38(414歳)「リアル王子様にきゅ、求婚された!!」
「しっかしどうすっかなー……親父が国王陛下へお伝えする気がないんじゃあな」
ここはおなじみ、
あの賑やかな会談の後、貴族らしく高級宿に入り、美味しいはずだけどあまり味のしなかった夕食を食べ、宿の部屋に入り、そこからここへ【瞬間移動】したのだ。
内緒話をするには、ここが一番安心できるからね。
ちなみに3バカトリオたちは宿に置いてきた。
都会の、それも高級宿の料理に舌鼓を打ってたよ。
「とはいっても、お伝えしないわけにはいきませんでしょう?」
私を膝の上に乗せて、ママン。
先ほどの会談で私が傷ついたと思っているのだろうか……さっきから離してくれない。
「だよなぁ……手紙を送って、内々に謁見を申し込むか」
「――へ? 謁見させてもらえるんですか!?」
ちょっとびっくりした。
一介の騎士爵がそうそう謁見なんてしてもらえるもんなの?
パパンがにやりと笑う。
「そりゃ父さんは近衛騎士団長の座を断って、逆に気に入られた男だからな。陛下とは仲良しなんだぞ?」
「『陛下の御身だけでなく、王国全てを守るためにこの力を振るいたい』という言葉は、今でも吟遊詩人が歌う演目の定番なのよ」
うっとり顔のママンと、どや顔のパパン。仲いいねぇ。
この世界に厨二病という概念はないけれど、パパンにはそのけがあるっぽい。英雄願望っていうのかな。まぁ実際英雄なんだけど。
でもパパン、それ実際は窮屈そうな仕事をしたくなかっただけでしょ?
「俺は手紙を書きに書斎へ行くが、お前はどうする?」
「私はアリスちゃんをお風呂に入れてきます。アリスちゃん、今日は一緒に寝ましょうね」
「はいっ」
◇ ◆ ◇ ◆
領都の西側の城門を出れば、そこはもう隣の領になるそうだ。
西側の城壁が東側ほど立派じゃなかったのが印象的だったね!
城塞都市を守るつもりはないのかな、辺境伯様は?
王都を含む国王陛下の直轄地に入るまでには、3つの領が挟まっている。
もちろん他にも領はたくさんあるんだけど、わざわざ回り道までして挨拶する必要はないのだそうだ。
3つの領の領主様にもご挨拶に伺ったけど、いずれも軍務閥ということで、パパンに非常に友好的――というか英雄パパンを崇拝している感じだった。
パパンが城塞都市で
城塞都市で魔法が大流行していることもご存じで、領主様やその子弟から指導を求められたので、僭越ながら手ほどきさせて頂いた。
あのアロー系魔法の射的場で冒険者さんにやったみたいにね!
で、各領の冒険者ギルドで伝説の魔獣の死体を金に換え、その金で豪遊した。貴族の義務ってやつだね! 城塞都市では見られない果物とか珍しい食べ物を買いあさったよ。
あ、各領主さんにはあらかじめ、
どの領主さんも、非常に希少な素材が手に入ると喜んでたよ。
そんな感じで、10日間の旅は良好そのものだった。
……まるで、何かが起こる前触れであるかのごとく。
◇ ◆ ◇ ◆
『ピロピロピロッ!!』
「むぉっ!?」
11日目、王国直轄領に入った日の昼下がり。
先行して偵察してもらっていた
そして目の前に【瞬間移動】で現れるブルーバード。
【瞬間移動】を会得した優秀な子たちを連れて来てるんだよ!
ブルーバードからは『ヤバい、マジヤバい』という強い思念を感じるも、具体的な内容までは不明。
「お父様、ちょっと様子を見てきます!」
「父さんも一緒に行こう」
「はい! じゃあお願い!」
ブルーバードにお願いすると、ブルーバードが私たちごと現場へ【瞬間移動】!
◇ ◆ ◇ ◆
「「な、ななな……」」
転移先は広大な森の上空。
即座に広範囲【探査】し、何がヤバいのか分かった。
数百匹もの魔物たちが、異常に興奮して戦い合ったり共食いし合ってる。
もっと詳しく【探査】――
「!? お父様、数十人の人間を発見! 襲われてます! 助けていい案件ですよね!?」
「もちろんだ! 俺も行く!」
良かった。さすがにスタンピードは自然淘汰案件ではないらしい。
「はい! 【瞬間移動】!」
現場の上空へ転移。
森を貫く細い道で、3台の馬車がオーガ数十体に襲われていた!
とっさに【探査】! ヤバイヤバイヤバイ、死にかけの人が8名!
「【エリア・エクストラ・ヒール】!」
とりま重傷者を上空から治癒する。もちろん、【魔力操作】
改めて眼下を確認すると、いかにも貴族な箱馬車1台と、ドラ○エ風な幌つき荷馬車が2台。
貴族馬車を守るように騎士風の剣士十数名が取り囲んでおり、それを取り囲むようにオーガが数十体。リーダ数体、ジェネラルもいる!
騎士たちとオーガは乱戦を繰り広げている。
「ジークフリート・フォン・ロンダキルアだ!! 加勢する!!」
私より先に、パパンが地面に降り立って名乗りを上げる。無名の私が乱入するより、有名なパパンが入った方が相手が安心するからね。
こういう事態に遭遇した時の手順は打ち合わせ済なのさ。
続いて私も降り立つ。
「あとこれはウチの娘だ! さっきの治癒は娘の魔法! それに強いぞ!」
この緊急事態に、なんとも間の抜けた親バカ発言だけど……まぁこれも打ち合わせ通り。
そうしないと、私が暴れられないからね。
さぁて、それでは【思考加速】100倍! 【闘気】全開! からのぉ【アイテムボックス】から抜剣!!
私とパパンは、騎士たちと組み合っていないオーガを選び、首を撫で斬りにしていく。後ろの方で指揮というか督戦してたジェネラルとリーダーも瞬殺。
数秒後にはオーガは半減。
当座の危機は乗り越え、死者が出る恐れはなくなった。
その頃になると、ようやく事態が飲み込めてきたのか、騎士たちの間から『王国の守護者様だ!!』『助かるぞ! このまま押し切れ!!』みたいな声が上がり始めた。
あとは流れで。
私は騎士さんたちの回復に専念。
ほどなくしてオーガたちは全滅した。
◇ ◆ ◇ ◆
「いやぁ助かったぞ!」
血塗れでボロボロの鎧をまとった、随分と若い騎士さんのひとりが、私たちに話しかけてきた。
「こうして会うのは2度目だな、王国の守護者よ!」
「……はぁ?」
パパンが『誰こいつ?』って感じて騎士さんを見てるけど、その顔がみるみる青くなって、
「こっ、これは失礼致しました! 殿下!」
急に
デンカ? 殿下……殿下ってことは、
「王子様ぁ!?」
この人さっきまで、騎士たちに交じってフツーにオーガたちと斬り結んでたぞ!?
しかしそう言われてみると、鎧は装飾多めできらびやかだし、お顔立ちには気品がある……というか超絶イケメン。
正直、タイプだ。
お歳は十代半ばか?
思い出せアリス、スキル【おもいだす】発動!
パパンの『王族講座I』によると、この王国の王子様は2人。
第一王子様――王太子殿下はもうちょい年上のはずだから、この方は第二王子様だ。
確かお名前は――沸点? じゃなかったフェッテン様だ。
「こらアリス! お前も早く跪け!」
あわわ、そうだった!
慌てて私も跪き、顔を伏せるが、
「よい。顔をよく見せてくれないか?」
言われて恐る恐る顔を上げると、至近距離に王子様。
……や、ヤバイ、喪女歴数百飛んで31年にこの距離はキツい!!
「ウワサには聞いていたが、本当に強いんだな! その歳で得物にまで【闘気】を載せるとは」
かく言う王子様も、オーガと戦う時は【闘気】を使っていた。
【闘気】使いはすべからく達人。さっきまでは『強い人って、いるところにはいるもんだなぁ』とか思ってたけど、まさか王子様だったとは!
王子様が私の手を取り、立ち上がらせる。
そして逆に王子様が跪き、流れるような所作で、
手の甲にキ、キ、キ、
キスされた!!!!!!
「麗しき命の恩人よ、改めて、そなたの口から名前を聞かせてほしい」
私は泡を吹いて気絶した。
◇ ◆ ◇ ◆
「……クゼーション】! 【リラクゼーション】! おいアリス、起きろ!」
「――――はっ!?」
パパンの声で覚醒する。
はぁ~……びっくりした。なんだ夢かぁ。
そりゃこの私が王子様に手にキスされるなんて、あるわけないじゃん!
パパンの膝枕から起き上がると、
「……だ、大丈夫か?」
目の前には心配そうな顔の王子様!!
「ぎゃあ!」
「おまっ、殿下に向かってなんてことを――」
「あっはっはっ! 面白い娘だな」
「あわ、あわわわ……」
なんとか立ち上がり、カーテシーで挨拶しようとして、スカート姿でないことに気づき、慌てて男性用の礼をする。
「お初に御目にかかります、アリス・フォン・ロンダキルアと申します。フェッテン殿下におかれましては、ご機嫌うるわしゅっ!?」
極めつけに舌まで噛んだ。……恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「ううぅ……【ヒール】――ん?」
顔を上げる。
恥ずかしさは一旦忘れて、【闘気】全開。思考は戦闘モードに。
「気づいたか。次の御一行が来たらしいな」
パパンが立ち上がる。
【探査】すると、オーク数十体がこちらに向かって来ているところだった。
「防護結界を頼めるか?」
「はい! ダブル【防護結界】!」
私たちと殿下と馬車と騎士さんたちを包み込む形で結界を展開。
ほどなくして、森の中からオークの集団が飛び出してきて、結界に激突した。
結界の外のことなので声も音も聞こえないが、オークたちが物凄い形相で結界をがつがつ殴ってる。
「はぁ~……ちょっと森ごと片付けてきますね」
「ああ。父さんはここを守っているよ」
私の結界がびくともしないことなどパパンは百も承知だけど、王子様を安心させるためにポーズを取るのも大事な仕事だ。
「ジークフリート、そなた何を言っているんだ? ま、まさか娘ひとりに魔物全てを任せるつもりか!? 確かに先ほどの戦い振りは見事だったが……」
「はい。言うのが遅くなりましたが、娘は私より強いのです……剣の腕以外では」
あはは。パパン、剣の腕について律義に付け足してるよ。
そりゃ【片手剣術】
とりま結界外まで【瞬間移動】し、オークたちの首を【首狩りアイテムボックス】。
あんぐりと口を開けている王子様に一礼してから、掃討作戦開始だ!
◇ ◆ ◇ ◆
「【探査】! 【瞬間移動】! 【首狩りアイテムボックス】!
【探査】! 【瞬間移動】! 【首狩りアイテムボックス】!
【探査】! 【瞬間移動】! 【首狩りアイテムボックス】!
【探査】! 【瞬間移動】!
ええいめんどくせぇ新技【森ごとアイテムボックス】!」
◇ ◆ ◇ ◆
小一時間後、
「終わりました~」
元の場所に戻り、ダブル【防護結界】を解除する。
「お疲れさん」
労ってくるパパンと、
「「「「「「「「「な、ななな……」」」」」」」」」
呆然とした様子の王子様&騎士さんたち。
王子様はいち早く再起動し、目を閉じた。
王子様の方から魔力がそよそよとなびいてくる。【闘気】で魔物の気配を探ってるんだね。
「本当に、1体の気配すらない……は、はははっ、素晴らしい! 本当に、本当に強いんだな!
アリス! アリス・フォン・ロンダキルア!」
王子様が再び、私の前で跪いた。目線が合う。
剣ダコだらけの大きな手に、私の手がすっぽり包み込まれ、
「結婚してくれ! 絶対に幸せにしてみせる!」
そこから先の記憶はない。
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追記回数:4,649回 通算年数:414年 レベル:600
恋愛要素開始!!(^o^)/
次回、定番医療チート発動!
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