74(1,417歳)「断罪。そしてフェッテン様と大人デート!!」
「スピオーネ!? スピオーネ!? どこへ行った!?」
魔族が逃げたあとの辺境伯邸の寝室に【瞬間移動】すると、そこには子供のように狼狽する辺境伯がいた。辺境伯が私に気づき、
「な、なな、なんっ……誰だお前は!」
同室には奥さんと思しき女性が寝ているけど、これだけ騒がしくても起きないってことは魔法かけられてるな。まぁそのままにしておこう。
「お久しぶりですね、
「貴様ッ、勇者!?」
「あはは、隠す気ないの? 焦ってるからかな? とにかく陛下の元へ連行させて頂きます。【アースボール】!」
辺境伯の体を岩でガチガチに覆う。ドラム缶に入れられてコンクリート流し込んだあと、ドラム缶から引っこ抜いたみたいな感じ。
ではいつもの略式謁見室へ【瞬間移動】!
◇ ◆ ◇ ◆
陛下と宰相様とパパンは、辺境伯のあんまりな姿に顔を引きつらせていた。
「どうします? 暴れられても困りますし、裏切り者に相応しい姿なので、このままでも良いかと思いますが」
「落ち着けアリス、【威圧】が漏れてる」
あら失礼。パパンに指摘されて初めて気づいたよ。
いやぁ、改めて顔見たら、殺してくれた恨みが湧き出てきてねぇ……。
「ふむ。まぁ辺境伯はそのままでよかろう。ではまずアリスよ、こやつを【鑑定】してくれ」
「ははっ」
殿下&パーティーメンバーとの養殖の間ずっと【鑑定】してたので、私の【鑑定】レベルは9になってる。ホーリィさんから神魔法を教えてもらう必要がなかったから、その時間を使ったんだよ。
「物凄く気持ち悪いと思いますけど、自業自得なので我慢してくださいね……【鑑定】!」
憎々しい辺境伯のステータスなんて見たくもない。
ただ、【契約】欄には『魔王国四天王ベルゼネ・ド・ラ・ベルゼビュートの従魔』と出た。この結果は普通は自分にしか見えない半透明のウィンドウに表示されているが、念じれば人にも見えるようにすることができる。まぁ表示ウィンドウはステータスウィンドウよろしく【時空魔法】の一種で欺瞞することもできちゃうんだけどね。
「こちらです」
辺境伯のステータスを陛下に見せる。宰相様とパパンも覗き込み、パパンは泣き出しそうな顔になってしまった。無詠唱でパパンに【リラクゼーション】をかけておく。
「普通に考えれば極刑なのじゃが……何か、申し開きはあるかの?」
◇ ◆ ◇ ◆
それは、ある男の半生だった。
年若くして大きすぎる地位を得て、悪辣な貴族社会に翻弄され、へとへとになった辺境伯をでろでろに甘やかす魔族の女。
そんな魔族に溺れ切ったところで正体を明かされ、今日の今日までズルズルと来たんだそうだ。
塩も魔族の入れ知恵だった。
城塞都市のメシが減塩志向だったのも、砦や壁がボロボロだったのも、全ては魔族の指示によるものだったということ。まぁ塩に関しちゃ辺境伯の保身も多分にあったろうと思うけど。
パパン必死の助命嘆願により、辺境伯とその係累はパパンと私を除き幽閉、ロンダキルア辺境伯家は取り潰しとなった。
で、私が岩の拘束を解き、元辺境伯が連行されていった。
◇ ◆ ◇ ◆
翌日の朝方、再びいつもの略式謁見室にて。
今度はフェッテン様とママンもいる。あ、もちろんパパンも。
議題は今後のこと。
まず、私が辺境伯となり、ロンダキルア辺境伯領を受け継ぐ。これは陛下的には決定事項のようだった。
「辺境伯領はもうそなたの領じゃ。城塞都市を広げるなり新技術を試すなり、好きにするが良い」
楽しそうな陛下。
「ただ、あんまり無茶なことをするのなら、事前に儂に相談するようにな?」
「は、はぁ……ただ、叙爵するにも功績足りなくないですか?」
「類まれな【鑑定】により元辺境伯の裏切りを暴き、魔王国の計略から国を救ったのじゃ。【勇者】のことや【ふっかつのじゅもん】、【
そりゃそうか。あと私はすでにSランク冒険者になっていて、武功も知られてるし。あっでもエクスカリバーは抜けなかったことにしてる。だってオリジナル――いやまぁどれもオリジナルだけど――はダンジョン最奥に刺さったままだから。
「それと、パーヤネン女準男爵とフェンリス騎士爵もそなたの領軍にやろう」
「えっ、いいんですか!?」
「もとよりそなたパーティーメンバーであるし、前世では一緒に全国を巡っていたのだろう? そう変わらんよ。聖女様にも儂から話しておく」
「お、おぉぉ……ありがとうございます。ありがたくお預かりさせて頂きます」
ってことで元辺境伯家の身辺整理や叙爵式の準備、各貴族家への事情説明と召喚のために1週間を取り、その後、私の叙爵式ということになった。
1週間何すっかなー。
真っ先に浮かんだのは視察。城塞都市とその周辺の村3つのことは良く知ってるというかむしろ私が発展させたまであるけど、領都と川辺の街、宿場町その他のことはよく知らない。
特に、川辺の街以西のそこかしこに点在している村や街のことはあまりよく知らないな。前世でも、【瞬間移動】マッピング兼魔物討伐クエストで1~数回ずつ立ち寄ったくらい。
ちなみに川辺の街より東側には今挙げた宿場町と城塞都市と周囲の村しかない。だって魔物が強すぎるし、主要な川もないから。
「視察? 私も一緒に行ってもいいか?」
「いやぁフェッテン様はバレるでしょう」
「アリスのように大きくなることはできないか?」
「おぉぉ……何歳くらいに?」
「前世と同じ20歳がいいな。アリスの20歳も見てみたい」
「じゃあ着替えてからやってみましょうか!」
◇ ◆ ◇ ◆
「まんまアイリスだ!」
前世と全く同じ、たくましいお姿のフェッテン様が、20歳相当の肉体になった私を見て喜ぶ。
フェッテン様も私も、平民風の服を着ている。
私はドイツのビール祭りで女性が来ているような、ザ・中世ヨーロッパの町娘って感じの服。スカートは
で、私が何より恥ずかしく感じるのは胸元。この世界の女性服って、足は隠すくせに胸元はババーンとはだけてるんだよね。そっちの方が恥ずかしいわ!
「そうか、アイリスが仮面を取るとこうなるのか……それにしても、よく知るアリスの顔に、この体つきとは……ごくり」
フェッテン様の視線が私の胸元に集中している。あはは、男の子だねぇ。
なんというか、元・作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳がイケメンリアル王子様に劣情丸出しの目で胸を凝視されるとか、隔世の感ありまくり!
実際、そのバストは豊満であった。パパンとママンの遺伝子、いい仕事してますねぇ!
「見過ぎですわよ、ア・ナ・タ」
「ご、ごめん!」
顔を真っ赤にしてうつむくフェッテン様。可愛い。
「って、アナタ?」
「お忍びでフェッテン様呼びできませんもの。私とアナタはいいとこ育ちの夫婦という設定で」
「おぉ、おぉぉぉぉおおお!!」
感動しているフェッテン様。可愛い。
ちなみにこの寸劇はおなじみ略式謁見室で行っている。【土魔法】製簡易更衣室の中で、【アイテムボックス】で早着替え。
当然、一部始終を陛下もパパンもママンも見ている。キャッキャウフフと楽しそうな私たち偽装夫婦を見て、陛下とママンも楽しそう。唯一パパンは『無』になってたけど……。
「というわけで陛下、1週間ほど殿下をお借りします」
「よいよい。楽しんでくるのじゃぞ。しかしフェッテンよ!」
「は、はい!」
「くれぐれも、くぅれぐれも
「「はい!」」
◇ ◆ ◇ ◆
ってことで、フェッテン様と滅茶苦茶デートした。
いつものような【
お金はいくらでも持っているので、散財の限りを尽くした。
【アイテムボックス】の中には今世でもらった1,001億ゼニスや、前世のSランク冒険者としての様々な功績でもらった莫大なお金で使いきれなかったものがひしめき合っているんだけど、残念ながら前世のは使えないな。使ったら通貨の偽造になっちゃう。
そして、領都や各街でこそ散財できたけど、村では逆に財が増えてしまった。新産業で作った珍しいものや魔法教本を、【アイテムボックス】持ち行商人の真似事をした私が売り捌いたので。
まぁ、村の宿屋や酒場では多めにお金を落としたので、大目に見てほしい……。
最後にはおなじみ城塞都市にも行った。で、馴染み深い人たちには私の正体がバレた。
◇ ◆ ◇ ◆
ケース1、製紙・製本屋のアルフォートさん。
「こんにちはー。繁盛してますね!」
私が本屋に立ち寄ると、たまたま視察に来ていたらしいアルフォートさんが振り向き、
「おぉ、アリスさ――ん? 誰? いやでもこの感じ……アリス様ならあるいは……アリス様、ですよね?」
「せーいかーい!」
「いやはや……大人をからかうのはやめてくださいよ。まぁアリス様なら変化の魔法くらい自在でしょうね」
「あはは……まだナイショですけど、近々この領を任されることになりまして。ちょっと変装して色んな街や村を視察してるんです」
「ほほぉ~! これはいよいよもって、製本業に勤しみませんとな!」
「魔法教本は領民の生活向上の要ですから。頼りにしてますよ!」
「
◇ ◆ ◇ ◆
ケース2、私の共犯者、ライゼンタール男爵様。
本屋の隣、磁器屋さんにフェッテン様と一緒に入ると、ライゼンタール男爵様が来てたので、
「モウカリマッカ!?」
「ボチボチデン……デン……」
反射的にそう言いかけた男爵様が、私とフェッテン様を見て、
「殿下ぁっ!?」
「「しーっ! しーっ!」」
慌てて男爵様の口をふさぐ。
お客様は男爵様だけだったけど、カウンターにはいつも通りこの家の娘さんがいて、
「あれ……? もしかして……アリス様?」
「せーいかーい!」
「アリス様ですからねぇ……大人に化けるくらいじゃ、もう驚きませんよ。ところで、隣の方は?」
「夫で――もがっ」
「いやいやいやいやアリスさん、こんや――
男爵様に口を塞がれる。
未婚女性の唇に触れるなんてハレンチな!
それにしても男爵様、一瞬で私の正体を看破し、からのぉフェッテン様のことも看破し、『ボチボチ殿下』なんてギャグかましてくるなんて、頭の回転早すぎィ!
「まぁまぁ、父上も承知のことなんだ」
フェッテン様が割って入る。
「それに、アリスに秘密の特訓に付き合ってもらったおかげで、私も竜種を瞬殺できるほど強くなったから、護衛なんてむしろ足手まといだよ」
「は、ははは……」
引きつり笑いの男爵様。
そして、カウンターの娘さんにフェッテン様の正体を明かし、『お、お、王子様ぁ~~~~ッ!? はは~~~~っ!!』って感じになった。
この街にはまだ、私の婚約のニュースは届いていないっぽい。まぁ数日前のことだしね。
そんな感じで、フェッテン様との大人デートの日々を心おきなく楽しんだ。
少なくともその1週間の間は、魔族からの攻撃はなかった。
**************************************************************
追記回数:19,993回 通算年数:1,417年 レベル:2,200
次回、大人アリスに貞操の危機!?
フェッテン様「アリスに手を出そうとしたやつは全員殺す……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます