21(401歳)「海鮮うめぇ~ッ!!」
「……あの、なぜそうなるのでしょうか?」
……まぁ普通に対応しますよ、話し合いで。
「私は契約通りに城塞都市へ塩を納入しなければならん! だから塩の買いつけに漁村へ戻る必要がある。だがどうせ戻るのなら、干し物も一緒に買いつけたい。そのためには荷を空ける必要がある」
理路整然とした、行商人さんの説明。
うん、とても理路整然としてるよ……私の都合とか体調の心配を除けば!
【瞬間移動】ってのは【ウォーターボール】みたいな初級魔法に比べると、べらぼうに魔力を食う。
特に馬車みたいな大荷物も一緒に引っ張るとなると、並みの魔法使いならここから城塞都市へ移動しただけで気絶し、三日三晩寝込むだろう。
MPオバケの私に限ってそんな心配は無用だけど、このおっさんがそんなことを知ってるはずがないわけで。
少なくともこの人は、私がぶっ倒れようがどうなろうが知ったこっちゃないと思ってるんだろうね。
今世でもたくさんの大人に出会ってきたけど、基本的にはみな、私に好意的な人たちばかりだった。
それだけに、これはなんだか嫌ぁな懐かしさを感じるなぁ……孫請けブラックソフトハウスに勤めてた頃の記憶という意味で。部下に無理難題を押しつけて、右往左往する部下の姿を娯楽にする人って、一定数いるんだよね……。
――いかんいかん!
【リラクゼーション】!
ふぅ~落ち着いた。闇堕ちダメ絶対。
こういう手合いには、感情的にならずビジネスライクな対応だ。
「あなたのご都合は分かりましたが、なぜ私がそのお手伝いをしなければならないのでしょうか? 【瞬間移動】は大量の魔力を消費する魔法で、そうポンポンと使えるものではないのですが」
「さっきからポンポン使っているではないか!」
うひゃぁ、仰る通り! 私の額に特大ブーメランぶっささったね今。
「お前は塩ギルド員たる私の行商を邪魔したんだぞ!? その程度の補填は当然だろう!」
「塩ギルド?」
はて、城塞都市でそんなギルドの看板は見たことがないが。
「そうだ! 塩の供給は人命に関わる重大な仕事。塩ギルド員への妨害行為は領主様への反逆行為とみなされ、処罰されるのだぞ!」
なんか知らんが、この人がめっちゃ偉そうなのは、
パパンには迷惑かけたくないし、ここは従っとくかぁ……。
それにしても、パパンのパパンってどんな人なんだろう?
数百年の魔の森生活の間、1度たりとて話題に挙がったことはなかった。言及があったのは、トニさん・アニさん・ジルさんを辺境伯領主様にお願いして
明らかに避けてる感があるんだよねぇ……。
「……分かりました。行き先は城塞都市の商人ギルド前でよろしいですね?」
「分かればいいんだ、分かれば」
一言多いよ! うぅ……めっちゃ分からせたいよぅ。
だけど暴力はダメ絶対。相手は人間だし、私は加害者の立場なのだから。
ちなみに城塞都市は、城壁内に住むためには兵役もしくは人頭税が必要になるが、入城するだけならお金は取られない。
ただでさえ危険なこの地へ商売に来てくれる人は、行商人であれ周辺農村の農民であれ、大事な大事なお客様だからだ。わざわざ入城税なんか取って交易を減らすわけにはいかない。
なので、門をくぐらずにいきなり中央広場に【瞬間移動】しても、脱税にはならない。
「それでは行きますよ――【瞬間移動】!」
◇ ◆ ◇ ◆
そんなわけで、商人ギルドで干し物を卸し、再び道に戻って来て、今はローマ街道を敷きながら【瞬間移動】でちびちび南下中だ。
『なぜ一気に南の漁村まで飛べんのだ!』って行商人さんが
「まだ着かんのか!」
……沸点低いなぁ、この人。
「あ、見えてきましたよ!」
村の門まで道を敷き、村に入る。
「あれ? 誰もいませんね」
言いつつ【探査】! ふむ……村人はそこら中の民家の中にいるが、外には人っ子ひとりいない――海岸沿いを除いては。
「ちょっと様子を見てきます」
「お、おい! 何を勝手に――」
知らんがな~。私はあんたの部下でもなんでもないんですよ。
【飛翔】で海岸へ向かうと、
「1号船に重傷者1名発生!」
「1号船戻れ! 治癒魔法使いは詠唱開始! 3号船、1号船の援護に入れ!」
「漁師なめんなやぁ! 行くぞ野郎ども!」
「「「「うぉぉおおおおおおおおおお!!」」」」
おおぉ……海の獣、
「――なっ、ガキぃ!? ちゃんと家の中に避難してないとダメじゃろう!」
ふわふわ海岸に漂っていくと、指揮を執ってるご老人が私に気づいた。
「
「あ、はい。城塞都市から来ました、『王国の守護者』の娘でアリス・フォン・ロンダキルアと言います。回復魔法と攻撃魔法と【飛翔】が使えるのですが……加勢してもいいですか?」
「英雄様の娘!? いやいやいや、そんな大事な子供に怪我でもさせちゃあ……」
「じゃあ回復だけでも。【光魔法】レベル6を持ってますので、ここからでもあの船まで届きますよ」
「6ぅ!?」
「というわけで、【エリア・エクストラ・ヒール】!」
1号船? に乗ってた怪我人さんがみるみるうちに治り、他の人たちのちょっとした傷も完治する。もちろん
指揮官さんも、起き上がった元重傷者さんを見て、私の実力を認めてくれたらしい。
「加勢、感謝する。
――てめぇら! 英雄様のお子さんが回復魔法で加勢してくださるぞ! 恐れる必要はねぇ、気合入れ直して行けぇ!!」
「「「「「「「「「うぉぉおおおおおおおおおお!!」」」」」」」」」
あははっ、勇ましいねぇ!
◇ ◆ ◇ ◆
「いやぁ本当に助かった!」
村の広場の
「ウワサに聞いてちゃいたが、本当にすごいんじゃなぁ嬢ちゃん! あの英雄様に一太刀入れたんじゃろう?」
「ひ、一太刀だけですよ」
ウワサの伝達速度パナイな!
祭りには村民だけでなく、冒険者も多数参加してる。というか船に乗って戦ってた人の半数は冒険者だった。
まぁそりゃ、あんな大海獣がひしめいてるんだもの。リスクもあるけどリターンも大きいよねぇ。
ちなみに時刻は昼過ぎ。
沿岸部まで大海獣がやって来るのはそうそうないのだそうで、こうして真っ昼間から戦勝記念パーティーが開かれてるってわけだ。
もちろん沿岸部には今も見張りが立ってるけどね。
聞いてちゃいたけど、随分とワイルドな生活してんのな!
私は屈強な海のあんちゃんたちにチヤホヤされつつ、色とりどりな海鮮の塩焼き・醤油焼き・味噌焼きを頬張る。
――――美味い!! 最高!! お酒欲しいなぁ!!
味噌と醤油を伝えてくれた先代勇者様には本当に感謝だ。
エビも貝柱も魚も
このアラ汁とか最高かよォ……。
これで刺身があったら完璧なんだけど、さすがになかった。アニサキス、怖いもんねぇ……。
村長さんにお願いして、【アイテムボックス】へも大量に入れさせてもらう。パパンとママンへのお土産だ。
対価として、私からはトニさん謹製テンサイ酒を1樽提供した。
そう、トニさんからはこういう取引のためにお酒を譲り受けてたんだよね。ホントは私も飲みたいんだけど、体が成熟するまでは厳禁と言いつけられている。
『中身は大人じゃん』という私の抗議に対するトニさんの『そんな駄々をこねてるうちは子供っす』というセリフは、そりゃあ綺麗に刺さったね!
そんな感じで舌鼓を打ってると、
「そんな! 困ります!!」
「ええいうるさい! 金は出すと言っているだろう!」
広場の片隅、商店っぽい建物の前で、例の行商人さんと村人――商店主さん?――が言い争っていた。
「これ以上塩を買われてしまうと、村の分がなくなってしまいます!」
「海水でも飲んでいればいいだろう!」
行商人さん、無茶言いよるわ。
「なんじゃ! 何を言い争っておる!」
お、村長さんが参戦した。
原因の一端は私にもあるし、ついて行こう。
「あ、村長! ザルツさんが塩の在庫を買い占めると仰いまして……」
行商人さん、ザルツさんって名前だった。
「はぁ? ザルツさん、あんた昨日、十分な量を買ったばかりじゃなかったのかい?」
「――あ! お前、勝手にどこへ行ってたんだ!」
私に気づいた行商人さん改めザルツさんが、村長さんを無視して私に怒鳴り散らしてきた。
……だから私はあんたの部下でもなんでもないんだってば。『勝手に』ってなんだよ。
「村長、文句ならこいつに言え! こいつの
「嬢ちゃん、どういうことだい?」
「実は――」
◇ ◆ ◇ ◆
かくかくしかじか。
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追記回数:4,649回 通算年数:401年 レベル:600
次回、アリス逮捕!?
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