集合時間

 集合場所のドアを開くと中から男女の騒がしい喋り声が聞こえた。もうわたし以外のメンバーは揃っているみたい。みんなやる気は充分。わたしも自然と胸が高鳴った。

 ドアを抜けて最初に目に付いたのカゴウ親分とナッキングさんだ。

 カゴウ親分は突き出たお腹に手を置いて時折、太鼓みたいに叩いている。酒場の気のいい店主という感じの見た目でわたしたちチームの絶対的リーダー。でも頭を使うことは苦手で、それは彼の戦い方にもよく表れている。

 そんなカゴウ親分の補佐、というか実際にチームを指揮しているのはその隣にいるナッキングさんだ。黒のオーバーコートに身を包んで、よくタバコを口にしている。見た目はちょっぴり怖いけど、わたしたちのことを思って臭いのキツくないタバコを選んでくれていたり、近くに寄るときには消してから近寄るようにしてくれて、根は優しいってことをみんな知っている。

 わたしは二人に軽く挨拶をする。

 「おはようございます!カゴウ親分、ナッキングさん!」

 「おぉ、今日も一発どでかいのぶちかませよ?ネイル」

 「それは彼女の戦いやりかたにはマッチしてないでしょ。ネイル、今日も頑張ってけ」

 わたしは返事の代わりに右腕の力こぶに手をかけるポーズで応えた。

 『もちろん!今日も頑張っていくよ!!』と。

 二人を背に進むとすぐに絡み合う男女の影が見えた。

 あれはオルフェとウーバの姉弟だ。今日も今日とて姉であるオルフェが弟のウーバにダル絡みをしている。ウーバはもう十分に成長していて、たとえそれが実の姉だったとしても体を密着させることに抵抗を示すような年頃なのだ。

 「離れろよ・・・姉ちゃん」

 「えぇ~どうしよっかなぁ~。あ!ネイル!今日の調子はどう?」

 オルフェがわたしに気づいてこちらに手を振った。その間もウーバに回した手は決して離そうとはしない。わたしは呆れて言葉が出ないが、ウーバが必死に助けを求めるので加勢することにした。

 「ほら、あんたの弟が嫌そうにしてんだから離れてあげなよ」

 「そうだよ!?ネイルさんももっと言ってやってくださいよ!」

 「えぇ~?そんなこと言って、ホントは嬉しいんじゃないの・・・?」

 オルフェの試すような目にウーバは更に反発する。

 「もうそんな年じゃねぇって。姉ちゃんこそ恥ずかしくねぇのかよ、こんな人前で!?」

 「だって最近若い男に触れる機会が全然ないんだもの・・・。こうして見せつけてたらどっかから若い男がやってこないかなぁって」

 「俺は出しかよ!?」

 もうこれ以上付き合う気にはなれないが、このままほっておくのもあれなのでわたしは「ほらほら、弟が嫌がることするお姉ちゃんでいいの?」と口にしながらオルフェを引きはがした。オルフェはまるで母親のお乳を求める赤ん坊みたいに腕を伸ばして必死に抵抗する。これが旬を失いつつある女の末路なのかと思うとわたしは将来が怖くなった。

 「そんなに男に触れたいならカゴウ親分やナッキングさんのところ行けばいいんじゃないの?ナッキングさんとか悪くないんじゃないの?」

 わたしはそう囁きながら横目でナッキングさんのことを視界に捉えた。コートに身を隠すように背中に密着したカバンとそこに収められた彼の武器。そして、それを構える様子を想像するとわたしの頭の中はその映像でいっぱいになる。

 つい緩んだ腕から身を引き抜いてオルフェは呆れた顔をしてわたしの純情を皮肉る。

 「ネイルってば、ナッキングなんかのどこがいいわけ?」

 「な、何がさ!?わたし、べつになんにも・・・・」

 「は~あぁ、やっぱ若いっていいよね。あんな堅物相手に恋できるなんてさ」

 「はぁ!?ちょ、どういうこと?恋って!?」

 「大丈夫、大丈夫。別にチクったりなんかしないからさ。それにあたし、あいつだけはマジ無理、なんならカゴウさんのお腹に抱き着くほうがマシだわ。いっつも暑苦しいコートなんか着ちゃってさ、なんなのさあの黒焦げのトーテムポ・・・

 「誰が黒焦げだって?」

 いつの間にかナッキングさんがオルフェの背後について彼女の頭を真上から掴んでいた。そのまま指先にメリメリと力が込められていって次第に彼女の顔が苦悶の表情へと変化していく。

 「いだだだだだだ!?ナッ、ナッキング!?お願い、マジ痛いからやめてぇぇぇ!!」

 ナッキングさんはオルフェの懇願も無視して力を入れ続ける。今回はかなり怒らせたらしい。

 「あの、姉がいつもご迷惑かけてすいません。またネイルさんがいなかったらどうなっていたか・・・」

 ダル絡みする姉から逃げ出せたウーバが感謝おずおずとした様子で感謝してきた。わたしは「頑張ろうね」と口にして肩を叩くとそこを離れた。

 騒がしいけど、これが日常。わたしたちのチームだ。

 もう少し進んだところでわたしはベンチにまたがって銃の整備に興奮している背中を見つけた。

 「ルーア!もうすぐ始まるんだよ?いつまでも整備してたら出遅れるよ?」

 淡いピンクの髪を三つ編みにしたルーアがこちらを振り返る。その顔には彼女がいつも使っている眼鏡がかけられていた。やっぱり開始ギリギリまで武器の整備していた。彼女は自慢の武器のこととなると周りが見えなくなるのだ。たとえ真横で先ほどのオルフェとナッキングさんの乱闘が起きようがお構いなしだ。

 「あぁ、ネイル。今日も頑張ろうね」

 ルーアはまるで朝起きた最初の一言みたいに気楽な返事をした。

 「うん、頑張ろうね」

 わたしも彼女の生み出す空気に乗せられて吞気な挨拶を交わした。

 パンパンという甲高い破裂音に続いて、カゴウ親分の野太い声が響く。

 「さぁみんな、今日もいっちょでかいのを頼んだぞ!」

 そう言うと親分は背後に開かれた扉の先、光り輝く世界へと姿を消す。

 それに続いて、ナッキング、ウーバにオルフェと消えていく。

 わたしはルーアに目配せして半歩足を前に進める。

 「先に行くよ。よい狩りを」

 走り出したわたしの背中越しに「よい狩りを」というルーアの声が聞こえた。

 扉を抜けた先は、大樹広がる原生林の中だった。

 さぁ、今日はどこから攻めようか。

 わたしはグリップを握った指先で、銃のスイッチを入れた。

 狩りの始まりだ。

 

 

 

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