56(653歳)「冒険者ランク爆速昇進!」

 またやってしまった……。

 衆目の前で、泡吹いて気絶したとのこと。

 鉄板芸か! 気絶芸人か!


 いくら【リラクゼーション】しても起きないから、陛下が『英雄少女は魔物には強いが男には弱いのじゃ』とかなんとか適当にお茶を濁して婚約発表は終わったらしい。


 お話はお受けすることにしたよ、もちろん。

 もとより一介の騎士爵家の娘に断る権利なんざあるわけないし、私もフェッテン殿下のことはす、す、好きだし……。


 ちなみに私の年齢が現在、千歳弱。フェッテン殿下は『お披露目会』前日もずっと籠ってたそうなので500歳くらいかな?

 すでに私はパパンとママンよりずっとずっと年上だし、もはや『年齢とは?』って感じだから、あの部屋の利用者は誰も深く考えていない。


 ……閑話休題。


 フェッテン殿下との甘ぁい生活を無双するのも……じゃなかった夢想するのもよいが、目下のところは魔王討伐に向けての全国の旅だ。


 とりま聖剣が眠るとかいうダンジョンに入る許可を得るため、サクっとCランクまで上げますか!



    ◇  ◆  ◇  ◆



「というわけで、やって来ました王都の冒険者ギルド前!」


 私、ホーリィさん、ノティアさん、リスちゃんのかしましいパーティーがギルドの扉前に立つ。

 ちなみに私は、連れて来たチビに騎乗している。道行く人たちに一様にビビられ、そのたびに【リラクゼーション】しつつ私の従魔だと説明したよ……。


 ちなみにパパンとママンと3バカトリオは城塞都市に帰っていったよ。貴族の義務ごうゆうとやらを果たしながら。


 ――からんからん


 扉を押すとドアベルが鳴り、冒険者さんやギルド職員さんたちが一斉にこちらを見る。


「ひぅっ……」


 ビビる私と、


「「「「「「「「ぎゃぁぁああああ!?」」」」」」」」


 あ、しまった。こんなデカいワンコが入ってきたらビビるわな。


「あっ、あの! このフェンリルは――」


「「「「「「「「フェンリルぅぅう!?」」」」」」」」


 あー……。


「【フルエリア・リラクゼーション】! 失礼しました。この魔物は私の従魔なのでご安心ください! ほらこの首輪、【従魔テイム】の証です!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



【リラクゼーション】重点でなんとかかんとかその場は収まった。


 時刻は朝7時。依頼受注ラッシュの最中だけどこちとら仕事だ。

 普通に列に並ぼうとすると、


「あ! アリス様! どうぞこちらへ!」


 ギルド職員の方に、ギルマス部屋へ案内された。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「嬢ちゃん! いつまでたっても来ねぇからよ、なんかあったのかと思ったぜ。あ、昨日の『お披露目会』のウワサは聞いてるぜ。第二王子殿下と婚約したって?」


 入るや否やギルマスさんに茶化された。


「な、ななな……いやそれより、何か用ありましたっけ?」


「何って魔物100体の代金だよ」


「――――あっ!」


 素で忘れてた……。


「ま、マジかよ……どういう頭してんだ? おまけにフェンリルなんざ連れて来るしよぅ」


 私が忘れてたことに気づいたらしいギルマスさんからの誹謗中傷……いや適正な評価か。


「あーでも1,000億ゼニスもらったあとじゃ、2億ゼニスはかすむ……のか?」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 もらった2億弱は、ホーリィさん、ノティアさん、リスちゃんの3人に3等分して献上した。施しとかではなく、【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】で狩った獲物はそうポンポンと納入するわけにはいかないのに、そのチャンス1回分を私が奪っちゃったお詫び、という意味で。

 事実、お三方の【アイテムボックス】内には伝説の魔獣がひしめき合っている。


 あ、【闘気】以外の魔法が苦手な獣族のリスちゃんも、一通りの魔法と【アイテムボックス】、【飛翔】、【瞬間移動】は使えるようになったよ。

 そりゃあれだけ養殖すればねぇ……ちなみに【片手剣術】はLV10カンストらしい。私は未だLV6だというのに!


「ってことで、Fランクの魔物討伐依頼をお願いします」


 4人のギルドカードを提示し、受付嬢へ受注したい内容を告げる。依頼はボードに張り付けてあるのを自分で見繕ってもいいけど、こういうふうに受付嬢さんに適当なのを案内してもらうこともできる(ノティアさんに教えてもらった)。


「ご、ご希望の内容はございますか?」


 カードのランクがS・S・B・F(S)というハチャメチャ度合いにビビり気味の受付嬢からのご質問。


「ないです。あ、滞ってるのとかがあれば引き受けます」


「Fランクですから、そういうのは特にはありませんね。ではこちら、常時依頼の角ウサギ納入依頼をお願いできますか?」


「納入すればいいんですか?」


「はい。食用ですので」


「あ、じゃあ今出せます」


 城塞都市からの道中で狩ったやつが結構ある。


「では、こちらの用紙を持って解体場へお越しください」


「はい!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ってことで納入し、E(S)ランクに昇進。


「Eランクの魔物討伐依頼をお願いします」


「ではこちら、北の森のゴブリン討伐をお願いします。おひとりにつき最低1体で達成です」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「というわけでやって参りました王都北の森!」 


 王都は北の山脈から流れ込む川と、肥沃な大地を目当てにして作られた都。

 王都北はだいぶ開拓が進んで川沿いの街なんかが広がりつつあるものの、まだまだ暗い森が広がっている。

 水場があれば魔物も生息できるわけで、魔物の定番、ゴブリンどもも生息しているわけだ。


 王都郊外に【瞬間移動】して、そこから【飛翔】して来た。


「じゃ適当に狩りますか! 5分後にまたこの場所で」


「あいよ」


「「はーい」」


 さすがにホーリィさんは『はーい』みたいに可愛い返事はしてくれない。


 三々五々【飛翔】で飛んでいくお三方。


「私はチビにお願いしようかな」


「わふっ」


「【探査】!」


 ゴブリンの集団を捉えた。


『チビ、2時方向1.2キロ先にゴブリン5。屠ったあとに右耳を持ってきて』


『わふっ』


 チビが物凄い速度で【飛翔】し、あっという間にゴマ粒のようになる。何が凄いって、チビは自分の後方に【魔法防護結界】を張って、【テレキネシス】で自分のお尻に固定し、背後から【風魔法】をバコバコ当てて強引に加速するんだよね!

 そりゃ私の『【瞬間移動】移動』には劣るが、十分すぎるほど速い。

『視覚共有』すると、目が回りそうになる。『【瞬間移動】移動』とは違い、単純に速いからね。

 いやぁチビも育ったねぇ!


 ほどなくしてチビはゴブリン集団の上空に到達し、【闘気】でゴブリンたちの様子とか進行方向を探ってるみたいだ。

 若干移動してから自由落下し始めた。視界がぐんぐんと森に近づいていき、着地寸前で一瞬【飛翔】し、ふわりと着地。

 そこから私の動体視力で追いつけない速度で疾走し始めたので、【思考加速】を20倍ほど。


【隠密】状態なのであろうチビが最初の1体の首を折り、2体目の首を折っても残り3体は気づかない。3体目の首が折れた時点で残り2体が気づくも、チビの姿は視認できない様子。オロオロしている間に残り2体も屠られた。

 チビ的には首をねる方が、【ウィンドカッター】も使えてやりやすいんだろうけど、『右耳を持ってきて』という私の指示に従った形なのだろう。

 【ウィンドカッター】で器用に5体同時に耳を切り、視界が一瞬暗転し、空が移った。続いて私の顔が映し出される。


「視界共有オフ! よぉ~しよしよしチビいい子!」


 すぐそばに寄り添っているチビの頭をモフモフわしゃわしゃすると、チビの尻尾がぶんぶん動く。


『じゃ、チビ、耳をこの袋に入れてー』


 市販の革袋をチビに差し出すと、チビが自分の耳を入れてきた!


「ぶふぉっ」


 お前、私をキュン死させるつもりか!?


『ち、違くて、ゴブリンの耳を入れて』


「わふっ」


 チビのそばにふわふわ【浮遊】していたゴブリンの耳5つが思いっきり風でぶん回されて強制血抜きされたのち、革袋に入っていった。もちろんチビは【物理防護結界】を展開していて、ゴブリンの血が私たちに跳ねるようなことはない。


「今日初めて見たけど、本当に可愛いワンちゃんよね、その子」


 いつの間にかすぐそばに来ていたノティアさんがチビを褒める。


「撫でても大丈夫?」


『チビ、ノティアさんに撫でてもらいな』


「わふっ」


「いいそうですよ」


「じゃ、じゃあ……」


 ノティアさんがゆっくりと、チビの首筋や胸毛をモフモフし始める。


「おぉ……いきなり頭に触らないとか、分かってますね!」


「まぁエルフだからね……宮廷魔法使いになる前は森に住んでたし」


「へぇ~」


「戻ったよ」


「戻りました!」


 全員揃い、革袋の中の耳は合計32個になった。


「じゃ【瞬間移動】でギルド上空へ戻りますよー」


「あいよ」


「「はーい」」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ってことで納入し、D(S)ランクに昇進。


「Dランクの魔物討伐依頼をお願いします」


「あ、あはは、10分で戻ってくるとか……まぁ、あなた様方ですものね。では食用オークの納品任務をお願いします」


「結構持ってるんで、このまま納入しても?」


「あははは……はぁ、はい。この用紙を持って解体場へお越しください」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 並みのオークだとDランク冒険者さんたちの収入を刺激しそうだったので、オーク・エンペラーとオーク・キングとオーク・ジェネラルを数体ずつ納品した。

 解体場のあんちゃんも受付嬢さんもみんな引きつり笑いしてたよ。


 ってことでC(S)ランクに昇進……できなかった。


「あの……Cランクに上がるためには、盗賊または犯罪者の討伐または捕縛依頼を1件以上成功させなくてはいけないんです」


 申し訳なさそうに、受付嬢さん。


「あぁ!」


 そうだったそうだった!


「じゃあオーク納入する必要なかったじゃないですか。言ってくださいよぉ~」


「す、すみません……? でも、先ほどは『Dランクの魔物討伐依頼』をご希望されましたので」


「あっ! す、すみません……私が悪かったです」


「いえいえ……冒険者様のニーズを把握しないままご提案してしまったのは私ですし」


 なんとも言えない空気になった。


「ねぇ受付さん、この子は王都への道中で3つの盗賊団を捕縛してるんだ。実際にこの子が捕縛した盗賊団を牢屋に叩き込むところを見たから、近衛騎士団長でSランク冒険者のオレが保証する」


 おっ、リスちゃんが何か言い始めたぞ? そして、対外的な会話の時は、さすがに私のことをお姉様呼びしない。


「で、その連絡は王城から冒険者ギルドにも来てるはずなんだ。大規模な盗賊団3つだ。1つくらい、討伐依頼が出てたんじゃねぇか?」


「んんん……?」


 受付嬢さんがカウンターの奥から何やらファイルを持ち出してきてパラパラめくる。


「あ、これだわ……『本件、ロンダキルア騎士爵家ご令嬢アリス姫によって解決済。報酬を受け取りに来られた際にはギルドマスターへ連絡されたし』」


 続いてカウンターに置かれた私のカードを見て、


「D(S)ランク冒険者アリス・フォン・ロンダキルア……あぁ! 同一人物! し、失礼しました! というか盗賊団を討伐できるフォン持ちごれいじょうなんてあなた様くらいでしたね。しばらくお待ちください」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 というわけで、いくばくかの報酬をもらい、C(S)ランクになった。


「Cランクの適当な依頼を教えてください」


「あぁ、それでしたら!」


 受付嬢さんがポンと手を叩く。可愛い仕草しやがってぇ……ときめいちゃうやないの!


「暖かくなってきたこの時期、北のダンジョン街『ペンドラゴン』で魔物の集団暴走スタンピードを防ぐために積極的にダンジョンに潜って頂く必要があるんです。Dランク以上の魔物を最低10体狩って頂く常時依頼をぜひ受けて頂きたいですね」


 陛下も同じこと言ってたな。

 私の次の目的とも合致してるし、行きますか!


「みんなもいいですね?」


「あいよ」


「「はーい」」


「じゃあそれ受けます!」


 ダンジョン街『ペンドラゴン』へレッツらゴー!






*********************************************************

追記回数:4,649回  通算年数:653年  レベル:666


次回、ダンジョン街でのとある物語。

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