遺体もある。


 殺した。私が殺した。パパンもママンもバルトルトさんもトニさんもアニさんもジルさんもノティアさんもリスちゃんも従士さんたちも、たくさんの領民さんも甲国民さんたちも、王都で迎え撃ってきた軍人さんたちも。

 陛下と宰相様も。


 そして今、フェッテン様さえ手にかけようとしていた。

 フェッテン様の両腕には服や鎧がない。いったい私は、何度その腕を斬り飛ばしたのだろう……。


 血の気が引き、【闘気】と【物理防護結界】、【魔法防護結界】が解けた。


「フェッテンさ……あぐッ!?」


 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ人族は全員殺せ!!


 そ、そうだ、こ、殺さなきゃ、人族は殺さなきゃ……ッ!!


「フェッテン様、私、もう――…」


「分かってる。また逢おう、アリス」


 優しく微笑んでくれるフェッテン様が、

 エクスカリバーを振り上げ、


 ――そして。






*************************************************************

追記回数:26,044回  通算年数:2,999年  レベル:5,100


次回…………。

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