34(413歳)「4ヶ月後の城塞都市風景(2/2)」

 磁器屋の応接室で男爵様、店長さんと一緒に商談していると、


『ピロピロピロッ!!』


「むぉっ!?」


 教会に常駐しているブルーバードからの緊急通報119ばん

 思わず乙女らしからぬ声が出るのもやむなしだ。


 私は即座に教会上空へ【瞬間移動】。

 治療院全体を【魔法防護結界】で覆い、【フルエリア・エクストラ・ヒール】! 結界解除! 

【探査】! ――怪我人・病人、ナシ!

 ――ヨシ!(指差呼称しさこしょう

 

【瞬間移動】で、元の応接室へ戻る。


「いやーいつ見てもアリスさんの【瞬間移動】は見事ですな! 私では、そこまで短時間で魔力を練り上げることはできない」


「アリス様、何か急ぎのご用があるのでしたら、話の続きは男爵様と私で詰めておきますが」


 ふたりとも、私が急に消えたり出てきたりするのにも慣れたものだ。


「治療院に重傷者が来たらしいんですけど、もう治してきました」


「はぁっ!? あ、あぁ……先ほどの【瞬間移動】で」


「アリスさんですからなぁ!」


「でもちょっと心配なので、様子を見に行ってきますね」


「承知しました。お忙しい中、店のお手伝いをありがとうございました」


「では再び【瞬間――あ、そうだ忘れるところでした。【アイテムボックス】!」


 冊子を取り出し、男爵様の前に差し出す。


「これ、最新のカタログです。今日も例の仕立屋さんにご令嬢をお連れになられたんですか?」


 追加で100冊の束を取り出し、それも男爵様に渡す。


「はい。『奇抜派』の方は今ひとつですが……『斬新派』の方は、今やティーパーティーでの話題の中心ですからな。毎日のように異なる家のご令嬢を例の仕立屋へお連れする毎日です。おかげで魔力の回復が追いつかない有様で」


『奇抜派』というのは私が主導する現代地球ミニスカート路線。『ミニ』って言ってもこの世界基準の『ミニ』であって膝丈なんだけどね。

 やはりこの世界観で『足を見せる』というのはよほど受け入れ難いらしく、ちっとも流行らない。


 そして『斬新派』は、いつぞやママンの実家で完成させたマーメイドラインドレスのさらなる発展版!


 服作りにすっかり目覚めちゃったママンが実家の手伝いだけでは飽き足らず、城塞都市の仕立屋さんや衣服店を巻き込んでいろいろ始めちゃったんだよね。

 実家とは競合関係になるわけだけど、実家側で捌ききれないお客さんを受け入れてくれるってことで、ママンのお父さんはむしろ感謝してるご様子。


 いやぁ、ママンが楽しそうでなにより。


 とはいえ、私はミニスカ流行らせたいんだけどなぁー。

 どうせなら千年くらい一気に時代を進めようぜ!


 走るたびにいちいち裾を持ち上げなきゃいけないってのは、両手がふさがって不便なんだよ。


 手がふさがるってのが落ち着かない。

 だってとっさに抜剣できないじゃない?


 淑女が走るなって?

 戦う淑女は走ってもいいんだよ。


「これ、魔力回復ポーション詰め合わせです。どうぞ」


【アイテムボックス】から木箱を取り出してテーブルに置く。


「高価なものでしょうに、頂いてしまってよろしいので?」


「あはは、男爵様が魔力切れになり、この街へ来て頂けなくなってしまう方が、よほどの機会損失ですから」


「そのお歳で『機会損失』とは……さすがですな。今、1本頂いても?」


「どうぞどうぞ」


「ぅおっ、なんですかなこの清涼な甘味は!」


「『はちみつレモン味』です。ここの裏手の蜂蜜漬け屋で取り扱ってますよ。……っと、さすがにもう行きますね。では【瞬間移動】!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 庭先に下りて治療院の方に向かうと、若き僧侶・ニーナちゃん15歳がちょうど出てきたところだった。

【光魔法】を中級まで操る、期待のホープ!(意味重複)


 あ、別に出家してるとかいうわけではなく、教会で『職業』を【僧侶】にして治癒魔法を特訓中の女の子だ。

 治癒魔法使いは冒険者ギルドで引く手あまただし、この街以外でなら治癒でお金儲けもできる。


 魔法教本の販売により、近頃は修行がてら治療院で奉仕活動をする人が増えてるんだよね。

 今までは怪我人が教会にお布施をして治してもらってたのに、今じゃ治癒魔法使い見習いが練習相手を求めて教会に来る始末。


 教会の収入は減るけれど、魔法教本とセット販売されている聖書の料金の一部が教会に入るので問題なし。


「アリス様、ありがとうございます! おかげで重傷者を死なせずに済みました」


「それは言わないお約束ですよぅ、おとっつぁん」


「ええと、おとっつぁん? 私はアリス様のお父上様ではないのですが……」


 とか言ってる間にも、次の怪我人が担架で運ばれてくる。

 忙しいなマジで!


 ニーナちゃんがすがるような目でこっちを見てくるけど、


「【探査】! ――右足の骨折。あれならニーナちゃんでも治せるよ」


「でも、今日はもう魔力が……」


「ニーナちゃんの最大魔力、教えてもらうことってできる?」


「あ、はい。他ならぬアリス様になら――3,000弱です」


 ほほぅ、結構鍛えていらっしゃる。


「【魔力譲渡マナ・トランスファー】! はい、満タン。上達するためには実践あるのみだよ! 目指せ上級治癒魔法!」


「そ、そんなぁ~~~~っ!」


『ピロピロピロッ!!』


「むぉっ!?」


 い、忙しいな今日は……。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「というわけでやって来ました街外れの『射的場』!」


 魔法教本で魔法を覚えたての人たちの『魔法ぶっ放したい欲』を発散させるための、アロー系攻撃魔法を的に当てる野趣あふれる射的場だ。


 オーナーは私。

 入場料は100ゼニス。まぁほぼ慈善事業施設だね。入場料を取っているのは、暇人のたまり場になるのを防ぐためだ。


 中に入ると、


「くそっ、話が違うじゃねえか! 1万ゼニスも払ったってのに、ちっとも魔法が出ねぇぞ!」


「お客様、暴れないでください!」


 店の奥の事務室から怒鳴り声。私が呼ばれた理由はあれかな?


「どうかされましたか、お客様」


「あっ、オーナー!」


 ごつい様相の冒険者っぽい人と、雇われ店長のレニーちゃん18歳。

 怒鳴ってたのは冒険者さんの方だね。


「あぁん? なんだこのガキゃあ!」


「お客様、まずは落ち着いてください」


「ガキが大人の話に入ってくんじゃねぇ!」


 冒険者さんに胸ぐら掴まれる。軽い私の体はぷらーんとぶら下がる。


 おお、気が立ってるねぇ……私の顔を知らないってことは辺境伯領都の方から来たのかな?


【浮遊】で体を浮かせつつ、


「申し遅れました。わたくし、ここのオーナーをやっておりますアリス・フォン・ロンダキルアと申します」


 と言って空中でご挨拶カーテシー。今日はミニスカ姿だから、スカートの裾は持ち上げない。


「お、おぅ……」


 毒気を抜かれた様子の冒険者さんが手を放す。その顔がみるみる青ざめ、


「ちゅ、宙に浮いている子供……ロンダキルアって……な、まさか……英雄の子で【竜殺し】の?」


 おや? どうやら私はいつの間にやら【竜殺しの子供】から【竜殺し】に昇格しているらしい。まぁ【アイテムボックス】の中には地竜アースドラゴンの死体がごろごろ入ってるから嘘にはならないね。


「えへへ。見てみます? ドラゴン」


 ちょっとした茶目っ気で、地竜アースドラゴンの頭を【アイテムボックス】からコンニチハ。


「ぎゃぁぁあああああああ! すみませんすみませんすみません!」


 ずざざざっと部屋の隅まであとずさり、土下座し始める冒険者さん。

 そんな怯えなくても、取って食ったりしませんよぅ。


「レニーちゃん、説明を」


「は、はい。あちらのお客様は魔法教本のウワサを聞いて、この街まで来られたそうです。それで魔法教本を購入し、本屋の案内でここに来たのが1時間ほど前。ですが何度詠唱しても初級魔法が成功せず、暴れてしまわれたので、オーナーをお呼びした次第です」


 ここは矢場兼攻撃魔法教習所。

 1万ゼニスで魔法教本を購入し、ここの入場料を支払えば、4属性の中級魔法○○アローをマスターしている若き魔法使いレニーちゃんに指導を受けることができるのだ。


「魔力の有無は確認した?」


「はい。ご本人曰く100はあるそうで」


「丹田と瞑想は?」


「お教えしましたが、なかなか魔力の巡りを感じられないらしく、それでまずは実践をと」


「うーん……見ててね、レニーちゃん」


「? は、はい!」


 冒険者さんの前まで進み、無詠唱で【リラクゼーション】をかける。


「頭をお上げください、お客様」


「は、はい……」


「まずは座禅を組みましょう。こんなふうに」


 ミニスカなので、【アイテムボックス】から引っ張り出したタオル膝にかける。


「は、はい」


「両手の平を見せて頂けますか?」


「はい」


 冒険者さんの大きなごつい手に、私の手を乗せる。なんかお手してるみたいだけど、気にしないでいこう。


「右手に【魔力譲渡マナ・トランスファー】、左手に【吸魔マナ・ドレイン】」


 私と冒険者さんの両腕の間で、魔力の循環が始まる。


「魔力の流れが感じられますか?」


「お、お、おぉぉ……感じる、感じます」


「イメージは血液。おへその下に、もう1つ心臓があると思ってください。それが魔力袋……もしくは丹田と言います。息を吸ってー吐いてー、丹田に意識を向けてください。見つかりましたか?」


「あ、なんかざわざわするのが分かります!」


 まぁ、私が【魔力譲渡マナ・トランスファー】を使って冒険者さんの丹田に魔力を集めてるから当然なんだけど、わざわざ口にはしない。


「ではその丹田から、まるで血液が全身をめぐるように、体中に行き渡る様子をイメージしてください」


 と言いつつ【魔力譲渡マナ・トランスファー】と【吸魔マナ・ドレイン】で冒険者さんの魔力をぐるぐる循環させる。


「おぉぉぉ……」


 そっと手を放す。


「どうです? まだ循環が感じられますか?」


「はい!」


 ――ヨシ! 自転車の補助輪は卒業だ。


「では今度は、その魔力を右手のひらに集めてみてください」


「んー……こ、こんな感じ?」


「はい、ではゆっくりと詠唱してみましょう。『清き流れにたゆたう水よ』」


「清き流れにたゆたう水よ」


「『我が前に姿を現せ』」


「我が前に姿を現せ――」


「「【ウォーターボール】!」」


 ばしゃ~……


 冒険者さんの右手のひらの上に水の塊が発生し、すぐにこぼれ落ちた。


「で、で、で、できたぁぁああああ!!」


「おめでとうございます!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 コツを掴んでからは早かった。

 冒険者さんは私の特別サービス無限【魔力譲渡マナ・トランスファー】を受けながら、あっという間に初級4属性をマスターしちゃったよ。


「あんな感じにすればいいよ」


「さすがですオーナー! あの、さっきの【魔力譲渡マナ・トランスファー】と【吸魔マナ・ドレイン】を使った魔力の循環、練習に付き合って頂けませんか!?」


「はいはい」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 レニーちゃんに付き合って、射的場を出ればもう夕暮れ時。


 そのあとは工房のいくつかを巡回し、夕食の時間になったので砦に戻った。


「チビ~~~~、帰ったよ~~~~!」


「わふ~ん!」


 普通に砦の門から歩いて入ると、庭で遊んでた全長3メートルの『チビ』が突進してきた!

 そりゃ4ヵ月もありゃ育つさ! 犬ですもの!


 ――ぼふっ


 私の体は、チビの真っ白な胸毛にほぼ埋まる。


「クンカクンカスーハースーハー……ス~~~~ウッ、ハァ~~~~~~~~」


 まだ手も顔も洗ってないけど、今回はチビの方から突進してきたからセーフ。


 基準ガバガバやんけって?

 細けーこたーいいんだよ!






*********************************************************

追記回数:4,649回  通算年数:413年  レベル:600


ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます!

↓の[♡応援する]ボタンと、表紙の★評価ボタンを押して頂けると、物凄くはげみになりますので、どうかよろしくお願い致します!!m(_ _)m


4歳児が城塞都市を魔改造する話はここまで。

次回、旅に出ます(街道を敷きながら)。

引き続き、お読み頂けますと幸いです!m(_ _)m

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