61(963歳)「そして3年の年月が流れた……」
そして3年の年月が流れた……漫画の最終回とかじゃなくて、実際に流れたよってそのネタしつこい? ごめん……。
季節は冬。
10歳(実質9歳)の新年を迎えた。
砦の食堂でマッチョマンたちと一緒に朝食を摂り、パパンとママン、そしてすくすくと成長中の弟ディータくん7歳(内部年齢数百歳)にお出かけの挨拶をし、【瞬間移動】で王都の教会前へ。
おなじみホーリィさん、ノティアさん、リスちゃんはすでに来ていた。
あ、ちなみに、本来は王都や領都に入る時は関所で登録と税金の支払いをしなくちゃならないんだけど、Sランク冒険者であり【瞬間移動】持ちでもある私たちに限っては免除されている。悠長に門をくぐってる時間があるなら、1つでも多く依頼をこなせってわけだ。
うーん、合理的!
今日は王都中の10歳が集まる洗礼ラッシュになるわけで、まだ6時過ぎなのに、教会の外にまで長蛇の列ができていた。
「しゃ~ない、並びますか」
「あいよ」
「「はーい」」
「――えっ、天使様!?」
あ、私の前に並んでる人が私に気づいた。
冒険者登録から早5年、王国中を荒らしまわ……げふんげふん癒して回った私たちには、【○○の女神】とか【○○の天使】とかいうこっ
でも全知全能神ゼニス様を差し置いて女神様呼ばわりされるのは気が引けるのでやめてくれ、とさんざん言って回ったところ、私に対する呼び名は『天使様』で定着した。
まぁそれも今日、『勇者様』に変わるわけだけど。
「えっ、天使様だって!?」
「天使様!!」
「えぇっ、アリス様がここに!?」
「あっ、ホントだわ! キャー、アリス様ぁ~!!」
「か、可愛いぃ……まるで天使、いや天使だったわ」
「あぁ、なんと凛々しいお姿なんでしょう!!」
あっという間に、取り囲まれる私たち4人。10歳の子たちやその親御さん、騒ぎに気づいた教会の人や通行人まで集まりだして、収集がつかない騒ぎに。
特に少女たちが、きゃいのきゃいのと姦しい。私ってば宝○歌劇団の男役的な人気があるんだよねぇ。姿絵というかブロマイドもどきが王都のみならずいろんな領都でも出回るくらいには。
あと、二次性徴に入りだして育ちつつあることもあり、ごくたまに男性向けのそういうブロマイドを路地裏の商店で見かけるんだよね……。
実質9歳児相手になんてこと考えるの!? そりゃ西洋人風の顔立ち・体つきだから十代前半くらいに見えなくもないけど……そういうエッチなのは見つけ次第、全部燃やし尽くしてやったよ!!
「パーヤネン閣下、どうかサインを!」
「きゃぁ~抱いて~フェンリス様ぁ~」
おや? 一部ノティアさんとリスちゃんのファンがいるな。
ホーリィさんは身バレを防ぐために余り目立たないようにしてるので、固定客はいないようだ。
いやそれよりも、この場を収めなければ。
「あ、あのっ……」
生来のコミュ障たるこの私。王侯貴族ともガンガン喋れる反面、不特定多数の視線に囲まれるというのがいつまでたっても慣れない。
「みなさん、列に戻ってください……お騒がせしてしまってすみません」
しろどもどろに、それだけ言うので精一杯だ。
とはいえ、これは私のミスだな。顔を隠して並ぶか、もう少し落ち着いた時間帯に来るべきだった。
「天使様も洗礼を受けに来られたのですな? ささ、中へ――」
教会の人が前に出てきて、私たちを案内しようとする。そして、ざざざっと2つに分かれる人の波。私ゃモーゼか!
「い、いえ! 洗礼を受けに来たのは確かですけど、横入りは好きじゃないので……私の場合、時間がかかると思いますし」
全職業試すつもりだからね……。
「おお、なんとお優しい――」
「さすがは天使様だ――」
口々に賛美の言葉を並べる人たち。
「あっ、外は寒いので……今日1日温めときますね。教会の庭の通路部分をダブル【防護結界】! で囲って、20度の【ヒートウィンド】を【
もちろん吸気と排気も忘れない。結界は薄っすら白く輝くから、入口と出口も見ればわかる。
「おおっ!」
「これが天使様の御業か!」
「あとお騒がせしたお詫びに――【アイテムボックス】――はちみつレモン味の飴ちゃんをどうぞ! 生姜が入ってて、温まりますよ。
はい、はい、どうぞご遠慮なく。ええと……受け取った方は列に戻って頂けると……」
ようやく列に戻っていく人たちと、解散する野次馬さんたち。
はぁぁ~……疲れた。
「あはは、お疲れ様アリスちゃん」
「ちょっ、私がああいうの苦手って知ってるでしょう? どうして助けてくれないんですか」
笑うノティアさんへ、私からの恨み節。
「だって今日でついに、『ゆ』で始まって『や』で終わる例のことが判明するのよ? そしたら民衆に演説したり軍隊を鼓舞したりする機会なんていくらでも出てくるんだから。少しでも慣れておかないと!」
「うぅ……正論、セイロンティー」
「またなんか言ってるわね」
私の異世界語ギャグ(この世界から見て)をノティアさんはスルー。
この5年間、パーティーメンバーとして一緒に活動してきたんだから、慣れたものだ。
「それにしても5年か……いろいろやったねぇ」
ホーリィさんがしみじみと言う。
ホントいろいろやった。
魔物と見れば屠り、
洪水と見れば治水をし、
山火事と見れば消火して、
干ばつとみれば雨を降らせて井戸を掘り、
労働者不足と見れば神級【光魔法】のAI搭載ゴーレムを作り、
疫病と見れば地域一帯ごと【フルエリア・パーフェクト・ヒール】で治療し、
枯れた鉱山のスラムを見つけては領主に新たなボードゲームのアイデアをプレゼントしてスラムに職を斡旋し、
温泉と見れば道を敷いて街興し。
「あれは陛下にめっちゃ怒られてたわね。『道を敷くなら事前に許可を取れ。ましてや無断で街を興すなど何事か!』って。どうして単独行動の時に限って、そういう大事を起こすのよアリスちゃんは」
「街道は行軍の
ノティアさんとリスちゃんからのお説教。
「でもそのあとすぐに街道整備の指名依頼が発行されたじゃないですか!」
盗賊と見ればアジトごとぶちのめし、
浮浪児と見れば拉致って城塞都市の『アリス学校』へ放り込み、読み書き算術を覚えさせたのちは新産業の工房や商店の丁稚へ出した。
天使だ女神だと崇められた。
いろいろやったけど、水○黄門みたいな世直しごっこはやらなかった。
悪徳商人とか悪徳領主とかもさんざん見たけれど、そいつら個人を懲らしめたからといって必ずしも世の中が良くなる保証もなし、逆にそういう立場ある人間が急にいなくなり、かえって荒廃する可能性もある。
生来のコミュ障のせいもあって、どう立ち回ればいいか分からなかった。なので、もっと単純に魔力の暴力で強引に解決して回った。
最終的には8割近い領主様から支持をもらえるまでになったけど、最初のころは各領主様からの反発もたびたびあった。
長年頭を悩ませてきた問題を小娘にあっさり解決されてしまっては、領民に対する面目が保てない……とか。まぁ、分からいではない。
逆に、自領の問題解決を素直に喜び、報酬に色をつけてくれる領主様も多かったけどね!
反発といえば、特にロンダキルア辺境伯様からは何度も何度も妨害を受けた!
ぐぬぬ、あの腰抜け辺境伯めぇ……まぁ逆に、
陛下のお墨付きをもらった上でのことだし、ただでさえ汗をかく軍人さんたちの健康維持・向上は城塞都市を守るパパンの重要な任務なのだから。
あ、もちろん、失業者さんたちは私の新産業にご案内したよ。
◇ ◆ ◇ ◆
長い行列が終わり、私の番がやってきた。
女神様像と祭壇の横に、ぽつんと2つの桶が置かれている。
ひとつは水入り、もう1つは空っぽ。
この世界では10歳を超えると洗礼を受け、職業に就く。その後は農家で農耕を手伝うなり商家で丁稚奉公をするなり冒険者ギルドに登録してGランクから下積みを始めるなりし、15歳の成人をもって独り立ち、というのが通例。
平民用の学校なんて存在しないこの世界、5歳も過ぎれば稼業の手伝いなんて当たり前。それだけに、10歳までに経験値が溜まっていて、職業に就いた途端、一気にレベルが上がる人が多いらしい。
特に幼い頃から武術に勉強に礼儀作法にと叩き込まれる貴族家令息などは、レベル1から一気にレベル10にまで上がる例もあるのだとか。
祭壇の横に置かれているこの桶は、レベルアップ酔いに備えてのことってわけだ。シュールだねぇ……。
ならば、千数百年と剣を振り続け、魔法を使い、狩りをし、農耕に明け暮れてきた私はどうなるのか?
「さぁ、この祭壇で
神父様のお言葉。
「はい」
祈る。ガチ祈りしたらあの不思議空間に呼び出されちゃうから、ほどほどに祈る。
シュンっと音がして、目を開けば目の前に職業一覧のウィンドウ。変なところがゲームチックだねぇ。
「さぁ、それがあなたの選べる職業……で……す……?」
神父様、ウィンドウを覗き込んだままフリーズ。
10秒後、
「ゆ、ゆ、勇者ぁぁあああああああ!?」
……あはは。
まぁ、そうなりますよね。
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追記回数:4,649回 通算年数:1,234年 レベル:700
次回、千数百年間の魔法や戦闘や狩猟や農耕や野宿で溜めに溜めまくったアリスの経験値が火を噴きます。壮絶なレベリング酔いから、アリスは生き残れるか!?
第1章最終回まで、あと 6 話。
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