41(414歳)「国王陛下への謁見」

 なんと、国王陛下への謁見は王都に到着したその日に叶った。

 というか、私たち一家は王子様の馬車に乗り換えさせて頂いて、そのまま入城した。


 先ぶれは、王子様が倒れた時に泊まった宿場町で、王子様が2度救われた話と一緒に手紙を飛ばしていたらしい。

 らしい、というのは手紙は王子様の配下の方が用意したから。


 3バカトリオはお留守番……というか宿取ったり馬の世話したりだね。


 入城時点で時刻は昼下がり。

 その後、私とママン、パパンが別の部屋に案内され、服を脱がされ風呂に入れられ、キラキラな服を着せられて化粧された――化粧はママンだけだけど。

 たぶんパパンも同じようなものだろう。


 そして、今。

 私、パパン、ママンの3人は、豪華な応接室のような、略式の謁見室でソファーに腰かけている。


 いわゆる、一番奥に王様が座っていて、その左右に重鎮が立っている『謁見の間』! って感じの部屋ではない。

 王族でもなく、爵位を持つわけでもない女性が謁見して頂けること自体が異例なので。


 ……がちゃ


 扉が開き、


「まもなく陛下がいらっしゃいます」


 男性が入ってきて、向かいの席の後ろに立つ。

 パパン情報によると、この方は宰相様だ。


 私たちはソファの前で礼を取る。

 男性のパパンは片膝ではなく両膝で跪き、右手のこぶしを左胸に当てる。

 私とママンはカーテシーをしつつ腰をおり、目を伏せる。


 礼儀作法の時間には頭に本を載せられ、頭を下げるなとさんざん言われたけど、国王陛下相手の最敬礼の場合は頭を下げるのだとか。


 ……礼儀作法難しすぎィ!


 まぁ日本でも、お酌する時のラベルの向きは、とか、エレベータ内での上座はどこか、みたいなアホくさいマナーがあったけどさ。

 ちなみにエレベータ内の上座は操作パネルから一番離れた奥。むしろ息苦しいっちゅうねん!

 ラベルは上向きなんだけど、理由は忘れた。見やすいからか?


 とかなんとか考えながらしばらく待つと、


 ……バタバタバタ!


 ふたり分の騒がしい足音が聞こえてきて、


「ジークフリート! ひさしぶりじゃなぁ!」


 なんともフランクな感じのイケオジ――国王陛下だよね?――と第二王子様が入ってきた。

 顔は伏せたまんまなんだけど、もはや身に沁みついている【探査】グセで、容姿とか体格をスキャンしちゃうんだよね……不敬に当たらなければいいけど。


 まぁ騒がしい足音に警戒して、とっさに出ちゃった【探査】だから、きっとセーフ! ヨシ!


 陛下と王子様が向かいのソファにどかっと座り、


「顔を上げてくれ!」


 やはりフランクな感じ。てっきり『おもてを上げよ』ってくるかと思ってたのに。


 恐る恐る顔を上げると、探査した通りのイケオジ――御歳は確か40代後半――と、おなじみの王子様・フェッテン殿下が座ってた。


「ほほぅ、その方がジークフリートの娘か! 名を聞かせてもらえるかの?」


「ははっ」


 私は再びカーテシー。


「お初に御目にかかります、アリス・フォン・ロンダキルアと申します。陛下におかれましては、ご機嫌うるわしゅう」


 礼を取ってからソファに座らせて頂く。


「アリス、儂の大事な息子の病を治してくれたこと、心から感謝する。魔物の集団暴走スタンピードから息子を救ってくれたことも含め、然るべき褒美を取らせよう」


「そ、そんな……恐れ多いことでございます」


「そなたやロンダキルア辺境伯城塞都市の発展の話は、儂もたびたび聞いておる。その力と知恵を、これからも国のために振るってもらいたい」


「ははっ」


「それにしてもジークフリート、無骨者のお主の娘とは思えぬほど礼儀正しいではないか。18で竜殺しとなり、謁見の場に現れたそなたといったらもう、まるで無理やり服を着せられた山猿のようじゃったからな!」


「へ、陛下、その話は――」


「はっはっはっ! して……ジークフリート、こたびの謁見の目的はなんじゃ?」


「はい。今日はどうしても直接お伝えしなければならないお話があり、こうしてお時間を頂きました」


「ほほう……我が盾の役目を拒否した剛胆者のお主から、どんな話が飛び出してくるやら。それも、人払いまで願い出るとはな」


 嫌味を言いつつも、陛下の顔は嬉しそうだ。パパンの言う通り、陛下とパパンは仲良しのようだね。


「単刀直入に申し上げます。

 この、5歳になる我が娘アリスは……【勇者】です」


 おおっ! 謁見開始数分からど真ん中どストレート!!

 飛ばすねぇパパン!


「「「――――……」」」


 陛下と王子様と宰相様が目を見開き、たっぷり10秒間。


「……なるほどな。妻と娘を謁見させるなどという異例中の異例を申し出てきたのは、そういうことか」


「アリスの強さから、只者ただものではないと感じていたが……そうか勇者か! ますますもって娶りたい!」


 またかよ王子様!


「……ごほん。ステータスをお見せしてもよろしいでしょうか?」


「うむ」


 パパンが私に目で合図する。


「はい。――【ステータスオープン】!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 神系の称号と【ふっかつのじゅもん】と【おもいだす】、あとMPと魔法力は隠蔽しておいた。


「「「――――――――……」」」


 フリーズする陛下と王子様と宰相様。

 たっぷり5分はたってから、


「れ、レベル600……それに他のステータスも……は、ははは、これはすごいな。それで……魔力と魔法力は見せられんのか?」


「ご無礼をお許しください、陛下。魔力と魔法力だけは、高すぎて自分でも分からないのです」


 まぁ嘘なんだけど……。

 MPと魔法力を見せちゃうと、どうしても【ふっかつのじゅもん】に話が飛び火しかねないから……。

 いくら【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】があるとはいえ、MP1億越えはあまりに異常。事実、【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】であれだけ鍛えても、MPも魔法力もほとんど上昇しなかった。


「な、ななな……他のステータスでこれなのに、た、高すぎて分からない、じゃと!? いったいぜんたいどうすれば、そのような高いステータスになるのじゃ!?」


「はい……陛下、娘に魔法を使わせてもよろしいでしょうか?」


「あ、あぁ。もちろん構わんとも! 【勇者】は国の宝。勇者の魔法が儂らを害する可能性なんぞ、考えるのもバカらしいからの!」


 うれしいことを言ってくださる陛下。

 某辺境伯様とはえらい違いだな!


「では――でよ【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】!」


 ――ばしゅん!


 陛下から少し離れたところにドアを出現させる。


「「「な、ななな……」」」


 驚く陛下と王子様と宰相様。


 ……まぁ実際は、このドアは単に私が土と水の複合魔法である【木魔法】と【土魔法】で作ったただのドアで、開けたら空間魔法【魔法の鏡】で魔の森の別荘につなげてるだけなんだけどね。


 演出は大事。古事記にもそう書かれている。


「この扉の中は、私の【時空魔法】で亜空間化させた魔の森につながっておりまして、扉の外の1日が、中では100年になるのです。そして、歳の取り方は扉の外時間と同じです」


「「「??????」」」


「こちらの1秒が、扉の中の半日。

 こちらの1分が、扉の中の1ヵ月弱。

 こちらの1時間が、扉の中の4年強になります。

 そして私は、この扉の中にす……」


 ああ、言いたくない。

 王子様に、お婆さんだと思われたくない。幻滅されたくない……。


 でも、これは言わなきゃ話の辻褄が合わないし、隠していい話でもない。


「す……す、数百年ほど、滞在し、ひたすら魔物を狩り続けて、レベルを上げました。ですので、その……殿下……」


 自分でも気づかないうちに、視線を伏せてしまっていた。

 王子様――フェッテン殿下に出会ってから、私はなんだかずいぶんと臆病になってしまったような気がする……。

 恐る恐る、フェッテン殿下の顔を見る。


「わ、わ、私の精神年齢は――」


「なるほどな、アリス! そなたが強い理由がよくわかったよ。これは私も、扉の中で数百年ほど鍛錬を積まねばならんな! 少なくともそなたのレベルを超えねば、そなたを堂々と娶れない!」


「……………………え?」


 フェッテン殿下がウインクする。


 キラリーン☆ って感じの擬音オノマトペを幻視したあと。


 全身が熱くなり、私は気絶した。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「……クゼーション】! 【リラクゼーション】! おいアリス、起きろ!」


「――――はっ!?」


 パパンの膝枕から復帰し、正面を向くとフェッテン殿下のお顔。


「~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?!?!?」


 声にならない悲鳴を上げたあと、無詠唱で【リラクゼーション】し、ようやく自分を取り戻した。


「お、お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ございません」


「あっはっはっ、構わん構わん。フェッテンよ、見ての通りこのお嬢さんはまだまだ幼い。あまり振り回すでないぞ?」


 ……も、もはや親公認!?


「ごほん、それで陛下、話の続きですが――」


 なんとも言えない表情のパパンが、話を仕切り直した。


「【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】の中へはアリス以外の者も入れます。事実、アリスの護衛のために私や妻、絶対の信頼が置ける一部の従士も入り、今では妻やその従士たちは皆レベル200越え。かくいう私も300です」


「なんとまぁ……伝説の英雄や賢者でも100なのじゃぞ?」


「しかし陛下、先代の勇者様が魔王を封印した時のレベルは500越えだと聞きました」


 私が口を挟む。


「500あっても封印までしかできなかったのです。討伐するためには、どれほどのレベルが必要か……」


 私の言葉にフリーズする陛下。


「いや……そんな情報は、この城の禁書庫にも、王家の口伝にもない。アリス、それを、誰から、聞いたのじゃ?」


「はい、女神様からお聞きしました」


「――は?」


「陛下、アリスは1歳の時に、全知全能神ゼニス様のご神託を受けました。この国の言葉と、先ほどの【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】を始めとする奇跡に近しいいくつかの魔法と、数々の叡智と、そして――7年後の、魔王復活のことを」


 陛下とフェッテン殿下と宰相様が白目を剥き、泡を吹いて気絶した。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「勇者の誕生と、魔王の復活、女神様のご神託、か……お主が謁見を願い出るのも当然じゃな!」


 吹っ切れたのか、陛下は笑顔だった。


「そもそも魔王復活の可能性は、初代国王であらせられる勇者様が、代々の当主に口伝で伝えておったことなのじゃ」


 隣ではフェッテン殿下が『え、そうなの?』って顔してる。


 第二王子だから伝えられてなかったのか、それともフェッテン殿下が王位を継承する可能性があるけど、まだまだ若いから伝えられていなかったのか……何しろことは『側室の第一王子 VS 正室の第二王子。しかも数歳違い』という血の臭いしかしない超デリケートな案件だ。スルーしておこう。


「だから、復活時期がわかっただけ僥倖と言える。

 さてジークフリートよ、そして勇者アリスよ。魔王討伐に向けて、何か要望はあるか? お主らの望むものならばなんでも用意しよう。ことは国家を上げての総力戦なのじゃからな」


「ありがたきお言葉にございます。アリスの戦力強化のため、いくつか要望事項がございますが……まずは先に」


 パパンが私を見る。そしてふたりでニヤリと微笑む。


「先ほど、城塞都市の話はお聞きになっておられると仰られましたが……その成果の一部を、ここで披露させて頂ければと存じます」


 アリスちゃん劇場、はっじまるよー!!






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追記回数:4,649回  通算年数:414年  レベル:600


次回、アリスが陛下相手にやりたい放題!\(^▽^)/

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