19(401歳)「ゆうしゃは【ボーンチャイナ】をとなえた!」

「ねぇアリスちゃん、あなたを訪ねてきた人がいるのだけれど」


 翌朝、ママンから声をかけられた。


「はい?」


「なんでも、新しい磁器作りについて相談したいとかなんとか」


「――あっ!!」


 いかん、素で忘れてた……。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「す、すみません、わざわざお越し頂いちゃって……」


 砦に応接室なんてものはなく、ここは大食堂の片隅。


「いえいえ、こちらこそアポもなしに押しかけてしまって申し訳ない。それにしても――」


 磁器屋の店長さんが食堂を見渡し、


「ウワサには聞いていましたが、本当に砦に住んでおられるんですね」


「あはは、王国の守護者一家ですから。ところで新しい土地はどうです? 何か不具合はございませんか?」


「とんでもない! 日当たりも良く、水道からも近くて大変助かっております。庭も広くなりましたし。何より人通りが多いのが素晴らしい! 何もしていなくても売り上げが伸びております」


「モノがいいですから。人の目に触れる機会が増えれば、自然と売れるでしょう」


「はっはっはっ! 職人スキルのレベル6持ちの方にそう言って頂けると、素直にうれしいものですな。ところで――」


「綺麗な白が出せる磁器の話、ですか?」


「はい! いつならお時間が空いておりますかな? なんなら今からでもいかがですか!?」


 うおお、店長さんの圧がすごい! そして顔が近い!


「……そ、そうですね。お教えすると言いつつ数日たってしまっておりますし、今からでも。ただ……ちょっと支度を整えますので、小一時間後にお伺いするってことでどうですか?」


「分かりました! 店の方でお待ちしておりますぞ!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ウキウキな店長さんを砦入口まで見送り、自室へ。

 

 勉強机に着いて、光魔法【灯火トーチ】で明かりを灯す。【灯火トーチ】は熱を発しない純粋な光源。蛍光灯の上位互換みたいな魔法だ。


 続いて引き出しから紙を取り出し、ペン立てから試作型Gペンを手に取る。


 このGペン、正しくは『つけペン』っていうんだけど、鉄製のペン先にインクを吸わせて文字を書く。この世界の主流である羽ペンよりもずっと使いやすく、線の強弱がつけやすい。

 そりゃ漫画家たちに大流行するわけだね!


 ペン軸は私の【アースニードル】製。ペン先は、パパンからボロくなった装備の屑鉄をもらい、それを土と火の混合魔法【鍛冶フォージ】で加工した。

 あまりの書き心地のよさに、ママンが大興奮してたよ。逆に、書類仕事の全てをバルトルトさんに投げているパパンからの評価はイマイチだった。つーかパパン、ちったぁ書類仕事しろよ!


 それはさておき、紙に『ボーンチャイナ』と書いて、スキル【おもいだす】を意識しつつ【鑑定】!



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『ボーンチャイナ』

 磁器の種類のひとつで、骨灰磁器とも称される。

 ボーンは骨を指し、チャイナはそれ以前のイギリスで中国磁器が多用されたことに因む。

『JIS S2401 ボーンチャイナ製食器』では『素地は少なくともリン酸三カルシウム、灰長石およびガラス質からなり、かつリン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)の含有率が30%以上のもの』とされる。

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 もうね、この【おもいだす】からの紙に書いた文字の【鑑定】がマジチート過ぎ。私が前世で1度でも見聞きした知識なら、全部引き出せるんだもの。

 異世界物の作家志望くずれとしての知識が、こんなところで役に立つとは!


 続いて紙に『JIS S2401』と記し、スキル【おもいだす】を意識しながら【鑑定】! すると今度は、かつて1度調べてみたことがある、JIS規格の情報がずらずらと目の前に表示されるが、さすがに難しすぎてよくわからない。


 今度は『ボーンチャイナ 作り方』と記して【鑑定】!

 かつて見たことがあるWebページの記述が表示される。ふむふむ、工程はこんな感じ、焼きの温度と回数はそんな感じなのね。

 で、肝心の骨灰その他の比率は――



    ◇  ◆  ◇  ◆



「た~のも~う!!」


 下調べを終え、やって来ました焼き物屋さん。

 裏口から来るように言われたからそうしたけど、表の店舗は大層な賑わいだった。


「ようこそおいでくださいました!」


 店長さん、大興奮。

 さっそく奥の工房へと連れて行かれる。


 工房では、10歳くらいの息子さんが土を練ってるところだった。お手伝い兼修行かな? 職業は『磁器職人』かも。


「ではさっそく、あの白さの秘訣を教えて頂いても?」


「はい。結論から言いますと、あれは動物の骨です」


 勧められた椅子に座りながら、答える。


「骨!?」


「失礼――【アイテムボックス】! こちら、ベヒーモスの前足なんですが」


「べ、べべべベヒーモスですとぉ!?」


「あー……父が強いもので」


 ……まぁ狩ったのは私だけど。


「あ! そうでしたな、お嬢様のお父上は王国の守護者様ですから」


「はい。で、ちょっと離れててくださいね――【物理防護結界】で器を作り、【ウィンドカッター】で皮と肉を削いで、2つに割って髄も抜いて、骨以外は【アイテムボックス】へ! 続いて骨を【テレキネシス】で砕いて砕いて【ファイアウォール】で蓋をして焼き上げると……はい、骨灰の完成です!」


「「な、ななな……」」


【アースボール】で皿を作り、骨灰を入れて店長へ渡す。


「あ、これはどうも」


 店長さんと息子さん、私の魔法に目を白黒させてたけど、既に引越し【アイテムボックス】や基礎作りで何度か見てる分、フリーズからの再起動は早かった。


「これを、いつも使っている粘土に混ぜ込んでみてください。私がやった感じだと、だいたい粘土全体の3割が骨灰になるくらいがよさそうですけど、細かい調整はその道のプロである店長さんにお任せします」


 あえて、店長さんのプライドを刺激するような言い方をしてみる。

 店長さんの目がギラリと光る。そして口元には壮絶な笑み!


「あ、骨は別に何の骨でも大丈夫です。ベヒーモスを使ったのは、単に骨太で量産しやすいってだけですので」


 ホントは、地球のボーンチャイナが牛の骨を使ったことにあやかってるんだけどね。私の中では、ベヒーモスは牛に分類される。

 象じゃないかって? サイじゃないかって? うーん……F○世代の血の成せるわざかな……。実際、魔の森にいるベヒーモスは4足歩行だし鼻は短い。だから牛だ。


 というわけで実験開始!


 店長さんが粘土造りと造形を行っている間は骨灰を量産し、造形が出来上がったら結界と【火魔法】で時短しながら焼き上げる。


 そんなサイクルを数時間ほど繰返し……、


「「「ぉぉおおおおお……」」」


 作業台の上には、輝かんばかりに白い磁器――白磁はくじの姿が!


「できましたね!」


「そうですな!」


「すごーい!」


 手伝ってくれた息子さんも大興奮だ。

 うんうん、こいつのよさが分かるとは、見込みあるねチミ。


「これは売れる! うっうっ……お嬢様、なんとお礼を言ったらいいか……」


 店長さん、感極まって泣き出しちゃったよ。

 ところがどっこい店長さん、まだ終わりじゃないんだよねぇ。


「店長さん、これ、何だと思います?」


【アイテムボックス】から取り出したのは、ビンに入った光り輝く粉。


「これね、ミキプル……げふんげふん、魔力満タンの魔石をすりつぶしたもの」


「……え? ま、まさか、まさかそんな、それを粘土に……?」


「店長さん、これ、何だと思います?」


 続いて【アイテムボックス】から取り出したるは、ほのかに白く輝くカップ。


「な、な、な、なんてことだ……」


 がくがくと震えだす店長さん。

 そう、ボーンチャイナを作るための粘土に、魔石を少量練り込んだのだ。


「そしてさらに……この上に塗料を塗るとどうなると思います?」


「まさか!」


「そう、塗料の色で光るんです!」


「ふぁーーーーっ!!」


 興奮のあまり奇声を上げる店長さん!

 いいねいいね、おどかし甲斐があるってもんだよ!


「高価な魔力充填済み魔石を使うので、値段設定はかなり高めになるでしょうけど……これだけの美しさです。富裕層相手にはバカ売れ間違いなしでしょう!」


「うぉぉぉおおおおお!!」


「このカップはご参考までに差し上げます。あとこれ、今回限りの出血大サービスで、魔力充填済魔石100キロです」


 どんっと置かれた光り輝く壺を見て、店長さんが気絶した。






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追記回数:4,649回  通算年数:401年  レベル:600


次回、アリスが道を敷きます。

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