89(2,930歳)「2,956年目のファーストキス」

 ……おぎゃあっ、おぎゃあっ……


 ………………………………死んだ、のか。まぁ、我を失って全魔法を切った私だ。簡単に追撃されたろうさ。

 …………とりま、魔族先遣隊へ陛下以下精鋭で吶喊とっかんを仕掛ける直前のセーブポイントへ【ロード】。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「……ん? どうしたんだ、アリス?」


 怪訝そうな、フェッテン様のお顔。

 ちょうど、フェッテン様が私を抱きしめるために近づいてきたところだった。


「フェ、フェッテン様……」


「どうした!? 顔が真っ青だぞ!?」


 ……生きてる。生きてる生きてる生きてる! フェッテン様が生きてくれてる!!

 涙が、あふれてきた。


「フェッテン様、フェッテン様ぁ……」


「大丈夫、大丈夫だアリス。そなたのことは私が守るから」


 たくましい胸板に抱きしめられる。


「違うんです」


「大丈夫だ」


「そうじゃなくて!」


 顔を上げると、フェッテン様の愛しい顔。私のことを安心させようと、微笑んでくれてる――


 胸が熱くて、苦しくなった。どうしようもないほどの愛おしさがあふれてきた。


「アリ――んっ!?」











 思わず立ち上がり、フェッテン様の唇にキスしてしまった。

 唇と唇が触れ合う程度の、キス。生まれて初めての――。











「あ、そ、その……ご、ごめんなさいぃ」


 慌てて口を離す。


「――アリス」


 乱暴に抱き寄せられ、フェッテン様からの熱烈なキス!!!!

 舌まで入れられて物凄く吸われた。


 頭がぽーっとする。けど、凄い勢いで癒されていくのが分かる。

 どうしようもないこの状況下で、とても大きな心のよりどころができたように思える。


 魔王討伐が叶ったら、フェッテン様と結婚しよう。

 王妃としての生活はそりゃ大変かもしれないけど、なぁに私には【ふっかつのじゅもん】があるし【1日が1000年にワンサウザンドなる部屋・ルーム】もあるし実績もある。

 毎日フェッテン様とイチャイチャして、こ、こ、子作りなんかもしちゃったりなんかして……。


 きっと幸せな毎日だ。違いない。

 つらいのは、今だけ。


 大丈夫。きっと、大丈夫。


「……っぷは! ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」


 ようやくフェッテン様から解放されて、息も絶え絶えな私。

 フェッテン様、ちょっとオロオロしてて(可愛い!)、


「す、すまない!」


「い、いえ」


「だがどうしたんだ? つい先ほどまで普通な様子……だった……の、に……まさか」


「フェッテン様が、し、し、死にました……」


「………………………………あぁ」


「あの、お願いがあるんです」


「…………なんだ?」


「このあと、魔王国の軍勢が現れます。私が初手【アイテムボックス】と【極大落雷】でほぼ壊滅させますが、1人だけ、物凄く巨大な魔族が生き残って、私に襲いかかってきます。フェッテン様は、その時に私をかばって、し、死にました。だから――」


「次もかばうぞ」


「――…」


 有無を言わさない声だった。


「当然だ。私はそのために、ここにいる。そのために今、生きている。前世で死にゆくそなたを抱きしめたあの日から、とっくに覚悟は決まっている。たとえそなたが何百回何千回やり直そうが、私がそなたより先に死ぬことなどありあえない」


「でも――」


「そなた、【ロード】できるのを知っているにも関わらず、そんなになるほどのショックを受けたのだろう? こんなことは言いたくないが……【ロード】のことを知らずに、死にゆくそなたの体を抱きしめていた私の気持ちが、分かるか?」


「うっ……」


「お願いだ、アリス。――守らせてくれ」


 涙があふれる。どうしようもない嬉しさと、愛する人を苦しませるつらさとで、胸がぐちゃぐちゃになる。


「わ、わ、私、フェッテン様をこれから何度も何度も何度も何度も死なせてしまうと思います……ごめ、ごめんなさい! でも絶対に、誰も死なないで済む未来を掴み取って見せますから! ごめんなさいぃ」


「大丈夫だ。なぁにそなたのためなら、何百回何千回だって死んでやるさ」


「フェッデンざばぁ~~~~ッ!!」


「あはは、相変わらずそなたは泣き方が汚いなぁ」


 なんだかとてつもなく失礼なことを言われている気がするけど、まぁ愛情表現だと受け止めよう。

 ひとしきりフェッテン様の胸の中で泣いて、数分くらい? 経ったところでようやく冷静になってきた。


「――って、ああ!!」


 魔族先遣隊へ吶喊する直前っていえば!!


「んぉ、なんだアリス?」


 慌てて周囲を見回すと、ニヤニヤ笑いでこちらを見守る人たちや、もらい泣きをしている人たち。そして能面のような顔をしているパパン……。


「ちょちょちょ、今のなし! 今のなーし! ろ、ろろろ【ロー」


「やめろ魔力がもったいない!」


 陛下から制止の声。ニヤニヤ笑いながら、


「どうせ結婚したら毎日そんな感じになるのじゃ。恥ずかしがることもあるまい」


「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」


 どこまでも、シリアスになり切れない私たちなのだった。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「というわけで、アリスの精神的限界が来るまで試行してみよう。フェッテンや儂なら何度死んでも構わん」


 陛下の、とてつもなく遠慮のないえげつないご発言。

 引きつり笑いを浮かべる私。


「辛いだろうが、耐えてくれ」


 座る私の後ろに立っているフェッテン様が、肩を抱きしめてくれた。


「…………はい」


 フェッテン様の手をにぎにぎしながら、なんとかそう答えた。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ってなわけでラウンド2!! やるぜやるぜやるぜ!!


 陛下以下14名に『いのちだいじに』しつつ魔族の【時空魔法】特化たちをけん制してもらい、結果はやはり、前回と同じく軍勢が現れる。

 で、国内を荒らし回っていた飛行系魔物たちが砦と城壁に押し寄せる。


 私は砦上空の小規模【1日が1000年にワンサウザンドなる部屋・ルーム】内で魔族の軍勢を観察しつつ、ここにひとつ【セーブ】ポイントを置いておく。


「全軍戦いはそのままに聞けぇ!!」


 前回と同じく、【1日が1000年にワンサウザンドなる部屋・ルーム】を解除して軍人さんたちを鼓舞。


「ついに魔族の軍勢が現れた!! だが恐れることはない!! 私は諸君らがどれほど強いか知っている!! そして諸君らもまた、私がどれほど強いか知っている!! 上空の警戒を厳にしつつ、魔物への対処を継続せよ!!」


 前回はいい気分になって言ってたけど、こっずかしいなコレ!?


「「「「「うぉぉぉぉおおおおお!! アリス様万歳!!」」」」」


 良かった、ウケてる。


 そしていつの間にか、私の周りには253名の精鋭従士たちと、陛下以下超精鋭14名。


「初手【アイテムボックス】、収納漏れに【極大落雷】をお見舞いします! その後は全員で吶喊!」


「「「「「はっ!」」」」」


「【物理防護結界】!」


 敵の軍勢全て、上空の飛空艇2隻もまとめて、包み込む極大結界を展開する。

 そして、前回と同じく集中する。

 丹田から出せるだけの魔力を両手に集中させ、


「敵勢力全てを――【フルエリア・アンリミテッド・アイテムボックス】!!

【魔法防護結界】! 【フルエリア・フルスピード・エイジング】!!

【極大落雷】魔法!!」


 何度経験しても良い気分にはならないけれど、収納しきれなかった魔族たち数百人を灰に変えた。


 前回はここで魔力切れを起こしそうになり、結界を解除したのがアダになった。

 ここにもひとつ【セーブ】ポイントを置き、【セーブ】欄一番上――赤ちゃん期へ【ロード】!



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ……おぎゃあっ、おぎゃあっ……


 あー……目まぐるしいわ。とりまここで丸3日寝たりママンのおっぱい飲んだりしつつ魔力を全回復させよう。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 からのぉ、ソロモンよ、私は帰ってきた!

 MPほぼ全回復!


「前回はここで結界を解いてしまった時に、巨大な魔族が地上から跳躍してきて、私に斬りかかりました!」


 253名の精鋭従士たちと、陛下以下超精鋭14名へ語りかける。


「もう一度入念に攻撃魔法を加えた上で様子を――」


「――アリスッ!!」


 フェッテン様の声と同時、フェッテン様に突き飛ばされる。


【思考加速】1,000倍! 【闘気】全開! 【未来視】オン!


 結界内、もうもうと立ち込める煙が激しく揺れ、ちょうどフェッテン様がいるところ――ついさっきまで私がいたところ――の前面の結界が、破れた!


 ウソでしょ【時空魔法】LV10の私の結界だぞ!? 【期間限定時空神】の、この私の結界を破る、だと!?


 そして結界内から飛び出してくる、例の巨人。

 フェッテン様が、真っ二つ、に、なった。


 嫌ぁ!――飲み込め――嫌だ嫌だ嫌だ!――今は気にするな! 目の前の敵に集中しろ!!


 気づいた周りの面々が一斉に攻撃を加えるも、極小の【闘気】を足場に巨人が舞い、次々と人が減っていく。

 1,000倍の世界の中で、仲のいい従士たちが、ママンが陛下がバルトルトさんが宰相様が頭部を破壊される。


 私は巨人の動きを目で追うので精一杯。前回、フェッテン様を斬り殺したあの一閃は、それでもなお手加減してたっていうのか!


 慎重に期を見て【瞬間移動】で背後を取るも、私のエクスカリバーは巨人の肌に傷ひとつ負わせることができず、代わりに私は右腕と下半身を失った。

【瞬間移動】で距離を取り、【パーフェクト・ヒール】で自身を回復させる間にも、従士さんたちがジルさんがアニさんがアラクネさんがホーリィさんがディータがノティアさんが頭部を破壊され、パパンが上下真っ二つになり、最後に残ったリスちゃんが頭部を握りつぶされた。


「※※※※※※※※※※※※※※?」


 その巨人が、何か言った。

 顔が、近い。……あぁなるほど、私今、こいつに顔をつままれ、吊り下げられている。まるで反応できなかった。


「……※※※※? あぁ、言葉が分からんか。――お前が人族の勇者か?」


 心底つまらなそうな声だった。


「だとしたら、つまらん。あまりに弱すぎるではないか」


 視界の端で、巨人の剣がブレた。次の瞬間には、私の下半身が切り離されている――【パーフェクト・ヒール】!!


「ほぅ? 魔法だけはいっぱしのようだな。どこまで耐えられるか見ものだ」


 巨人の剣がブレる。【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】殺してやる……【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】貴様、絶対に殺してやる!【パーフェクト・ヒール】よくもフェッテン様を!【パーフェクト・ヒール】大事な家族を! 仲間を【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】何か手はないか?【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】こんなんじゃ何度やってもなぶり殺しにされるだけ……【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】でもLV10の結界魔法を打ち破るなんて【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】ここはスキルレベルがものを言うゲームみたいな世界【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】何か、何かあるはず!【パーフェクト・ヒール】【パーフェクト・ヒール】…………


「ほほう、その魔力は大したものだ。だがそれだけだな。そんなものでは、四天王最弱の我にすら届かぬ。……いくら相手が矮小な人族とはいえ、女をいたぶるのは趣味ではない。終わらせるか」


 いいだろう、この命はもう諦めた。

 でも、こっちだってこのままじゃ終われないんだよ!!

 最後の魔力を振り絞って、


 ――【鑑定】!!




**************************************************

【名前】 アデス・ド・ラ・アスモデウス

【年齢】 139歳

【職業】 魔王国四天王

【称号】 四天王最弱 剣神

【契約】 魔王ルキフェル13世の従魔


【LV】 500

【HP】 30,613/70,613

【MP】 1,734/12,817


【力】   10,413

【魔法力】 281

【体力】  7,153

【精神力】 5,341

【素早さ】 19,114


【戦闘系スキル】

  片手剣術LV52(成長限界突破) 体術LV9 

  闘気LV38(成長限界突破) 威圧LV8 隠密LV3


【魔法系スキル】

  魔力感知LV10 魔力操作LV24(成長限界突破)

  土魔法LV1 水魔法LV1 火魔法LV1 風魔法LV1

  光魔法LV1 闇魔法LV1 時空魔法LV11

  鑑定LV2


【耐性系スキル】

  威圧耐性LV8 苦痛耐性LV3 精神耐性LV6

  睡眠耐性LV3 空腹耐性LV6


【生活系スキル】

  ルキフェル王国語LV5 アフレガルド王国語LV4

  算術LV4 礼儀作法LV3 交渉LV1 建築LV1 野外生活LV4

  料理LV1 野外料理LV2 食い溜めLV3

**************************************************




【鑑定】結果を必死で視界に収めて。

 そこから先の記憶はない。






**************************************************************

追記回数:25,256回  通算年数:2,930年  レベル:5,100

※話タイトルの年数は、今世の通算年数 + 前世(享年26歳)の年数です。

 アリス「数え年と満年齢が混ざってるって? 細けぇこたぁいいんだよ!」


次回、アリス&女神様「スキルレベル52ぃ!? 成長限界突破ってそんなんアリィ!?」

アリス「課金か!? 課金すればいいのかって誰にだよ魔王か!!」

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