第53話 新兵器

 命からがら、基地に帰還した勝達は撮影した写真をアラン達に見せ、作戦会議を始める。


「これが、ゴラン国か……気のせいか、閑散としているんだが……」


 トトスは写真に映る、人がまばらで寂れた街であるゴラン国の内部の様子を見て、これのどこが脅威なんだと首を傾げる。


「いえ、これが曲者なのです……!」


 勝は眉間に皺を寄せ、深刻な表情を浮かべ、写真を指さす。


 そこには、勝のいた元の世界での世界大戦に使われていた戦車とほぼ同じ形のものがあり、トトス達はあっけに取られた表情でそれを見つめている。


「これは……? いや何の変哲もない箱にしか見えないんだが……?」


 カヤックは、神妙な顔つきで、箱に筒がついている奇妙な物体を呆然と見ている。


「これは、戦車と言って、自走式で大砲を発射できるのです。車輪と言って、動物ではなくて地面を走るものです。これにはかなり苦戦させられました……!」


「ほう、一体どんなものなんだ? 詳しく教えろ……」


 勝は深くため息をつき、テーブルの上に置かれた飲料を軽く口に含む。


「説明がしづらいのですが……戦車は、私がいた日本と敵対している欧米諸国が開発したもので、大砲を装備しており、かなりの破壊力を持っています。装甲が頑固で、同じ大砲か爆弾でないと破壊はできません。私がいた軍にも戦車はあったのですが、アメリカ軍のとは性能が桁外れに劣り、破壊すらままならず敗北しておりました。……これを、ドラゴンの吐く炎で壊せるかどうか疑問です……!」


「……!」


「ここは、やはり停戦を……!」


「あんな奇天烈な兵器があるなんて、多数の死者が出ます!」


 議員の誰もが、戦争推進派のカヤックに異論を唱えるのだが、カヤックは眉間に皺を寄せ、少し考え、口を開く。


「いや、停戦だけは避けられぬ! 隷国になるのだけはならぬ! 人が作り上げたものには必ず弱点がある筈だ! 勝、何でもいい! 戦車の特徴を話してくれ!」


「はっ!」


 勝はカヤックの鬼気迫る表情を見て、この方は本当に国民を思っているのだなと雰囲気で感じ、腕を組んで戦車の事を思い出す。


(戦車は、鉄でできていた。まぁ当然なんだがな。分厚い装甲板は弾丸を通さなかった。弱点……鉄……)


「あっ」


 微かな直感の声に、カヤックは確信めいたものを感じ、それが絶望めいた現状を打破する可能性が何かと渇望して勝を見やる。


「な、何かあったのか!?」


 カヤック達は食い入るようにして勝を見つめており、勝はそれに引きながら口を開く。


「戦車は鉄の装甲板でできています、炎で溶かすことができれば……」


「鉄? 鉄とはなんだ?」


 勝の、至極当たり前なのだが、この世界ではまずあり得ない頓珍漢な返答に、カヤックや有識者達は頭を捻らせている。


(無理もないか、鉄はこの世界には存在しないはずの物質だからな……)


「勝、それは君が持っている短剣に使われている素材の事か?」


 ヤックルはキリッとした表情で、勝の胸に吊る下げてある旧日本軍の短刀を指さす。


 勝はヤックルの普段の時のギャップに戸惑いながら、確かにこれはそうだったなと心の中で呟き、口を開く。


「ええ、確かにこれは鉄だ、鉄で作られているものだ。この世界にそれは存在しないかと……」


「いや、似たような鉱物があるんだよ、それはこの大陸で使われているウステトというもので、剣や槍、日常生活で使われているナイフに加工されて使われてるんだ。これは熱に弱くて高熱に曝されると変形する。ドラゴンの炎でも勿論すぐに変形してしまうんだ。もしかしたらこれが勝機があるのかもしれないぞ」


「成程……! 鉄のような素材の鉱物がこの世界にあったとは……! いや、よく考えたら皆さんが使っている槍や剣はそうだったな。ドラゴンの炎の高熱ならば溶かせるかもしれない!」


「よし、これならば倒せるぞ!」


「有利に進められるかもしれない!」


 周囲は勝の発言に一筋の光明を感じているが、カヤックは深刻な表情を浮かべている。


「だが、零戦はどうなるんだ……?」


「……」


「問題はそこだ。ドラゴンが苦戦するものがあるのならば、それが大量生産されているのかどうかが課題だ……!」


 カヤックはさらに眉間に皺を寄せ、この数分で5歳ぐらい老けた様相であり、アレンは停戦をして隷国の傘下に入る事を何故行わないのか、裏で何があるのではないかと勘繰っている。


(まさかこの世界に零戦が存在するとは……! しかも戦車まで……! しかし、ハオウ国は一体どこまで強いんだ!? 勝てる見込みはない……いや、根性で勝つ! 俺は必ず日本に帰るんだ!)


 勝は臆病風に取り憑かれている自分を奮い立たせ、覚悟を決めた表情でカヤック達に向かって口を開く。


「相手と差し違える覚悟で立ち向かいましょう! 零戦には装甲板が無いのです! 被弾したらすぐに火だるまになります! 火弾を放つのです! いや、それか、夕弾のようなものがあれば……」


「夕弾?」


「上空から炸裂する爆弾です! 中身はリンなのですが、分かりやすく言えば燃えやすい物質で、これを使って重爆と戦ってきました! これがあれば……」


 ラバウルではB17の爆撃が連日にあり、月光を用いて迎撃に出かけたが全く歯が立たず、夕弾を用いての攻撃に切り替わり、勝はこれを使って何度か攻撃を仕掛けてB17を2機炎上させた。


「夕弾……あるよ、それに近いやつが」


 ヤックルは勝達にそう言い、テーブルの上に置かれたゴラン国の資料をまとめた用紙の中身を見せる。


「ほう……」


 そこには筒のようなものが書いてあり、その中には発火剤と書かれたものが書いてある。


「これは何というのだ?」


「焼夷式炸裂弾。燃えやすいエンリという物質が含まれていて空気中で発火して燃えるんです。空中戦で用いられているのです」


「な、そんなすごい兵器があるのか!?」


 勝達は焼夷式炸裂弾の画像を見て驚嘆する。


「これを使いましょう! こいつならば零戦に勝てる!」


「うむ、そうしよう! ヤックル、早速使い方を……」


 カヤックがそう言いかけた時、どたどたと廊下から誰かの走る音が聞こえる。

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