Samhain③

平時賑わっている食堂も今日ばかりは閑散としていた。

食堂の職員も休暇中なので食事こそ提供されないが、調理場と(過剰な消費は咎められるが)食材の利用は認められている。

サウィンに休暇をとりたがらない薬学室の面々といえども伝統的な風習を祝う気持ちはあるようで、夜には研究室で、ノエルさんとベルさんが作った料理を囲んだりしてるそうだ。そこでも研究室から一歩も出ないあたり彼ららしいともいえるだろう。

ちなみに料理担当の人選は毎年固定で、料理上手なベルさんと何でもそつなくこなす器用さを持つノエルさん。俺は手伝いとして参加させてもらった(マンドレイクらは置いてきた)。


「ノエルさんは帰省しないんですか?」


「俺、実家嫌いだから」


「へー・・・」


薬学室ウチで帰省すんのはカルタくらいだな。毎年サウィンは家業が忙しいんだ」

ベルさんは冷蔵箱から、紅茶に浸したドライフルーツの入った容器を取り出す。

これから作るのは、バーンブラック、コルカノン、アップルサイダーといったサウィン定番料理とミシアの好物であるボクスティ。


「カルタさんの家業?」


「墓守の家系なんだよ、あいつ」


墓守はその文字通り、墓荒らしから墓場を守る役割を担う職業だ。その中でもカルタさんの実家であるカーター家は代々国中の墓守を取り仕切る総本家なのだそう。


「埋葬品や死体狙いの墓荒らしは年中いるけど、サウィンは更にネクロマンサーや死体を食べる妖精、魔獣も増えやすい」


「『死体狙い』って・・・。死体なんてどうするんですか?」


「まぁ、大抵は儀式とかで使うんじゃねぇか?黒魔法には死体を使う魔法は少なくないからな」


「当人が使うっていうよりは、金儲けだろ。おもてで規制されてる分、闇市場で死体は高値がつく」


「うへぇ・・・」


ベルさんは小麦粉を(毛が混入しないよう被せた布の上から)練ってバーンブラックの生地を作り、ノエルさんが四分の一に切っていくジャガイモをマッシュポテトにするべく俺はマッシャーでひたすらジャガイモを潰す。


「あれ、バーンブラックには何も入れないんですか?」


「何がだ?」


「ほら、指輪とか布切れとか」


バーンブラックの中に指輪やコインを入れ、切り分けて食べた時に入っていたアイテムによって先一年を占うのがサウィンの習わしだ。俺も孤児院の時にはそうしていた。


「ウチは毎年入れてねーな」


「占いを信じる奴がいると思うか?」


確かにいなさそうだ。


「でも、アレって信じる信じないというか、そういう遊びじゃん・・・」


「そう言われるとそうなんだけどな。どちらにせよ普通に食った方がうまいし」


「さいですか・・・。話戻しますけど、ネクロマンサーって要は魔法使いにんげんですよね?サウィンに増えるって?」


「単純な話、死霊魔法ネクロマンシーってかなり高度な技術なんだよ。だから魔力が溢れ、かつ、死後の世界から霊や魂が還ってくるって言われてることから”死”という概念に結びつきやすい。魔法はイメージの世界だからな」


「あー、つまり、普段は成功しにくい死霊魔法ネクロマンシーが成功しやすいのがサウィンってことなのか」


「そう」


死霊魔法ネクロマンシーは国で全面的に禁止されている黒魔法のうちの一つだ。どんな理由であろうと黒魔法を発動させる意思を示しただけでも罰則の対象となる。しかし、魔法使いゆえの探求心からなのか、富や名声のためなのか、ネクロマンサーのような黒魔法使いは後を絶たない。


「ここの学者は騎士団と連携して仕事することが多いんですよね。隣にあるくらいだし。って事はやっぱ、黒魔法使いを相手したことあったり?」


大量のマッシュポテトを二つに分け、一つはノエルさんが切ったキャベツ、ベーコン、香草を加え、もう一つは小麦粉、卵と一緒に混ぜ合わせてボクスティの生地を作る。


「別に俺達は直接捕まえたりはしねーよ?」


「オレたちは所詮学者だからな。黒魔法使いが作った違法魔法薬の調査とか黒魔法対策の魔法薬を開発、製薬したりが限度だ」


あらかじめ火を入れて予熱していた石窯で型にいれたバーンブラック焼き上げていく。コルカノンは牛乳と調味料で味を調え、ボクスティの生地はバターを引いたフライパンで焼いていく。


「ベルさん、アップルサイダー取って」


「おう。__あ、でもミシアと一緒に現場に駆り出されたときに一回だけ黒魔法使いと遭遇したことあったな」


「ベルさんが師匠せんせいと一緒に?」


ノエルさんはアップルサイダーの瓶を傾けて鍋に移し、シナモン、オレンジピールを加えて火にかける。


「ノエルが来る前の話だ」


特異な魔法感知能力を持っているミシアは事あるごとに騎士団から支援の要請を受けることが多いのだが、優れた魔力感知と洞察力がある反面、保有魔力量が少なく防御魔法もままならないので、騎士の任務に同行する際は薬学室からももう一名派遣されることになっている。いまは助手であるノエルさんがいるが、彼が薬学室に所属する前はベルさんが同行することが多かったらしい。


「っつっても、ミシアにも身を守る術が無いわけじゃないんだけど__」


『チョーダイ』


「ん?」


ふと声がした方に視線を向けると、焼いたボクスティを重ねていた皿の前に三匹のピクシーがいた。


「『頂戴』って、ボクスティこれを?」


(妖精のお願いってあんま断らない方がいいんだよな?)


「んー、一枚だけなら__」


「うおっ、馬鹿!」

シルバーに刺したボクスティをピクシーらにやろうとしたところで、ノエルさんが慌てて俺とピクシーらの間にフライパンを挿し込んでソレを阻んだ。鉄が苦手な妖精ピクシーは一目散に飛んで逃げた。


「えっ__」


「お前!契約もしてないのに妖精に何か与えたらダメだろ!」

彼の行動に困惑しているとノエルさんが冷や汗を浮かべながら俺に迫る。


「うっ、す、すみません・・・?」


どうやら、妖精に物を与える際は契約や助力の対価として支払うのが鉄則なのだという。


「妖精の要求に無償で応えてしまうと、次第にエスカレートして取り返しのつかなくなるケースがあんだよ」


石窯からバーンブラックを取り出すベルさん。ドライフルーツの甘酸っぱさと小麦の焼け上がる香ばしい匂いが食堂に広がる。


とつ国では妖精が見えるのも関わりを持つのも魔法使いや魔術師に限られるらしいが、魔力に満ちたこの国フィンディラでは魔力無しリジェクターにも捉えることができ、切っても切れない存在なのである。

そして、この世界において妖精かれらの機嫌を損ねてはいけないことが共通認識だ。


アップルサイダーそれ、鍋ごと持っていくだろ?」


「うん。分けてから持ってくの面倒だし」


「ノエルさんさっきの大丈夫なんですか?守ってもらってなんですけど・・・」


「ん?ああ、直接危害加えたわけじゃないし問題無いだろ。一番マズいのは、妖精の手を借りて支払いを踏み倒すことと彼らの地を土足で踏み荒らすことだからな」


妖精とのやり取りはやはりまだまだ難しいものだ。

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