ヤイロ

Liber

第1話

むかしむかし、ヤイロの森には恐ろしい魔女がいるという言い伝えがありました。

魔女は歌をうたって人間を誘い、そして、入って来た人間を食べてしまうというのです。

多くの人間が森に入り、魔女の正体を突き止めようとしましたが、誰ひとりとして戻っては来ませんでした。

そしていつからか、この言い伝えも忘れ去られ人々の記憶からも薄れていったのです。







「こ、怖あ…。」

話を聞き終えた恵麻えまは膝に抱えたスクールバッグに顔を埋めた。

「どこがだよ。そんな話、どこにでもあるだろ。」

机に座って足を組んでいた賢治けんじが、足を組み直しながら鼻で笑う。

 放課後、僕たちはいつもの4人で教室に集まっていた。小さな頃からの幼なじみである、賢治けんじ恵麻えま、そして中学から仲の良い鈴音すずね。僕たちの共通点は所謂、都市伝説やそんな類の話が好きだということ。定番のトイレの花子さんや口裂け女、ありとあらゆる都市伝説を調べていた。それは、ただの興味本位。調べてなにをしようというわけでもなく、4人が盛り上がる話題がそれだったからだ。

 先ほどの「ヤイロの森の魔女の話」は、僕が祖母から聞いたものだ。この森は僕たちの住む町にあって、「何か不穏な噂がある」と、そのくらいなら誰でも聞いたことがあると思う。いよいよもうネタがなくなってきたな、そう考えていたところでこの噂話を思い出したのだった。


「私も調べてみたけれど、魔女がいるんじゃなくて異世界に繋がっているって話もあったわね。」

「異世界って、それ、ファンタジーすぎない?」


相変わらず笑っている賢治。まあ、賢治はこういう話は好きだけれど、絶対信じないタイプだし。対して恵麻はかなり信じやすい。かなり非現実的な話でもすぐに信じてしまう。鈴音はいつも冷静。きっと、この4人だからこそバランスが取れているんだと思う。


「調べてみようか。他にネタもないし。」


僕がこの話を祖母から聞いた時、始めと終わりと、それから話を聞いている途中にも、「森に入ろうとは考えるな」と何度も釘を刺された。正直そこまで言われてしまうと、逆に気になってしまう。

僕の言葉に、賢治と鈴音は頷いてた。恵麻は…、少し落ち着いたようだけど必死に首を横に振っている。

「やめよう?なんだか嫌な予感がするし…。」

「大丈夫よ、ただの噂なんだから。異世界やら魔女やら、そんなこと現実的にあるわけないもの。」


ね、と鈴音に肩を摩られ頷く恵麻。


「じゃあ今週の日曜、早速行ってみる?」


僕の言葉に3人が頷く。


「おい、何してる?用がないなら早く帰れ。」


今週末の予定が決まったところで、見回りの教師から声をかけられた。ふと時計を見ると6時を回ったところだった。各々急いで鞄を持ち、教室を出た。


 森に入るってバレたら絶対に家族には反対される。秘密にしないと。


こうして、3日後、僕たちはヤイロの森に行く事になったのだ。

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