第51話 偵察

 次の日の早朝、勝達偵察部隊はゴラン国へと任務を遂行しに向かう。


「うーん、痛てて……」


 勝は元の世界で当然の事ながらンイワウのような蒸留酒は飲んだ事はなく、中国戦線でアルコール度数の強い現地の酒は飲んだことはあったがそれとは違う味わいに感動して、馬鹿のように飲んだのが災いし、二日酔いに苦しんでいるのである。


『おい勝! シャキッとしろよ!』


 魔法石からはアレンの声が聞こえ、何故こいつは前日にあんなに強い酒を飲んだのに二日酔いにならないんだなと勝は疑問に駆られる。


『アレンさん! 何で二日酔いにならないんだ!?』


『馬鹿野郎、お前と俺らとは体の構造が違うんだよ、多分!』


 別高度の偵察の為、アレンとヤーボは勝のいる位置から500メートルほど上空を飛んでいる。


『そうですか……うっ、おええっ』


 勝は強烈な吐き気に襲われ、ゼロの首と翼の間に顔を出して、今朝無理やり食べたパンと野菜のスープと豚のような醜く肥えた、三つ目の耳のでかい生き物の肉を挽いて作ったミートボールを思い切り吐き出す。


『うわっ、超汚ねぇ!』


 アレンは勝の粗相を訝しげに見つめながら、後10分程で到着するであろうゴラン国がある砂漠地帯を見つめている。


『吐いてんじゃねぇよ!』


 ヤーボはアレン達の話を整理し、勝が本当は酒が強くないんだなと理解している。


『おえっぷ……! 失礼致しました!』


 勝は面目無い表情を浮かべ、ゼロの手綱を引きながらゴラン国へと進路を取っている。


『グオン……!』


 ゼロは勝のゲロが臭かったのか、軽く悲鳴を上げている。


(すまなかったな、俺が酒が弱いばかりに……! しかし、昨日飲んだ酒はなぜあれ程まで苦くて強かったんだろう? 元の世界とは違う味わいだった、また飲みたいものだなあ……!)


 勝の家系は酒は人並みよりも少しだけ強く、予科練や戦地でも酒を飲む機会があった為に自然に酒に強くなっていった。


 元の世界で飲んだことがない葡萄のような果物を、ワインとほぼ同じ製法で作られたンイワウというアルコール飲料の独特な苦さを、勝は気に入ってしまったのである。


「あれは何だ!?」


 勝は目の前にある光景に目を疑い、身の危険を感じてゼロの手綱を引く。


『何がいたんだ!?』


『いや何で過去形なんだよ!? 勝、応答せよ! 何が見えるんだ!?』


 ヤーボとアレンは勝の動揺からして、只事ではないと感じており、勝に尋ねる。


『零戦が……10、いや100機以上いる!』


『何だってえ!?』


『ヤベェよそれ!』


 勝の視力は12.0と既に神の領域に達しており、10数キロ以上先に待ち構えている零戦の大群が識別できていて、ヤーボ達はそれが嘘ではないのだなと感じ、背筋に凍りつく物を感じる。


『落ち着きましょう! 上空に退避してから任務につきましょう! 零戦は高高度を飛べないのです!』


 勝は、軍人としての経験で現実に絶望してもなにもならないという事を嫌というほど分かっており、零戦が脅威なのは恐るべき事だが、何かしらの打開策はあると思い、高度を上げる事をアレン達に画策する。


『分かった、高度を上げよう!』


 アレン達はドラゴンの手綱を引き、上昇するように指示を出す。


(この国は相当資源が豊富なのか……? 零戦を大量に作り出すとは……! これは十分に脅威だ、何かしらの対策を練らなければならぬ……!)


 速度が劣るゼロは、ヤーボ達に遅れる形で上昇を始め、雲の谷間に入り込む。


『このまま進んで、上空から撮影しましょう!』


 勝はアレン達にそう伝え、ゴラン国へと針路を取る。


 🐉🐉🐉🐉


 勝達が強行偵察を行なっているのと同時刻、ヤックルはゴードン達から教わった技術を他の技術者と共にカヤックに伝えている。


 内容は大砲の威力増大などの兵器の他、聴診器やギブスなどの医療機器、蒸気機関などの文明進化を進めていくものであり、技術もさることながらヤックルの成長ぶりはトトス達の目を見張った。


「……以上です」


「ふうーむ、貴様は魔道士よりも技術者の方が向いてるんじゃないか?」


 カヤックは機械の事になると非常に大人びた物言いになるヤックルを見つめ、才能を開花させる術が自国にはなかったんだなと溜息をつく。


「いえ、ただこの技術を全て行うのには、この戦争には間に合いそうにはありません……!」


 ヤックルは無念にそう呟く。


「やはり、技術者と人手が不足しているのか、使える人間はいないのか……! 兎も角、戦争に勝てるようにしなければ……!」


「あのう、疑問があるんですよ」


「疑問だと……?」


「零戦を作ったとしても、大量生産できる術はあるのですか、向こうの国には。勝から零戦の事は教えてもらったのですが、僕らの国にある武器や技術に比べて数段上のものでして、僕の勘というか主観なのですが、一つ作るのが限界な気がするんですよ……」


「ふうむ……言われてみればそうだな、そもそも何故零戦の事が向こうには知れ渡ったんだ? 残骸は研究用に保管した筈だが……? いや、待てよ!? もしかしてそれが盗まれたのかもしれないぞ!」


「確かに、零戦を作ろうにも、肝心のモデルがないですね……」


「直ちに倉庫を調べよ! 零戦の残骸があるかどうか調べるんだ!」


「はっ!」


 カヤックの命を受け、下士官達は倉庫へと足速に向かった。

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