80(1,791歳)「私の華麗な家令ちゃん三千数百飛んで3歳」

 1週間後の昼下がり。城塞都市の砦、パパンから譲り受けた執務室にて。

 今日も今日とて、私は紙文化に翻弄されつつ領主の義務を果たしている。


「エグ○ルほじぃよぉぉおおおおッ!! ディータ、エク○ル作って!!」


「無茶を仰らないでください、閣下。そういうなら閣下、魔法か何かで半導体を作ってくださいませ」


 私用の机の隣では、20歳ハタチ前後に見える超絶美男子が、自分用の机でバリバリ書類を処理している。あの手捌きは【闘気】載ってるな。


 そう、この美男子こそ当家の新人陪臣にして家令――まぁ執事というか領政も含めた貴族家の全般を取り仕切る、陪臣のトップ――のディータきゅん三千数百飛んで3歳!

『3歳の体では威厳が出ない』とのディータたっての希望により、私が【エイジング】させた。まぁ城塞都市の領民の一部は【エイジング】魔法のこと知ってるし、秘匿するほどのことではない。


「は、半導体かぁ……プログラミングはいっぱいやったけど、ハード面はからっきしだからなぁ……自作PCすら作ったことないし。えーとえーと【おもいだす】! CPU? LSIとかシリコンウエハーとか?」


「ま、マジですか……僕の方がまだ詳しいかもしれませんね。はい、未エッチングのシリコンウエハー」


 ディータの手のひらに見事な鏡面のシリコンが生成される。


「えっ!?」


 マジか。マジかマジかマジか! これもしかして、半ば諦めてたテレビゲーム無双できるんじゃない!?


「……………………そ、それ、【土魔法】?」


「はい。ケイ素なんてありふれた素材ですし、レベル8もあれば十分出せますよ」


「いや、聖級なんだけど……」


「閣下は神級でしょう?」


「ま、まぁそうだけど」


 私も魔法でさんざん色んな人を驚かせてきたけどさ、まさか自分が驚く側に回るとは思いもしなかったよ。


「【時計クロック】――では閣下、領都へ書類を受け取りに行って参りますので」


 体面を保つため、ディータやその他陪臣の皆々様は私を『閣下』呼びする。まぁさすがに大都市2、街18、村73を擁する辺境伯様なんだもの。仕方ないか。


「えっもうそんな時間!?」


 領都にももちろん執務室はあるんだけど、城塞都市の方が新産業とか実験事業が多いので、基本、私は城塞都市側を拠点としている。

 領都はバルトルトさんが見てくれてる。パパンはやっぱり、書類仕事ではまったく役に立たなかったよ……。

 ちなみにパパンには城塞都市の練兵を指揮してもらってる。

 ママンはといえば、相変わらずアラクネさんと一緒に服飾事業に大はしゃぎ。可愛いなぁ。


「領都の方を捌くの、任せっきりにしちゃっててごめんねディータ」


「本望です。その言葉を聞くために三千年も養殖したのですから。もっともっと僕に甘え、依存し、その様を広く領民に知らしめてください」


「い、言い方!」


「僕はこの世の全ての時代と国の行政と法令を学んできましたので、閣下はご自分のやりたいことをやりたいようになさってください。あとのフォローは全て僕とバルトルトさんで担当します」


「お、おぉぉ……」


 な、なんと頼もしい! さりげに巻き込まれてるバルトルトさんは可哀そうだけど。


「精神年齢で言えば、僕はお姉様より千年以上年上なんです。だからお姉様はもう、妹みたいなもんですね」


「あ、あはは……」


「あっ、そういえばお伝えしておかなければいけないことが」


「なんだい?」


「全ての時代と国、と言いましたが、直近100年ほどの魔王国領のことだけは、いくら【鑑定】しても出てきませんでした……」


「あー……魔法神が妨害してるのかなぁ……」


「かもしれませんね……と、行ってきますね」


 ディータの姿が消え、ほどなくして再び現れた――山盛りの書類とともに。


「ぅへぁ……」


「閣下、【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】へ参りましょう」


「はぁ~……」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「「というわけでやって参りました領都の北部城壁!」」


 私とディータの声がかぶる。建築ギルドマスターからの、『そろそろ北部城壁を広げてほしい』との嘆願を叶えるためにやって来たのだ。

 常在戦場、即断即決即実行が我が家の家訓。『壁を広げて』と言われ、その嘆願内容が妥当なものであるならば、その日中にやってしまおうというもの。


 同行者は、ダイヤモンドを出せるようになるまで鬼養殖してもらったノティアさん。そして私はもちろん、ディータもダイヤモンドが出せるのだそうだ。三千年の中で、【鑑定】しながら他の魔法も鍛えたんだとか。


 この『しながら』ってのがまた凄まじくて、神級光魔法【生命創造】でAIボット魂を作り、それを自分の脳内で飼って(!?)、並列思考を実現したとのこと。つまり自分の体を自動操縦して魔法を放ちつつ、頭の中では別のこと――【鑑定】――をしてたんだとか。

 あ、あ、あ、頭おかしい……。CPUですら1度に1つのことしかできないというのに!!


 3人して城壁の上に立ち、


「領主のアリス・フォン・ロンダキルア女辺境伯です!」


 私は風と時空の混合魔法【拡声】を使って演説を開始する。

 元々そんな魔法はなかったんだけど、こう、辺境伯領の領主になって演説の機会が増えて、【物理防護結界】メガホンに限界を感じて試行錯誤してるうちに、なんかできたんだよね。


「見張り勤務中の従士の皆様! そして城壁周辺の住民の皆様! ただいまより我々の魔法で城壁の張替えを行います! 素材は世界で一番頑丈な素材、ダイヤモンド! 皆様の安全をより強固にお守りすることができるようになりますので、どうかご安心ください!」


「「「「「うぉぉぉぉおおおおおお!!」」」」」


 城壁で見張りに立ってた従士さんたち大喜び。

 見れば、たまたま外にいた領民の方々なんかも、やんややんやの大興奮。

 まぁこの1年で領民(無論、従士含む)ほぼ全員をレベル100にして、数々の魔法を教え、他にも奇跡レベルの魔法の数々を披露してきた私やノティアさんだ。はっきり言って崇拝されてる。


「ってことで5分以内に城壁から離れてくださーい!」


「「「「「畏まりました、閣下イエス・マイ・ロード!!」」」」」


 で、私たち3人は建築ギルマスから指示されている場所――ちょい北の方に進んだところへ【飛翔】で移動し、


「「「よいしょっとぉ~~~~ッ!!」」」


 ずももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももも……


 ダイヤモンド製の城壁がせり上がってくる。

 いやぁ、この世界で誕生し、4歳の時に初めて農村で一夜城してパパンとママンにビビられてた頃が懐かしいね! 1巻○話参照ってか!


 旧城壁の方は、私の【アイテムボックス】に収納され、【アイテムボックス】内で分解の上、その場に置いておいた。ちょい古くなってるけど煉瓦だし、元辺境伯曰く対魔法抵抗力があるらしいので。まぁ建築ギルドで使ってもらえれば良い。

 こいつは例の四天王が辺境伯へ提供したものだそうなので、研究用に一部は徴収した。


 領都建築ギルマスさんに工事完了の報告に行き、検品に行ったギルマスさんは、城壁が透明に輝くダイヤモンドに変わってることにビビってた。入念に【探査】して、凹凸がないことは確認済だよ! 虫眼鏡で太陽光を集めるみたいなことになって、火災なんて起こったら笑えないもの。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 砦の執務室で小一時間ほど仕事してると、


『ピロピロピロッ!』


 むぉっ!?


 陛下んとこのブルーバードちゃんから緊急通報! 『視界共有』すると目の前に陛下! 顔近すぎィ! 場所はいつもの略式謁見室だな。


「ディータ、なんか陛下から呼び出されたから行ってくる!」


「承知致しました」


「【瞬間移動】!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「壁じゃ!!」


「壁?」


「王都の城壁をダイヤモンドに変えてくれ!」


「あぁ~……お耳が早い」


「ロンダキルア辺境伯領都の建築ギルドマスターが慌てて伝えてきおったわ! そなたがロンダキルア辺境伯領都の城壁を、一瞬にして世界で最も硬く、しかも透明な素材に変えてしまったと!」


「あははは……」


「どのみち、城壁の撤去と拡大はそなたに依頼する話じゃったろう?」


「ですね」


「これがその計画書じゃ」


『紙』製の書類を渡される。


「この1年だけでも、王都民の死亡率は激減し、出生率が激増した。そろそろ良い頃合いじゃ」


「いつやりましょう?」


「今からでも」


「承知致しました。では――【瞬間移動】!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ってことで、さっきと同じ3人組で、演説を繰り返しながら王都の城壁を張り替えてきたよ。さすがに夕方までかかった。


 で、その翌朝、


「閣下、冒険者ギルドマスターが直接お見えになりましたが、いかが致しましょうか?」


 執務室で仕事してると、ディータが声をかけてきた。


「へぁ? 先ぶれアポもなく?」


「はい。何やら急ぎのご様子でしたが」


「いいよ、応接室にお通しして」


「ははっ」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「ロンダキルア卿、壁です!」


 慌てた様子の冒険者ギルマスさん。


「壁?」


「全国の領主様方から閣下のパーティーへ、城壁をダイヤモンドに張り替えてほしいとの指名超緊急依頼が!」


「あぁー……」


 ま、まぁ、領地貴族さんからの好感度もアップするし、各領都の対魔物防御力もアップするし。渡りに船、かな?



    ◇  ◆  ◇  ◆



 あくまでパーティーへの指名依頼なので、私とノティアさんだけで担当した。リスちゃんとホーリィさんはその間、見張りとか城壁で警備してた従士さんたちに稽古つけたりとか。


 さすがに1週間かかったよ……。

 ノティアさんはたびたび魔力切れを起こし、私からの無限【魔力譲渡マナ・トランスファー】を受けながら、『改めてバケモノよね、アリスちゃんって……』と顔を引きつらせていた。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 最後の領の壁を張り、疲れ果てて砦へ戻ってきて執務室に入ると、険しい顔したディータがいた。


「閣下……」


 1通の手紙が差し出される。

 封蠟にはどこぞの貴族の紋章が。どこだこの家?


「隣領からの、紛争の申し立てです」


「ふ、紛争ぅぅうううう!?」






*************************************************************

追記回数:20,551回  通算年数:1,791年  レベル:2,200


ディータ「くっくっくっ……お姉様を僕なしじゃいられない体にしてやろう……」

次回、 アリス「ふふふ紛争ぅうう!?」

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