69(1,242歳)「死にましたぁ~」

 ……おぎゃあっ、おぎゃあっ……

 懐かしの原風景。MP養殖の時、何千回と見た――聞いた、自分の泣き声。


 そ~~~~~~~~ぉきたかぁ~~~~~~~~!!

 

 ま、そりゃそうだよね!

 国境沿いの領地への寝返り工作なんてあって当たり前! 私の首を土産にこんにちはハロー新世界ワールドってわけだ。


 しっかし魔王国軍と刃を交えることすらなく、一生目を終えるとは。前途多難だねぇ……。


 思えば伏線はたくさんあった。領都の壁は立派なのに、人族最前線の砦と壁はぼろぼろだったこととか、辺境伯にせよ伯父上にせよ、やたらとパパンと私に攻撃的だったこととか、武闘派で軍務閥の第二王子フェッテンさまに対する、内務閥の第一王子の母からの暗殺計画とか。

 特にフェッテン様の脚気かっけについては、王国にはまだない、栄養学の知識が使われていた。


 いやぁ、『一人称視点ノベルゲーム』ならではの展開だね!


 大切な人たちとの大切な思い出、いっぱいあったんだけどなぁ……まぁゲームマスターである女神様が、


『アリスちゃんが同じ日時に同じ場所で同じように振舞えば、同じ反応が返ってきますから大丈夫ですよ。あなたの従魔とも、同じ個体と出会えることでしょう』


 って仰ってくれてるんだ。信じるとしよう。


 しっかし死ぬ間際、なんかすっごい恥ずかしいこと考えてたような気がする……いや、【おもいだす】スキルがバッチリ覚えてるんだけどね!

 何が『私を見つけて――…』だよ! ラブコメのヒロイン気取りか! 恥ずかしぃ~~~~ッ!!


 はぁっはぁっはぁっ……。


 あと、死に際に誰かに呼びかけられ、抱き上げられたっぽいんだけど、声の感じからしてフェッテン様の可能性が大……どうせ消える記憶だけど、ひっどいトラウマ植えつけちゃってごめんなさいフェッテン様。


 で、元凶の辺境伯についてだ。

 さっきは辺境伯の糞野郎にものっそい殺意を覚えたものだけれど、まぁいろいろ物証揃えてから陛下に突き出すしかないだろうなぁ。

 物証というと、陛下から貴族に叙された人は陛下と神級魔法【契約】を結ぶんだよね。で、ずっと気になってたんだけど……4歳の夏、パパンを勝手に【鑑定】団しちゃったときに、『【契約】 (鑑定不能)』って出たんだよね。コレ、もしかして【鑑定】レベルをもっと上げれば見れるんじゃ?


 ちなみに私のステータスの【契約】欄には『全知全能神ゼニスの使徒』。文字通り加護チートの数々を与えられているわけだけど。


 さて、【アイテムボックス】にある目録機能を使い、中身を確認する。

 裏切り辺境伯以下生きてる人間は入ってなかった。さすがの【ふっかつのじゅもん】特典でも、生きた人間を拉致ってロードからのドッペルゲンガー量産は無理らしい。

 代わりに辺境伯と部下たちの装備品と、その中から辺境伯が私を毒殺するに至った武器『蟲毒の短刀』を発見! 

 よし! よしよし! これを狙っての【アイテムボックス】だったのだもの。何かの手がかりになるはず。


 ってことで【鑑定】!



**************************************

『蟲毒の短刀』

【グロウ】をふんだんに使って育てた毒を、

幼少より食わせ続けて育てた7歳児100人を戦わせ、

生き残った最後のひとりの生き血を練り込んだ短刀。

**************************************



 怖っ! 怖すぎるでしょう! なんてことしてんの魔族!? ま、まぁ100人の命で勇者を殺せるなら安い……のか? うーん……戦争するよりはずっと安いか。

 でもなんで7歳? ……あ、私が4歳の時に【勇者】だとパパンたちにゲロって、パパンがそれを辺境伯に手紙で知らせて、それを魔族が知ってから育て始めたってことだな?

 辺境伯、リアルタイムで内通してんじゃん!

 でもそれなら8歳では? いや半年くらいは準備に必要か……いや、もしかしたら魔王国が数え歳ではない可能性が微レ存。

 あと、私の所為せい――所為せいでもないが――で不幸な人生を送ることになった7歳児100人に黙とう。


 で気になるのが、【鑑定】して外観も脳裏に浮かんだんだけど……このナイフ、随分と近代的なデザインなんだよね。柄とかゴム製で、いかにも人間工学的に握りやすい形してるし。なんというかミリタリーナイフっぽい。

 100年か……発展してるのかな、魔王国……。

 いくらあぶみを着けた馬でも、ライフリング加工された銃には敵わないからなぁ……。せめて照準ガバガバなマスケット銃止まりであってほしいものだ。


 さて、では今世の方針を決めましょう。あ、今後は便宜上、


・今世………2周目のこの人生

・前世………1周目で辺境伯に殺された人生

・前々世……地球で死んだ人生


 ってことにしよう。たとえ周回プレイ前提の中の1回に過ぎなくても、本当に本当に、幸せなことが多すぎる大切な人生だったから。

 あ、でも【ふっかつのじゅもん】による養殖時の死はノーカンね!


 さて方針だけど、まずやらなきゃならないことは大きく4つ。


①前世でやった、王国の発展やら人助けやら慈善事業やら。特に前世で助けた人たちを見殺しにはしたくない。


②辺境伯の裏切りの証明と陛下への通報。その後の処遇は陛下にお任せするよ。さすがに、私を殺した人まで助命嘆願するほど、私ゃ聖人君子じゃない。


③私が辺境伯領主になる、もしくはパパンを辺境伯領主にして、早くから魔王国との戦いに備えること。いやぁ前世の最後の1週間はひどかったからね! 急遽軍人さん4,732名を10秒でレベリングするとか計画性なさすぎィ!


④フェッテン様を救う。いやまぁ結果としては死んでないんだからいいのでは? と思わなくもないけれど、やっぱり体を動かすのが大好きなフェッテン様が脚気で苦しんでいると知りながら放置するってのはどうしても無理だ。


 私が脚気を治しちゃったら、フェッテン様は湯治様の王子に来ない。そうなると私との出会いもなく、フェッテン様からの『娶るぞ』攻撃もなくなるだろう。

 脚気かっけとして……じゃなかった結果としてフェッテン様が私を選ばなかったとしても、フェッテン様の病は治してあげたい。フェッテン様には苦しんでほしくない。


 だって私は、あの人のことを愛してしまったのだから!(ばぁあああん!)


 ってことでまとめると、


・5歳までは【おもいだす】を使いながら前世をなぞるように生きつつ、餓死や凍死で死んでしまったという城塞都市民はそれとなく助ける。


・その間、辺境伯を毎日ストーカーして情報を集める。


・同時に、フェッテン様の方もストーカーして、フェッテン様を脚気その他から守る。


 私がいきなりベビーベッドから消えたらママンが卒倒するだろうから、ストーカー係にはホーリィさんから教えてもらった簡易魂AIボットちゃんを2体作ってそいつらにやらせよう。


・前世と同じく5歳で陛下に謁見し、勇者と魔王復活のことを報告する。と同時に辺境伯の反逆を通報してやろう。で、前世で1,001億ゼニス貰うに至った知識チートや城塞都市発展、魔法教本一般化等の功績で辺境伯にしてもらおう。フェッテン様を2度お救いした分の功績がないので、功績が足りないと言われた場合は、パパンとその所有物わたしの功績を足し合わせて、パパンに辺境伯になってもらおう。パパンは嫌がるだろうけどまぁしゃーない。


・5歳~10歳までは、前世同様冒険者として活動しつつ領地経営しよう。忙しいだろうけど、私にゃ【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】があるから大丈夫だろう。5歳の時は陛下に『貴族になんてなりたくない!』って言ったもんだけど、2年のロンダキルア女城伯の経験で多少は慣れたよ。


・10歳~12歳も、前世をなぞりつつ領地経営。練兵重点でいこう。レベル500を最低でも数千人ほど揃えるとしよう。


・魔王復活後は、まずはレベル&数の暴力で魔物の集団暴走スタンピードを乗り切る。前世では1週間続いたけど、狩り続ければそのうち魔物は枯渇するだろう。百人ちょいではなく数千人でことに当たれば、魔物の集団暴走スタンピードのついでに当該区域を掃討することだって可能だ。


・あとは流れで。


 ――人生設計、ヨシ!


 んじゃ、【ふっかつのじゅもん・セーブ】しまくってセーブ枠を10まで増やしますか!

 あ、その前に1回【ロード】して誕生直後に戻ろう。おぎゃあおぎゃあと言いながら、結構長い時間たっちゃったから。

 たかが10分程度かもしれないけど、この辺が貧乏性というか効率厨なんだよね。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ってことで数千回【ロード】と【セーブ】を繰り返したら、枠が10になったよ。あとMPも3億ちょいになった。

 でも足りないんだよなぁ~……現に前世で軍人さん4,732名に守秘義務【契約】させた時、あらかじめ【契約】書を用意していなければMP切れで全員は雇用できなかった。


 というわけで、地獄の【ロード】マラソンはっじまるよ~!!



    ◇  ◆  ◇  ◆



 10億まで上げた。

 セーブ枠が増え、いつでも気軽に赤ちゃん期に戻ってこれるようになったので、とりまこんくらいで勘弁しといたろか!


 じゃあ続いて、女神様を呼び出して【ふっかつのじゅもん】から派生するMPや魔法力やカンスト【時空魔法】や耐性周り以外のステータスをレベル1相当にしてもらおう!


 うーんうーん、女神様ー!



    ◇  ◆  ◇  ◆



「はいはい、呼びました?」


 おお! 目の前には真っ白な空間と、女神様のお姿が!

 喋ろうとするけど、赤ちゃんの体なので上手く言葉にならない。


「大丈夫ですよ。考えを読み取らせて頂きますから」


 さすが女神様! さすめが!


「あぁ、死に戻って来たんですね! しかも初手謀殺とは前途多難」


 それで女神様、ステータスを――


「レベル2000!? き、鍛えましたねぇ……」


 いえ、普通に鍛えたのは650までで、残りは【ふっかつのじゅもん】の副次効果ですよ。


「ほほぉ~我ながら恐ろしい魔法を作ってしまったものですね!」


 本当にですよ。


「それで、何の御用ですか? みんなと一緒に養殖したいからレベルをリセットしてくれ? 人間とはつくづく不思議な思考をする生き物ですね……で、どれを残すんですか? コレとコレと……はい、できましたよ。で、10歳の洗礼の時に返せばいいんですね?」


 はい。職業【勇者】に乗っけてください。


「はいはい」


 じゃあありがとうございました!


「はい。※※※ちゃん――え? 今世では『アリス』と呼んでくれ? はいはい。ではアリスちゃん、頑張ってくださいね!」


「あい!」


 おっ、なんとか返事っぽい声になった。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 よし2枠目に【セーブ】!

 ステータス・オープン!



********************************************************

【名前】 (未定)

【年齢】 1歳

【職業】 無職 アフレガル王国ロンダキルア辺境伯領・従士長の長女

【称号】 勇者 能天気 不屈 期間限定時空神 亜神

【契約】 全知全能神ゼニスの使徒


【LV】 1

【HP】 3/3

【MP】 31,513/1,000,003,314


【力】   11

【魔法力】 100,000,310

【体力】  8

【精神力】 6

【素早さ】 15


【勇者固有スキル】

  無制限瞬間移動LV10 無制限アイテムボックスLV10

  極大落雷LV1 おもいだすLV6

  ふっかつのじゅもん・セーブLV10 ふっかつのじゅもん・ロードLV10


【魔法系スキル】

  魔力感知LV10 魔力操作LV10 光魔法LV10 時空魔法LV10 鑑定LV8


【耐性系スキル】

  苦痛耐性LV10 睡眠耐性LV10 毒耐性LV10


【生活系スキル】

  算術LV7

********************************************************



 よっわ! 私よっわ!! HP3って! コケたら死ぬわ!

 おぉぉ……言うてる間にもMPがぎゅるぎゅる自然回復していく。MP10億の暴力マジパナイ。


 で、【瞬間移動】と【アイテムボックス】はもとよりチートレベルなのでLV10のまま残しておいた。

【算術】はまぁなんとなく。

【光魔法】はAIボット製造に必要なので。【魔力感知】と【魔力操作】も同様。まぁ、それとなく実力を隠しつつやっていくしかありませんな。

【鑑定】はLV9を目指すためのスタートダッシュということで。


 で、驚くべきスキルが【毒耐性】LV10!

 前世の私は【毒耐性】なんて持ってなかったのに、いきなりのカンスト!

『蟲毒の短刀』の威力高すぎィ! 魔族と辺境伯の殺意高すぎィ! ま、まぁ【パーフェクト・ヒール】ですら治らなかったんだものねぇ……。

【毒耐性】については、念のため残しておくことにしたよ。人にステータス見せるときは『隠蔽』すればいいし。


 ――お、【名前】欄が『(未定)』から『アリス・フォン・ロンダキルア』に変わったよ。

 というわけで、2周目のアリスちゃん、しゅっぱつしんこー!!






******************************************************************

追記回数:14,142回  通算年数:1,242年  レベル:1(2,127)


ついに4,649回からカウンターが回り始めた追記回数。

ここからじゃんじゃん回ります。


次回、0歳0ヵ月からやりたい放題!

そして好きに死に戻れるのをいいことに、間諜の女スピオーネに戦いをしかけます!

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