82(1,791歳)「便利屋」
安易に隣領を助けちゃったのがアダになった。
領地貴族らからの、無理難題を解決してくれという指名依頼が激増した。
◇ ◆ ◇ ◆
ケース1:スタイヘステロン伯爵領
「ご覧の通りじゃ」
「「「「あー……」」」」
私たちパーティー一同――私、ホーリィさん、ノティアさん、リスちゃんの口から、ため息が漏れる。
スタイヘステロン伯爵に案内された城壁から見える光景。
「信じられるかの? ここは10年前まで一面の森じゃったのじゃ」
目の前に広がるのは、一面の砂漠。
「ここは王国一の鉄の産地じゃからのぅ……今は他領からの輸入で賄っとるが、森が復活するならこんなに嬉しいことはない」
そう、今回の指名依頼……それは!
『砂漠を元の森に戻して!』だ。
「まぁできなくはないですが……」
「なななっ!? ダメで元々と思って依頼してみたのじゃが、本当にできるのか!?」
「ただ、いくつかリスクがあります。スタイヘステロン伯爵家のレベル100の中で、ここに常駐できる人、何人くらい用意できます?」
「んん? うーむ……最大で10人じゃな」
「おぉ……それなら何とかなりそうです」
「どうするのじゃ?」
「【アイテムボックス】! こちら、魔の森で狩った『ユーカリ・トゥレント』の苗木です」
ゴムの木然り、オーストラリアでコアラの象徴とも言えるユーカリ然り、樹木系魔物のトゥレントには実にいろんな種類があって、南方原産のトゥレントでも気まぐれに北上してくるやつが多いんだよね。なので私の【アイテムボックス】の中には、南方原産の植物が結構入ってたりする。
私が1歳の時、今世のフェッテン様と初めてお会いした時にサトウキビのことを『うらやましい』と言ったけど、実は『サトウキビ・トゥレント』なら【アイテムボックス】の中に眠ってる。
けど、リスクがあるんだよ。
「トゥレント……!?」
「はい。ご存じの通り魔物です。慎重に、魔力を蓄えないよう定期的に【
ただこのユーカリって子は砂漠でも深く根を張って水を吸い上げることができる優秀な子ですから、最初に我々が【グロウ】でサポートすれば、あっという間に森が復活しますよ」
「おぉぉぉおおおおおお!!」
「ただ、リスクが2つあります。1つは今申し上げた通り、あくまでも魔物であること。これについては、数年ほど魔物化させずに育成できれば、魔物化の心配はなくなります。もう1つが、ユーカリはその類まれな吸水力ゆえに他の植物を駆逐してしまうこと。つまり、この砂漠では実質、ユーカリしか育てられなくなります」
「なるほど……ところでその『ゆーかり』とやらは、薪や木炭になるのか?」
「もちろん!」
「ならば問題ないな!」
「じゃあ小一時間ほどでさくっとやっちゃいますね。お手数ですが伯爵様は、レベル100数名の確保をお願いします」
「承知した!」
◇ ◆ ◇ ◆
「【アイテムボックス】で苗木を等間隔で植えて、からのぉ――」
「「「「【ウォーターシャワー】!」」」」
勝手知ったる農業魔法!! 私たち4人の魔力を結集し――まぁ言いつつ私ひとりでも十分なんだけど、雰囲気の問題だ――砂漠中に大雨を降らせる。
「「「「からのぉ――【グロウ】!」」」」
ずももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももも……
かくして森は復活した。
◇ ◆ ◇ ◆
ケース2:ゲファルベート子爵領
「ご存じの通り、我が領の特産は染物です」
さびれた染物工房に案内されつつ、ゲファルベート子爵の話を聞く。
「はい」
「卿には城壁を直して頂きましたし、井戸もたくさん掘って頂きました。レベル100の陪臣を何人も育てて頂きましたし、感謝してもし切れない。ただ、その上であえて、あえて言わせて頂きますが……卿と卿の母君が流行させている服飾に圧され、我が領の産業は衰退傾向にあります」
「うっ……」
それを言われると弱いねぇ……。
「うーん……じゃあ、【アイテムボックス】! この青色、見たことあります?」
青は藍より出でて藍より青し!
取り出したるは見事な青色のジーパン。
「な、な、な……なんと鮮烈な青!!」
「【アイテムボックス】! これ、この青色を出せるタデアイっていう植物なんですけど、差し上げます。どこに植えましょう? ついでに【グロウ】もかけますよ」
「女神様!!」
◇ ◆ ◇ ◆
ケース3:アイグープ騎士爵領
「というわけで、何か特産が欲しいのです……」
「なんと漠然とした……あっ、
騎士爵様のお宅――民家以上お屋敷未満――でお昼ご飯をご馳走になる私たちパーティーメンバー。
『大した額の報酬も出せませんので、せめてお食事だけでも』とのこと。
「はい。我が領にはニワトリ系魔物のウォリアー・チキンが多く生息しており、昔から
他にも次々と運ばれてくるだし巻き玉子、カキタマスープ、カニたっぷりのカニ玉等。いやはや先代勇者様のおかげか、この国の料理って和洋中ハチャメチャなんだよね。美味しいから全然いいんだけど。
「あるじゃないですか、特産。このTKG物凄く美味しいですよ!」
「ハハハ、ありがとうございます。確かに我が領の卵は美味だと自負しておりますが、他領にだってニワトリはいる。一手足りないのです」
「ねぇアリスちゃん」
ノティアさんがニヤリと微笑む。
「ああ、あれがあったね」
ホーリィさんがうなずく。
「お姉様が作ったアレっすね」
リスちゃんがじゅるりとよだれをすする。
私は虚空から、スッと小瓶を取り出す。小瓶の中に入っているのは、これ単体でもご飯が食べられてしまう魔性の調味料――マヨネーズ!
「こちら、卵を使った全く新しい調味料、マヨネーズです。もしよろしければ、そちらのサラダにかけさせて頂いても?」
「も、もちろんですとも! な、なんですかこの芳醇な旨味は!? 何にでも合いそうですね!」
「
言って別の小瓶を取り出す。
「おぉぉぉぉおおおおおおおおおッ!! まさか、この作り方を!?」
「ご提供致しましょう。ただしマヨネーズは大層足が早いのです――生卵を使っているので当然の話ですが。ですので流行させるには――よいしょっとぉ」
そばの床に箱を取り出す。【アイスウィンド】が【
この調子だと、一家に一台三種の神器時代はそう遠くないな! ……あ、いや冷蔵庫と洗濯機はいけてもテレビは無理かなー。
「必ずこの冷蔵庫で保存してもらう必要がありますので、流通の際には細心の注意を払ってくださいね」
「はい!」
嬉しそうな騎士爵様。
「それと、マヨネーズのレシピはそう難しいものではないので、数年も経てば模倣されるでしょう。ですので売り出しと同時に『マヨネーズといえばウォリアー・チキンの卵製のアイグープ騎士爵印!』って感じのブランド戦略を取った方が良いでしょう」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
◇ ◆ ◇ ◆
ケース4:ディアマント子爵領
「というわけで、何か特産が欲しいのです……」
「「「「またか!」」」」
「ど、どうされました……?」
「「「「あ、これは失礼を……」」」」
案内されたのは廃坑となった鉱山。
「国内でも有数の銀山だったのですが、数年前から枯れ始めてしまいましてな……」
「【探査】! ……ん? ダイヤモンドあるじゃないですか!」
「ダイヤモンド? あの、卿が領都城壁を立て替えてくださった時の素材ですかな?」
「はい」
「あー……言われてみると、あれに似た透明度の高い鉱石が産出されていたような」
「あります?」
「えーと、屑鉱石としてこちらのゴミ捨て場に……これですな」
子爵様が拾い上げたのは、10カラット相当のダイヤ!
「ほ、ほぉぉぉおおおお~ッ!!」
元日本人の感覚から、思わず感動してしまった。自分でダイヤの壁を出しておきながら変な話だけど……。
「それ、頂戴しても?」
「ええ、屑鉱石ですから。確かに丹精込めて磨き上げればそこそこの価値が出ますが、それでもルビーやエメラルドには到底及ばない」
そうなんだよね。地球でも、ブリリアントカット等のすぐれた研磨方法が確立されるまでは、ダイヤの価値はその他の宝石よりずっとずっと低かった。
子爵様からもらったダイヤモンドを手のひらに乗せ、
「【アイテムボックス】! ハイ、ブリリアントカットです!」
「「「「な、なななっ!?」」」」
あはは、ホーリィさん、ノティアさん、リスちゃんまで『ななな』ってるよ。
「ダイヤはダイヤで研磨できます。こんなふうに磨けば、貴族家ご令嬢たちが目の色を変えて欲しがるでしょう」
「素晴らしい!!」
◇ ◆ ◇ ◆
王国中でダイヤモンドの価値が爆上がりした。
領民が【契約】で縛られていない王都や他領において、城壁のダイヤを盗もうとする輩が激増してしまったのは別のお話。
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追記回数:20,666回 通算年数:1,791年 レベル:2,200
次回、酒職人トニさん(3バカトリオのお兄さん役)が蒸留酒無双して度数95%の美酒をバラまきまくった結果、領内が酒乱騒ぎになってしまい!?
アリス「もしかして、
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