40(414歳)「王子様との甘い旅路。あとお約束の欲張りセット」
翌朝、王子様がマジでついてきた!
王子様から私への求婚のことを消化しきれていないパパンが、王子様に対してなんとも言えない表情をしてた。
私たちの旅って非常に特殊で、
各街に訪れてお金を落とすのが目的だから、街がない区間は『【瞬間移動】移動』でガンガン飛ばす。だから必ず、出発した日の昼までには次の街に着く。
で、『お披露目会』に間に合うよう、各街で適当に数日ずつ滞在する。
そのことを説明した時、王子様は大爆笑してたよ。
どうやら、私が城塞都市でさんざん暴れ回っているという情報を、かなり詳細に得ているらしく、私が【瞬間移動】で城塞都市中をぽんぽん移動していることもご存じだった。
『私は強い女が好きだ。少なくとも私と一緒に山へ狩猟に行ける女でないと、ちょっと合わないな』
とは王子様の談。
狩猟、しかも山へとか、淑女に求めるレベル高いな!
『この国は未だ戦時中。前線に立って兵を鼓舞できるくらいの女が望ましい』
あ、それは分かる。
なんというか思考回路がパパンに似てるな。
ともあれ、魔王復活を7年後に控える中、こういう力強い王子様がいることは心強い。
ロンダキルア辺境伯様と伯父様を見てしまったあとだからか、余計にそう思う。
『だから私は、そなたが好きだ』
そ、そうきたかー。
というか、異性から『好き』なんて言われたの、生まれて初めてなんですけど!
……そんな感じで、旅の途中の至るところで、私は王子様に口説かれ続けた。
『強い女』を求めて各貴族家への情報網を広げていたところ、4年前に私の誕生を知った。英雄の娘ってことで、最初から期待してたそうだ。
で、私が3歳の頃から軍人さんと一緒に砂まみれになってたことや、4歳の夏頃から始めた大
伝説の魔獣を何百体もぽんぽんと冒険者ギルドに納入していたことや、フェンリルの群れと戯れていることなんかも。
そして先日の戦い振りを見て、確信したそうだ。
伝説の魔獣を討伐する力も、フェンリルを従える力も、全て真実の話なのだと。
『そなたからすれば、私は急に現れた男なのかもしれないが、私にとっては違う。4年間、ずっと会いたかった……アリス』
うひゃあ! やめてください心臓壊れます!
あといちいち顔が近い上に顔が良い!
あと王子様は、何も私の武力と魔力だけが目当てというわけでもなさそうだった。
やたらと髪とか頬に触れてくるし、触れてる時は王子様も頬を染めてるし。
ま、まぁ、パパンとママンの良いところを余すことなく受け継いだ、今世の容姿には自信がありますよ?
そして、そんな私と王子様の様子を遠くから見つめる、能面のような表情のパパン……。
◇ ◆ ◇ ◆
王子様と出会ってから3日後のお昼前。
『【瞬間移動】移動』の合間に、街道脇の木陰で小休止。
あ、ちなみに『【瞬間移動】移動』については、王子様や侍医長、騎士さんたちは当初かなりビビってたものの、数回やるとすぐ慣れた。
問題はお馬さんたちの方。ウチの馬と違い、【瞬間移動】の訓練なんて受けてないからね。そりゃあ盛大にビビって大暴れしたよ。
でも【リラクゼーション】多めで対応して、なんとか慣れてもらった。
まぁ
さすがは戦う系王子様。いい馬を揃えていらっしゃる。
「アリス!」
私が騎士さんたちに果物――これまで通過した街で買いあさったやつ――なんかを配っていると、王子様が馬車から飛び出してきた。
「体調がすっかり良くなったぞ! 【闘気】をまとわずともこの通りだ」
私の前でぴょんぴょんと飛び跳ねる。あはは、子供か。いや事実子供か。
まぁこの3日間、ビタミンB1重点な私の料理をあれだけ食べりゃ、回復もするか。
っていうか王子様、【闘気】まとわずにそんなに跳べるの!? 1メートルは跳んでるよ!?
ジャンプ力ぅ…ですかねぇってサーバルちゃんか!
「な、ななな……」
私が呆然としていると、
「そなたのおかげだ、アリス!」
王子様がまたしても私の前に
「そなたには2度も命を救われたな。本当にありがとう」
からのぉ流れるように手の甲にキス!
「り、りりり【リラクゼーション】! はぁはぁはぁ……」
さ、さすがにもう気絶はしないぞ!?
泡を吹いた姿なんて見せられない!
◇ ◆ ◇ ◆
『ピロピロピロッ!!』
「むぉっ!?」
馬車の屋根に乗って『【瞬間移動】移動』をしていると、
私は即座に『視界共有』オン。
ブルーバードの眼下では、貴族っぽい高級馬車と護衛馬車が、盗賊っぽい連中十数名に取り囲まれていた。
『視界共有』先の【探査】はさすがにできないけど、見る限り兵力はトントンかな?
『ブルーバードちゃん、戻って来て』
『ピロピロピロッ』
目の前に【瞬間移動】してきたブルーバードと一緒に馬車の中へ【瞬間移動】。
「お父様、貴族っぽい馬車が盗賊団に襲われてます!!」
「どんな感じだ?」
「貴族側が勝てるでしょうが、犠牲者が出るかと」
「よし、加勢しよう」
「はい!」
――ヨシ! 護衛はちゃんとつけてるから、自然淘汰判定ではないらしい。
まぁ相手がお貴族様だから、っていう政治的配慮もあるのかもだけど。
「私も一緒に行くぞ」
と王子様。
そう、なぜか王子様はこっちの馬車に乗っている。少しでも私の近くにいたいらしい……尋常ではない求愛っぷりに、私は大絶賛困惑中。
「「で、殿下はさすがに……」」
「大丈夫だ、自分の身は自分で守れる。時間が惜しい。行くぞ!」
まぁ時間が惜しいのは確かなので……
「じゃあブルーバードちゃん、お願い! 地上にね!」
◇ ◆ ◇ ◆
王子様も一緒なので、空中ではなく地上に転移。
「ジークフリート・フォン・ロンダキルアだ! 加勢する!」
パパンが大声で名乗りを上げた。
貴族側から歓声が、盗賊側から悲鳴が上がる。
「人間相手だからな、殺さないように対処しろ」
「はい! 【探査】からのぉ【アイテムボックス】!」
15人いた盗賊たちの装備と衣類を軒並み収納。
突如として全裸になった盗賊たちが、
「な、なん、なん、なんだ、服が!?」
「ひ、ひえぇぇえええええええ!?」
三々五々と逃げ出し始める。
「あいつらは盗賊ってことで間違いないか?」
パパンが、馬車を守っていた騎士風の人たちの中で一番豪華な鎧を着た人に確認する。
騎士さんはガクガクガクガクと首を縦に動かす。ビビり過ぎて声が出ない模様。
「アリス、捕縛しろ」
「では盗賊たちを――【アイテムボックス】!」
私の【アイテムボックス】は生物だろうが無生物だろうが構わず収納できる。そして収納中の生物の時間は止まっている。
あとは、王都かどっかの牢屋の中にこいつらを放出すれば終わりだ。
「「「「「「な、ななな……」」」」」」
護衛たちと、ちょうど馬車から出てくるところだったお貴族様が呆然としていた。
◇ ◆ ◇ ◆
「ご助力大変感謝しますぞ、サー・ロンダキルア! 私はドルバン男爵家当主、アルバン・フォン・ドルバンです。このお礼は必ず!」
ドルバン……アイドルバンドかな?
助けたお貴族様は男爵家の一家だった。5歳の息子を持ち、私たちと同じ『お披露目会』のために王都に向かっている最中だったとのこと。
男爵と言えば
「ところであちらにいらっしゃる方は……」
ドルバン男爵様の視線が、少し離れたところで戦いを見ていた王子様の方を向き、
「ま……さ……か……」
男爵様が慌てて跪く。
男爵の家族や家臣もそれに続いた。
「これは殿下! ご機嫌麗しゅう!」
まぁ、こんなところで王子様に出会えば、普通ビビるわな。
◇ ◆ ◇ ◆
私たち一家、王子様、男爵家による三つ巴の挨拶合戦が終わり、男爵家は私たちと一緒に来ることになった。
盗賊に襲われた直後ってこともあり、頼りがいのあるパパンの近くにいたかったんだろうね。まぁ気持ちは分かる。
『【瞬間移動】移動』に先立って【瞬間移動】慣れするために、トニさんが男爵家とその馬を特訓中。
男爵家が襲われていたのは私たちの馬車より小一時間ほど先のポイントだったので、私たちは【瞬間移動】で馬車に戻り、男爵家のところまで普通に進むことにした。特訓に小一時間はかかるので。
「ところで殿下、先ほどはなぜ殿下までいらっしゃったのですか?」
「そりゃあそなたの戦い振りを間近で見たかったからさ。それにしても、アリスの【アイテムボックス】はすごいな! 【アイテムボックス】を武器に戦う魔法使いなんて、初めて見たぞ!」
「あ、あはは……」
まぁ私とお
「
「はい。あまりに非常識な魔法を使うと、怪しまれるかと思い……」
一瞬でオーガの大軍を消すなんて大それたマネ、下手すりゃそのオーガが幻術だとか、オーガをけしかけたのが私だなんて疑いを抱かれかねない。
といいつつ王子様とご挨拶が済んだあとの第2波には【首狩りアイテムボックス】を使ったけどね!
「なるほど。では今回使ったのは?」
「殿下のご威光にあやかろうと……」
殿下がそばにいれば、多少ムチャしても『ははぁ~!!』で済まされるから。
「あっはっはっ、なるほど! いや、さすがはアリスだ! 心の底から気に入った! なんとしても娶りたい!」
この王子様、何かにつけて私を娶りたがるんだよね……。
「え、えぇと……私、騎士爵の娘で……家格が釣り合わないかと……」
「ジークフリートは『面倒臭い』という理由だけで陞爵を断り続けた男だぞ? 今までの功績からいえば子爵か伯爵が妥当だ。
ジークフリートが陞爵したくないというならアリス、そなたが貴族になればいい。その武力と魔力と、城塞都市を発展させた叡智。オマケに死をも覚悟していた
というか、ロンダキルア領の最西端に閉じこもり、魔物に怯えているとウワサのロンダキルア辺境伯から爵位を取り上げて、そなたに統治してもらいたいくらいだ」
「あ、あはは……」
っていうか、ウワサされてるんじゃないか
◇ ◆ ◇ ◆
翌日、
『ピロピロピロッ!!』
「むぉっ!?」
『視界共有』オン!
「お父様、貴族っぽい馬車が盗賊の集団に襲われてます!」
「「行くぞ!」」
◇ ◆ ◇ ◆
「いやぁ助かったよ、サー・ロンダキルア。儂はドルトル子爵家当主、バルドゥール・フォン・ドルトルじゃ。……って、殿下ぁ!?」
◇ ◆ ◇ ◆
さらに翌日、
『ピロピロピロッ!!』
「お父様ぁ……また貴族馬車が盗賊に襲われてます」
「「…………」」
◇ ◆ ◇ ◆
「おかげで命拾いしましたよ、サー・ロンダキルア。私はクリスタラー伯爵家嫡男、クリストフ・フォン・クリスタラーです。……え、後ろにおられるのはまさか――」
◇ ◆ ◇ ◆
そのさらに翌日、
『ピロピロピロッ!!』
「……またです」
◇ ◆ ◇ ◆
「私はコリント侯爵家の――」
◇ ◆ ◇ ◆
……お約束の欲張りセットかな?
今は私たちと王子様と伯爵様と子爵様と男爵様の馬車列が、【瞬間移動】特訓中の侯爵家がいるポイントまで進んでいるところ。
「……まぁ、各地の貴族が一斉に王都に集まる社交シーズンは、盗賊どもにとっても書き入れ時なんだよ」
げっそりした様子のパパンが、私に説明してくれる。
正確には『書き入れ時』に相当するアフレガルド語だけど。
かく言う私もママンも、そして王子様もげっそりしている。挨拶合戦が長かったからね。
三つ巴の挨拶合戦でも大変だったのに、六つ巴の挨拶合戦の長さったらない。
これで公爵家か準男爵家がいればストレートフラッシュなのにね!
なんて言ってたらホントに遭遇しそうで怖い……。
まぁ、どの家も私たちの加勢がなくても勝ててたであろう戦いだったけど。
とはいえ加勢がなければ、少なからず犠牲は出てただろう……パパンに自然淘汰判定されない人たちに、犠牲が出るのを見て見ぬ振りするのは精神衛生上よろしくない。
◇ ◆ ◇ ◆
「――あっ! 田んぼ!!」
侯爵家を拾うポイントへ向かう途中、窓から外を見ていて思わず歓声を上げた。
水田が広がっていたからだ。
「そうだな。これが見えてきたってことは王都も近い。
100年前の勇者様が大の米好きでな。今の王都の場所も、稲作に適した肥沃な平地だから決めたと伝説にある……この話は以前したか? まぁそんな勇者様が特に好んだ食べ方というのが『てぃーけーじー』と言ってな」
――ぶふぉっ
「ニワトリの生卵をアツアツの米に乗せ、醤油をかけるという食べ方なんだが……毎年、新米の時期には勇者様にあやかって『てぃーけーじー』を食べ、腹を壊すやつが一定数いる」
迷惑な伝統
◇ ◆ ◇ ◆
かくして王都に到着。
ありえない数の馬車の行列に、王都の門番さんたちがぎょっとしていたよ。
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追記回数:4,649回 通算年数:414年 レベル:600
『てぃーけーじー』は(T)卵(K)かけ(G)ごはんのことです、念のため。
次回、王子様にアリスが数百飛んで5歳児だとバレる……。
王子様の反応やいかに!?
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