101(2,974歳)「私は高い女よ?」
「とっとと入れ!」
背中をガツンと蹴られて、粗末な牢屋に放り込まれる。痛いなぁ、こちとら数千12(+3)歳の『美』少女だぞ!?
四天王最弱さんことアデスさんから教えてもらった魔王国知識その1『奴隷制度』。
この国では、成人の際にある程度以上の魔力がない人は屑魔石に加工される。
でも、生き残るすべもある。方法は2つ。
1つ、アデスさんのように、魔法以外で一芸に長けていること。剣でも技術でも芸術でも科学でも。まぁそれでも蔑まれながら生きることは変わりないらしいけど。
で、もう1つが『奴隷制度』の話につながる。そう、奴隷落ちすれば生き延びられるってことなのだ。
ただこれをすると、その人の一族郎党まで蔑まれる対象になるので、天涯孤独な人や、家族によっぽど愛されている人でもない限りは、基本魔石になるそうな。
あとは、魔石になるのは、魔力が少なく国に貢献できないはずのその人が、それでも国のために命を捧げたという、名誉なこととして受け入れられるらしい。ホント、強くなければ生きていけない、優しいだけでは生きてる資格すら得られない、覚悟ガン決まりの修羅の国だよね……。
それだけに、奴隷への風当たりは強い。
で、無事奴隷ではなく真人間として成人を迎えられた魔族には、『国民カード』が配られる。
つまり、『国民カード』の存在すら知らない――振りをしている――私は、事情はどうあれまず間違いなく奴隷身分ってことになるわけ。
とりま、このノミだらけの布団と、カビだらけの壁と、錆びだらけの鉄格子を綺麗にしますか。
汚れやノミを【アイテムボックス】からのぉ【スーパー・ホットシャワー】からのぉ――
◇ ◆ ◇ ◆
「な、ななな……!?」
数時間ほどしたら事務方っぽい感じの人がやって来て、驚きの声を上げた。
「え、衛兵殿、この牢屋は、最初からこんなふうだったのかね……?」
「い、いえ、そんなはずは……ほら、隣の牢と同じようなものだったはず」
まぁ驚くのもムリはない。キラッキラに磨かれた地面、壁、天井、鉄格子。地面には絨毯が敷かれ、私は綺麗にしたベッドの上にふっかふかのフェンリル布団を取り出して寝転がってた。
最初からあった布団は綺麗にした上で、部屋の隅に置いておいたよ。
「き、貴様何を食べているのだ……!?」
「ドラゴンの串焼きです。事務方さんも1本いかが?」
虚空からほかほかの
「【アイテムボックス】……時間停止機能付き……ということは、この牢屋を綺麗にしたのは、君かな?」
おっと、さっそく私の魔力を図り、奴隷じゃない可能性を考え始めている事務方さん。『君』呼びになっとる。
そしてその背後にいる衛兵さんが、時間停止機能付き【アイテムボックス】という聖級【時空魔法】使いである私をさきほど蹴飛ばしたことに、顔を青くしている。
こちとらフェッテン様始めチーム・アリスを何度も殺されて怒り心頭なんだ。
せいぜいおちょくらせてもらうよ?
◇ ◆ ◇ ◆
「年齢は」
「15歳です」
「名前は」
「アリソン」
取調室で、事務方さんっぽい人に事情聴取される。入り口をふさぐように立っているのは、緊張気味の表情の衛兵さん。
「住居は?」
「ここから北の、山脈の麓に住んでます」
「親は?」
「いません」
「親族は?」
「おじいさんとふたりでずっと暮らしてましたけど、先日亡くなってしまって……」
「それまで、この街に来たことは?」
「ありません」
「選別は受けなかったのか?」
「せんべつ、って何ですか?」
「…………なるほど」
天を仰ぐ事務方さん。
「魔族は皆、満15歳になる直前に選別の儀を受け、その後の『生き方』を決めなければならない」
含みのある言い方したけど、魔石になるのを『生き方』って言うのか……?
「理由はどうあれ君は大罪人。とはいえ魔力と魔法力は相当なもののようだから、情状酌量の余地はある」
アデスさんから教えてもらった魔王国知識その2『魔力絶対主義』。
選別逃れという、いわば非国民ともそしられかねない大罪を犯したとしても、魔力が高いなら許される……それが魔王国らしい。
今まさに私が行っているこの潜入劇は、アデスさんにも監修してもらっている。
「情状酌量?」
「私では裁量権が足りないな。領主様の判断を仰ぐから、3日間ほど待っておくように」
◇ ◆ ◇ ◆
ってことで、2.5日間牢屋の中でのんびりした。
出てくる食事は結構良かった。私の魔力と魔法力を知ったから良くなったのかもしれないけど。
そうそう、ハムエッグにたっぷりの胡椒が利いていたのはとっても嬉しかったよ!
ビバ・数千年ぶりの胡椒ちゃん! 懐かしくて思わず涙が出ちゃった。
デザートにチョコレートまで出たよ。カカオは絶対ゲットしてやるからな!?
で、アデスさんから教えてもらった魔王国知識その3『政治制度』。
ま、アフレガルド王国と同じだよ。絶対王政に近い封建制。各領地貴族は己の領地での全面的な裁量権を持ちつつ、魔王への貢物と軍事行動への参加の義務を負う。
各領主は己の領地において立法と行政と司法の三権を持ちつつも、『とある事柄』に関してだけは、魔王が絶対的権限を振るう。
それが、『人族殺さなきゃ』案件だ。戦争とか謀略とかだね。
アデスさん曰く、100年前、先代魔王が魔の森で指揮を執っていたものの、歳による衰えで世代交代を決意し、まだ幼い当代魔王を魔の森まで呼んで『魔法神の使徒』という【契約】を当代魔王へ継承した。
こっからはホーリィさんの話とも被るんだけど、とにかく幼くって当代魔王がわちゃわちゃしてた時に
でもちょうど100年経った時に『光の玉』の耐久が限界を迎え、魔王が復活したのだそうな。
で、復活して早々の3日後、全ての準備を終えて
いやぁ3日と2週間で数万の軍勢を組織し、からのぉ【
で、2.5日経過の昼下がり、再び事務方さんがやって来た。何やら高級そうな【隷属契約】書を携えて。
あと後ろには羽振りのよさそうなおじさんがいる。
「君は奴隷落ちだ」
事務方さんが疲れた顔をして言った。2.5日で根回ししてくれたんだ。いろいろと動き回ってくれたんだろうね。
「この【隷属契約】書にサインと血液を」
血液を出させるための針の横には、ご丁寧にも消毒用のアルコールと脱脂綿、そしてバンソーコ。やはり魔王国は進んでいるようだ。
契約書を読むと、魔法職または文官としての奴隷。肉体を酷使する必要がなく、危険も伴わない仕事で、雇い主から不当な扱いを受けたら奴隷商に訴え出て雇い主を変えてくれるとのこと。
通称『高級奴隷』というらしい。なんだよその不思議な単語は。
私がサインして血液を垂らすと、【隷属契約】書がぱぁっと輝く。
「このたびは素晴らしい商いができ、本当にうれしいことでございます」
恰幅のいいおじさんが、事務方さん相手にもみ手でそう言う。
あぁ、この人が高級奴隷商ってわけね。
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追記回数:26,042回 通算年数:2,974年 レベル:5,100
次回、アリスのご主人様が決まる。
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