32(413歳)(短話) 「アラクネさん超進化!?」

 それはある冬の日のこと。


「ではお嬢様、今伝えた内容で形にしてください」


「はい!」


 今日も今日とて王都の仕立屋テイラーにて。

 来季の社交シーズンに向けて順番待ちしてるご令嬢のためにドレスを作ってた。


 この世界はオーダーメイドが基本。

 ご令嬢ごとに体格も違うし、『体のラインにぴったり』が売りのウチとしてはご令嬢1人ひとりのために時間がかかるのは当然のこと。


『アラクネさん、こうこうこういうイメージでお願いします!』


 思念を送るや否や、形にしてくれるアラクネさん。

【裁縫】LV10カンストの暴力マジパネェ。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「うーん……?」


「アリスちゃん、ちょっと……」


 完成形を見て、首を傾げるテイラーさんママンのパパンとママン。


「お嬢様、ここのラインはもっとこう……」


「あとここの刺繍はこういう感じに……」


 ありゃりゃリテイクくらっちゃった。


『ごめんアラクネさん、こういう感じでもう一回お願いします!』



    ◇  ◆  ◇  ◆



「お嬢様、申し上げにくいんですがその、ここのラインをもう少し……」


「だいぶ寄せて来てるんだけど、ここの刺繍も……」


「うーんうーん……」


 その時!


「ふしゅぅ~~~~~~……」


 私の背後で、アラクネさんが盛大なため息をついた。

『意思疎通』機能からは、


『顧客の要望も正確に伝えられない糞営業が』


 とか、


『てめぇ自分が作らせようとしているモノの仕様ちゃんと理解してんのか?』


 みたいなニュアンスの不快感がバリバリ!


「な、ななな……」


 いやまぁ、あくまでニュアンスであって、内容は元SEの私がセールスエンジニアに対して昔感じた不快感を過分に重ねたものになってるけれど。


 アラクネさん、私の前に立って、ステータスウィンドウを見せつけてきた。



**************************************************

【名前】 アラクネ

【年齢】 144歳

【職業】 アラクネ ←進化可能!

【称号】 天真爛漫 アテナイの敵

【契約】 アリス・フォン・ロンダキルアの従魔


【LV】 201

【HP】 19,916/19,916

【MP】 42,817/40,161


【力】   2,193

【魔法力】 4,182

【体力】  1,926

【精神力】 1,823

【素早さ】 8,114


【戦闘系スキル】

  体術LV6 操糸術LV10

  闘気LV6 威圧LV7 隠密LV6


【魔法系スキル】

  魔力感知LV10 魔力操作LV7

  土魔法LV1 水魔法LV6 火魔法LV6 風魔法LV4

  光魔法LV1 闇魔法LV3 時空魔法LV6

  鑑定LV6


【耐性系スキル】

  威圧耐性LV7 苦痛耐性LV6 精神耐性LV4

  睡眠耐性LV4 空腹耐性LV6


【生活系スキル】

  裁縫LV10

**************************************************



 相変わらずパネェステータスだな!

【操糸術】とかいう糸で戦うスキルもカンストしてるし。


 え、違うそうじゃない?


 アラクネさんは【職業】欄――魔物の場合は種族名が入る――をツンツン示す。


「ん? ……あっ、『進化』って何!?」


 こくこく


 うなずくアラクネさん。


「し、進化させろって? どうやって?」


 ツンツン


『←進化可能!』の文字をツンツンするアラクネさん。

 とりまマネしてツンツンしてみると、


 ――パァっ!


 急にアラクネさんが全身真っ白に輝き出した。


「「「「「うわぁぁああ!?」」」」」


「「「「きゃぁあ!?」」」」


 裁縫室に詰めていた人たちがビビるが、光はすぐに収まる。

 そして……


「「「「「「「「な、ななな……」」」」」」」」


 そこには全裸の美女がががが!!!!


「!?」


 驚きの余り、声も出ない私。


 ……あ、一応蜘蛛の姿の時も服を着てたから、全裸ではない。体には合ってないけど……。


 と、なんて言ってる間にアラクネさんがお尻(!?)から糸を出し、あっという間に自分の体に合った女性ものの上下を

 まるで魔法少女の変身シーンのごとく……器用だなぁホント。


「※※※※※※※※※※※※※※※ッ!!」


 アラクネさんが私に詰め寄って何か言ってるが、言葉が分からない。

 私が『ワタシニホンゴワカラナーイ』って感じのジェスチャーをすると、


『あの部屋に連れて行け! この国の言葉を教えろ!』


「むぉっ!?」


『意思疎通』してきた。


「わ、わっかりましたー!」


 アラクネさんを連れて、【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】へ【瞬間移動】!



    ◇  ◆  ◇  ◆



 数ヵ月ほど養殖したよ……。

 アラクネさんは、そりゃあもう気の強いお方だった……。


 あとアラクネさん、蜘蛛形態と人形態を自由に行き来できた。便利ねぇ……。

 他方、下半身のみ蜘蛛形態ってのはないそうだ。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「すみません、戻りましたー」


 アフレガルド語をおおむねマスターしたアラクネさんを連れて、裁縫室へ【瞬間移動】。


 内部時間で数ヵ月だから、外部時間では数分だ。

 裁縫室では、『アラクネさん人化』事件に対して、やや落ち着きを取り戻しつつあるところだった。


「あなた、店主さん!」


 アラクネさんがテイラーさんに話しかける。


「な、ななな……あんた、あの『アラクネさん』かい?」


「そうよ! 時間ないんでしょ? さっさとドレスの要件を説明しなさい!」


「お、おぅ……ええとだな、今回のご令嬢のスタイルがこうだから、ここのラインとここのラインを……」


 さすがはデスマーチの現場!

 テイラーさんは『アラクネさん人化』や『アラクネさんがアフレガルド語を操る』を全てスルーして、仕事に専念するつもりらしい。


「あとそこのお嬢さん! 刺繍のどこが気に食わないって!?」


「お、お嬢さん……」


 戸惑うママン。


「ええと、この家は薔薇の名産地なんです。なので薔薇の刺繍を入れるのはもちろんなんですけど、この家よりも家格が上の家にもっと大きな薔薇園を所有してる家があるから、強調しつつもボリュームを抑える必要があって、ここのところをこのくらいに……」


「わかったわ! ていっ!」


 あっという間に縫い上げるアラクネさん。


「どう? こんな感じ?」


「「……か、完璧……」」


 完璧だそうだった。


「ったく……マスター!」


「え、私!?」


「あなたってホントぐずね! なんでこの程度のことも満足に伝えられないわけ?」


「ひ、ひえぇぇええええ~……」


「悲鳴上げて誤魔化すんじゃないわよまったく。あなたはお役御免よ。帰っていいわよ?」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ……と、いうわけで。


 晴れて私はお役御免やくたたずとなった。

 あ、これ、お客様がSEの電話番号ゲットして直接要件定義しちゃって、設計書類があとから営業に回されるやつ……。


 私もSE時代にやったことあるから、アラクネさんを怒る気になれないんだよなぁ……。






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追記回数:4,649回  通算年数:413年  レベル:600


次回、アリスがいろいろ仕込んだタネが芽吹きます。

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