118(2,999歳)「政治と歴史を語る」

「まずヨーロッパにせよ私の故郷・日本にせよ、初期は小さな集落をまとめる豪族たちが争い合ったり同盟を結び合ったりする封建社会なわけですよ」


 魔の森別荘で、フェッテン様相手に地球の歴史を元にした政治形態講座。


「ふむ」


 コクリとうなずくフェッテン様。可愛い。


「で、王権が高まっていって上手く中央集権化が進められれば、絶対王政の時代が来るわけです。アフレガルド王国は初代国王たる勇者様の権威で、魔王国は魔王による全国民の【従魔テイム】で、この絶対王政社会の時代にあるわけです」


「なるほど」


「で、絶対王政の元、領主同士の小競り合いが減り、国が力をつけ、周辺国との力の均衡が成立して平和になり、交易が進むと、今度は平民が力をつけ始めるわけです。とりわけ職人さんが元気になって新発明なんかを連発させるようになります。前々世この世界ではルネサンスとか言ってました。アフレガルド王国では全部私が出しちゃいましたが」


「なるほど、そなたが4、5歳の頃に世に出した発明品の数々が、この王国における『るねさんす』なわけだ」


「はい。そうして平民――とりわけ商人がお金を手に入れ出すと、大店が大きな土地と大量の人員を用意して、より大きな商いを行うようになります。資本主義の始まりですね。王国では、ある意味私が資本主義の急先鋒かもしれません」


「いろいろ売ってるものなぁ……」


「あはは……で、資本主義のもとで裕福ブルジョワな人が増えていくと、そういうブルジョワジーが疑問に思い始めるわけです。『王侯貴族めいっつも偉そうにふんぞり返りやがって、理不尽じゃね?』『俺らでも案外勝てるんじゃね?』って」


「…………そ、そうなるのか? いや、うーん……そうか、そうなるのか」


「まぁ実際、地球の『フランス革命』なんかはその典型例でした」


「じゃあアリスが商人たちを率いて王城に攻め込むのか?」


「あはは、かく言う私がお、お、王妃として王城に住んでるのに?」


 言いつつ顔が赤くなってきた。き、キスとかしたい気持ちになってきたけどディータがいるから我慢だ我慢!


「チビ!」


「わふっ」


 部屋の隅で寝っ転がっていたチビがそばに来たので、


「スーーーーーーーーーーーッ!! ……ふぅ」


「ふぅじゃないが」


「あっこれは失礼を。で、王侯貴族の支配が終わり、裕福層ブルジョワジーによる支配が始まるわけですけど、そうなると今度は、ブルジョワジーにこき使われる労働者階級プロレタリアートが不満をため込むわけですね」


「あっ、なんか展開が読めた気がする」


「はい。プロレタリアートのプロレタリアートによるプロレタリアートのための国。みんなハッピー! 同志はみな兄弟! 支配者なんて要らねぇ! お金も食料もみんなで平等に分け合いましょう! っていう思想が、共産主義です。厳密には社会主義の中の一派であって、共産主義の中でも共産性の違いでいろいろ内ゲバ自己批判やってるみたいですけど」


「みな平等?? 為政者のいない社会?? そんなものが成立するのか? というか、そんな理想郷のような『某共産主義国家』がなぜ、国民の通信内容を検閲したりするんだ?」


「理想郷だからですよ」


「?」


「り・そ・う・郷だからです。現実には、選挙という名の出来レースで選ばれた『同志』が敵対勢力を謀殺しまくったり、平等なはずの国の指導者がなぜか世襲されたり、本来存在しないはずの『特権階級』が贅沢の限りを尽くすかげで何人もの国民が餓死したり、そんな政治に反対して集まったデモ隊が戦車に轢かれたりしてました。そんなんだから、秘密警察が必死になって国民の動きを監視し続けていないと国としての体が保てないわけです」


「なるほどなぁ……いやぁ、勉強になったよ。この話、父にしてもいいか?」


「もちろん」


「しかし結局、どういう政治形態が一番国として安定するんだろうな……私は今まで、王政以外の政治形態なんて考えたことがなかったよ」


「それなんですよねー……いや、ホントにどれも一長一短なんですよ。まぁアフレガルド王国に関していえば、今現在は陛下が極めて善政を敷いておられるので、かなり成功している部類だと思います――偉そうな物言いになっちゃってごめんなさい。逆に魔王国は、魔力を多く持つ人にとっては楽園で、魔力を持たない人にとっては恐怖政治社会そのものでしょうね」


「ふむ……」


「アフレガルド王国は、陛下やフェッテン様、そして私たちのこ、こ、子供、とか孫とかが善政を敷き続ける限りは、たぶん大丈夫だと思います。国を興した初代勇者と、国を守る予定の次代勇者である私の権威は長く続くと思いますし。でも、王侯貴族が腐敗したら、なまじルネサンス済なために、一気に市民革命でしょうね……」


「そういえば、アリスの前々世――日本という国の政治形態はどうなんだ? 参考にしたいんだが」


「ダメです! ぜぇったいに止めといた方がいいですよ!」


「なぜ?」


「だって弱肉強食を地でいくこの世界で国軍を持たないなんて、植民地にしてくださいって言ってるも同然じゃないですか!」


「は? 国が軍を持たない? そんなことしたら魔王国軍に攻め滅ぼされて終わるが」


「ですよね!」


「なぜに?」


「ものすっごい大きな戦争で敗戦国になりまして……戦勝国筆頭から、2度と戦争できないように軍を解体されたのです」


「あぁ……なるほど」


「でもしばらくすると日本の近くで戦争が始まって、その戦勝国筆頭から『警察予備隊』という防衛専門の軍を結成するように命じられまして」


「なぜに?」


「さぁ……自分の身は自分で守れってことじゃないかと思います」


「そりゃそうか」


「で、少なくとも私が死んだ時点では、その戦勝国筆頭と同盟を結んで、戦勝国筆頭が持つ【流星メテオ】以上の威力のある超兵器の抑止力のもとで、何とかかんとか生き延びてましたね。周辺国からは結構領土をむしり取られてましたけど」


「【流星メテオ】以上の威力!?」


「あっはい。敵対している国同士が多数保有してて、片方の国が撃ったら報復にもう片方も撃つぞ! っていう脅しで、世界平和が保たれてる感じです」


「は、ははは……なんとまぁ……っと聞き逃すところだったが、周辺国から領土むしり取られてちゃダメだろう!?」


「ですよねぇ。日本にいた頃の私は、『いいじゃんそのくらい。ってかそれよりこの不況をなんとかしてよ』とか思ってたんですけど、この世界に来て【勇者】になって魔物たちから街や村を守ったり、領主になって紛争で領土をむしられかける経験をしたり、魔王国との戦争を経験したりして……かつての自分の異常な考え方に驚かされましたよ」


「軍備の増強を進めなかったのか?」


「いやぁ、反対意見が多くって」


「あぁ、そもそも軍を解体した戦勝国筆頭か?」


「いえ、その国はむしろ、『もっともっと軍事費を増額しろ! 自分の身は自分で守れ!』って言ってましたけど」


「え、じゃあ誰が反対するんだ?」


「国民が」


「は?」


「最新鋭の飛行機を配備したら、『もし運転を誤って民家に落下したらどうするんだ』って言って」


「あ、あぁ……まぁ一理あるとはいえるが」


「飛行妨害のために風船飛ばしたり」


「はぁ!? それが原因で運転を誤って落下したらどうするんだ!?」


「さぁ? 本人らはいたって平和的な活動のつもりなんですよ。それで墜落して人死にが出たら殺人行為ですけどね。

 あとは仮想敵のミサイルを迎撃するシステムを基地に導入しようとしたら、『そんなもの導入したら、相手がミサイル撃って来るだろ!』って」


「???????? いや、『みさいる』とかいう兵器を撃ち込まれる危険性があるから、防御のための設備を導入するのだろう? 何が悪いんだ?」


「……さぁ? まぁでもテレビも新聞も学校の歴史の授業も、おおむねそんな感じでしたね」


「やばいんじゃないのか、そなたの故郷……間諜の女スピオーネによる離反工作どころの話じゃないのでは?」


「ま、でも今はもうアフレガルド王国が故郷ですし、私が一番守りたいのはフェッテン様ですし、考えても仕方ないことですしお寿司」


「割り切っているなぁ……」


「そのための、女神様より授かりし称号【能天気】!!」


「あはは……」


 ってことでネットワークも手に入れた!

 アリソン・コンサルティング社の次なる一手、とくとご覧あれ!!






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追記回数:26,042回  通算年数:2,999年  レベル:5,100


次回、四天王とバトる!


※アリスの考え方は、ゲームと小説と漫画と仕事にしか興味のなかった日本のOLが、「弱肉強食! 暴力万歳! 弱者は搾取されて死ね!」な異世界に放り出され、国境沿いを敵国から守る領主兼国防の要である勇者に就任したことで、上記のような考え方へと変わっていったというお話ですので悪しからず。

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