64(1,234歳)「アリスマン鬼軍曹!」

 108枚の【契約】書を書いた。

 私について来てくれる従士108名を数十年ほど鍛えるために。


 というわけで、従士108名を【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】へごしょうた~い!



    ◇  ◆  ◇  ◆



「訓練教官のアリスマン女城伯軍曹である!」


 魔の森別荘にて。

 居住区の裏手のダブル【防護結界】をがばっと広げ、【森ごとアイテムボックス】して運動場を作った。


 目の前には、私について来てくれた108名の従士諸君。性別は男性が102名、女性が6名。年齢は15~46まででまちまち。

 ちなみに私の後ろでは、ホーリィさん、ノティアさん、リスちゃん、あとなぜかフェッテン様がいて、みんなは笑いを堪えている。


「話しかけられた時以外、口を開くな! 口でクソ垂れる前と後に『サー』と言え! 分かったかウジ虫ども!」


「あの……閣下は城伯様なので、サーではなくロードでは?」


 十代半ばくらいの少年従士が、至極もっともな疑問を口にする。

 うんそうだねぇ。『イエス・マイ・ロード』の方が正しいと思うよ。

 だけど今の私はとてもいい空気を吸っているので許さない。


「だぁれが勝手にクソ垂れていいと言ったぁ!」


 ばちこぉん!


【瞬間移動】で背後に回って、ケツ叩き!


「あぎゃっ!?」


 いい悲鳴を上げるが、ちゃんと怪我しないように細心の注意を払ってるよ、もちろん。


「分かったか、ウジ虫ども!」


【浮遊】で若干身長を水増ししつつ、少年従士の頭を掴んでゼロ距離【威圧】する。まぁせいぜいオーガの咆哮くらいのレベルで。


「「「「「……さ、サー・イエッ・サー!」」」」」


「ふざけるな! 大声を出せ! タマぁ落としたか!」


「「「「「サー・イエッ・サー!!」」」」」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 というわけで、私、フェッテン様、ホーリィさん、ノティアさん、リスちゃんで手分けしてそこらの伝説の魔獣をとっ捕まえ、【土魔法】で手足と口をぐるぐる巻きにし、【瞬間移動】で魔の森運動場へ運び入れた。私は【脚斬りアイテムボックス】を使ったけど。


 運動場では、108名の勇気ある従士たちがゲロまみれになってのたうち回っている。

 あはは、強くなれ!


「うっぷ……サー、アリスマン女城伯軍曹様が若くしてそれほどまでにお強い理由が、ようやく分かりました、サー」


 ベテラン従士さんが、私の冗談に付き合ってくれながら話しかけてきた。


「あはは、驚かれたでしょう。この調子でまずは全員200まで上げますよ。

 分かったか、ウジ虫ども!」


「「「「「サー・イエッ・サー!!」」」」」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 で、全員200になったので、魔法の練習&食事がてら目の前の死体の数々を解体、調理させることにする。


「まず見本を見せます。これと同じことができるようになるのが、ここで生き抜くための最低レベルとなるので、心して見るように」


「「「「「サー・イエッ・サー!!」」」」」


 何体もの死体を同時に【テレキネシス】で浮かせ、内臓を傷つけることなく【ウィンドカッター】で肉を切り分け、【アイテムボックス】から取り出した塩と香辛料コリアンダーを【テレキネシス】で肉に振りかけながら【ファイアウォール】で炙り、【アースボール】で作ったお皿に乗せ、【アイアンニードル】で作ったナイフとフォークとともに、【アースウォール】で作ったテーブルに乗せる。


 同じことを、私たち5人全員が同じ水準でやってのけるのをまざまざと見せつけられ、従士諸君らはお通夜みたいな表情になった。


 あ、ちなみに銀製の食器は作らないよ! 金銀財宝生成は陛下に禁止されているので。


「自分の分は自分で作れ、ウジ虫ども! あ、魔法教本持ってない人います? うんうん全員持ってるのね、良い心がけです。塩と香辛料コリアンダーは提供しますのでご安心を。では訓練開始!」


「「「「「サー・イエッ・サー!!」」」」」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 続いて簡易入浴魔法――【ホットシャワー】と【ドライ】――を覚えさせ、各自入浴ののち、私が【アイテムボックス】から取り出したテントとベッドで就寝。

『このテントとベッドはくれてやる。ベッドで寝たくば、この容量の【アイテムボックス】を速やかに覚えろ!』って言ったら、従士諸君は泣きそうな顔をしていた。


 まぁ内部時間で数十時間ぶっ通しだったので、みんな良く寝てたよ。

 私たち? 私たち5人はみんな高レベルな【睡眠耐性】持ちなので、全然ピンピンしてる。私なんて赤ちゃん期養殖で死の眠りにつきまくった所為せいでカンストしてるし。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「起床ぉ~~~~ッ!! 40秒で整列しな! ひとりでも遅れれば全員腕立て伏せ千回!」


 きっかり7時間後、【物理防護結界】で範囲指定しつつ、力の限り声を張り上げた。


 どたばたどたばたッ!!


 必死の形相の従士諸君がテントから這い出て整列する。


「メシだ! 戦場だと思ってかっ込め!」


 従士諸君の目の前には、人数分の白パンと山盛りの串焼きと塩味たっぷりの暖かいスープ。厳しくはするけど、食事はちゃんと美味しいものを食べさせてあげないとね。


「「「「「サー・イエッ・サー!!」」」」」


「食い終わったやつからこの剣を取れ!」


 机に並べているのは108振りのダイヤモンド・ソード。透明とかだと弱く見えそうだから、色は黒にしておいた。黒だと夜戦にも向いてるし。マ○クラだとエメラルドグリーンっぽい色だったっけ?

【土魔法】でいろいろ詠唱をアレンジしてるうちに出たんだよね、ダイヤ。

 プラチナ・金・銀・銅の生成を陛下に禁止されてるのに、ダイヤを勝手に出していいのかって?

 いいんだな、これが。


 そもそも地球でも、昔はダイヤモンドの価値はそんなに高くなかった。

 ダイヤが美しいものとされ、高価になったのはブリリアントカット等のカット技術が発展したから。というか現代地球でも、未カットのダイヤ――工業用ダイヤって言うんだっけか? よく知らないけど――はそこまで高くない。まぁ安くもないが。


 ちなみにダイヤはノティアさんでも出せた。どういう基準なんだろうね?

 まぁ言いつつノティアさんはすでに、白金も出せるようになってるんだけど。


「絶対に折れず、竜鱗りゅうりんすら貫く一級品の剣だ! ……あ、なので自分や味方を斬らないよう、扱いにはくれぐれもご注意くださいね? あとはこの小盾を取れ、ウジ虫ども!」


 これまた机に並べられているのは、地竜アースドラゴンの翼の皮をなめしたもので作った革盾。随所をダイヤで補強してある。


地竜アースドラゴンの翼で作った、これまた一級品の盾だ! この剣と盾を手にしたお前らは、王国を最前線で守る尖兵となる!」


 従士諸君を鼓舞する。

 これから指揮とか鼓舞の機会は増えるだろうから、私も練習しないとね。


「では魔物どもがウジャウジャいる森の中へ吶喊とっかん!」


「「「「「うぉぉぉぉおおおおお!!」」」」」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ってことで数十年。

 外部時間が夕方になるまで養殖した。108名全員をレベル300まで上げたよ。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「ドミニクさんはあっちでスヴェンさんと一緒に馬防柵作ってください。あ、もちろん鉄製で、その上に木を被せて偽装してくださいね。木の方は丸太の中身を【アイテムボックス】で抜けば難しくないはず。

 アメリアさんは魔力どのくらいでしたっけ? おぉ、随分鍛えましたねぇ。じゃああっちでノティアさんと一緒に壁をダイヤモンドに置換する作業に入ってください。ハイこれ魔力回復ポーション詰め合わせ。

 エットハルトさんはまだ鉄は出せないんでしたっけ? じゃあそっちで落とし穴を掘ってください、【アイテムボックス】で。

 ヨハネスさんは――」


 養殖済の108名プラス、ホーリィさん、ノティアさん、リスちゃんを従えて、今日も今日とて砦と壁、壁の外の魔改造。


 もはや私たちは、どこまでも続くこの人族最前線の壁をダイヤモンド製に置き換えることができる。

 4歳の頃、この壁をなんちゃって煉瓦製に置き換えていたころから考えると、隔世の感があるね!


 そして城壁の上では見張りの軍人さんたちが、私たちの魔法土木工事を呆然と眺めている……チミたちちゃんと見張りの仕事しなさいよ!?

 ホントはキミたちも養殖したいんだけど、さすがに他家の人たちを【契約】で縛ったり高レベルにするのはちょっと気が引けててねぇ……。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 そうして、練兵、城塞都市や周辺の村への見回りと治安維持、テコ入れしている工房・商店のフォロー、魔の森での従魔の増強、陛下や各領主からの指名依頼、時々フェッテン様とのデートなんかに明け暮れているうちに、あっという間に2年が過ぎた。






************************************************************

追記回数:4,649回  通算年数:1,241年  レベル:2,127


次回、魔王復活。

第1章最終回まで、あと 3 話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る