第32話 新藤綾香の物語 ep.2
正吾君に助けられて、それで人生が全て上手く行ったかと言えば、残念ながらそうはならないんですよね。
明るい子を演じるのは良いとして、私はそれまでまともに男の子と話した事もありませんでした。だから正吾君と何を話せば良いかも分かりませんでした。そんな私を、それでも正吾君は楽しませてくれました。エスコートって言うんですかね。本当に本当に、楽しかったんです。夢のようでした。初めて天使に感謝しました。
転校初日から三ヶ月くらい経った頃でしょうか。正吾君とは何回かデートしてたんですけど、急に誘われなくなりました。理由は単純で、彼に彼女が出来たから。告白されたみたいです。正吾君には謝られました。そういう訳でもう二人で会うような事は出来ないって。正吾君、その辺硬いですからね。そこも素敵なんですけど。そもそも正吾君の目的は私をイジメから助ける事であって、私と付き合う事ではなかったんです。それはそうですよね。彼と私では、とても釣り合いませんから。
その時の私はまだ彼に対する思いが恋だとか愛だとかそういう事が良く分かってなかったし、まさか自分が彼と付き合えるだなんて思ってなかったので案外ダメージはなかったんですよね。正吾君のお陰でイジメは起こらなかったし、上位グループにいたのでそれから少しして別の男の子から告白されて付き合い始めたり。これまでと比較したら、不満なんかある筈がありません。正吾君には感謝しかありませんでした。教室では普通に接してくれるし、正吾君と私の所のカップルでダブルデートをしたことだってありました。何の、不満もありません。
進学して中学三年生になって、正吾君と別のクラスになりました。それをきっかけにイジメが起こるような事もなかったです。私は生まれ変わったのです。変わらず上位グループに属していて恋バナしたりお洒落したり男の子と遊んだり。普通に楽しかったですよ?ただ、そこに正吾君がいないんですよね。心の底から楽しんでる訳じゃないというか。いや、すみません。私ごときが何を高望みしてるんだって話ですよね。
この頃には流石に正吾君への思いもはっきりしてました。はい。彼の事が好きです。愛しています。正吾君、頭良かったから、彼と同じ高校に通うのは難しかったです。だから、中学校の卒業式の日に彼に告白しました。
フラれました。
分かってましたけどね。その時点でも正吾君、彼女いましたし。今にして思えば、中学二年生の転校初日からの三ヶ月の間に、正吾君は私が結婚するに値しないという判断を終えていたんでしょうね。実際そうだと思います。思うんですけどね。もう、大泣きですよ。もちろん正吾君の前では泣いたりしてないですよ?家に帰ってから。ううん。家に帰るまでの間もずっと。
はっきりと、生きる気力がなくなりました。逆高校デビューです。イジメは復活。トイレでの水掛けイベントも発生。いつものように自殺。この時の後悔は凄かったです。せっかく正吾君が助けてくれたのに、それを無駄にしてしまったのですから。
……そしてまた中学一年生からリスタート。今度は失敗しない。イジメもそうですが、正吾君と結ばれたい。分不相応なのは分かってます。しょうがないじゃないですか。彼の事、好きなんです。
転校初日の挨拶。わざと失敗します。今回も正吾君は声を掛けてくれました。カッコいいです。素敵です。一回目のデートの終わりかけ。私から告白します。OKを貰います。嬉しすぎて死ぬかと思いました。
今回は晴れて彼氏彼女ですからね。正吾君がどういう女の子と結婚したいのか、深く追及しました。すると意外にも正吾君のストライクゾーンは広いことが分かりました。そこそこ可愛くて、料理や家事が出来て、根性がある、もとい子供を愛せるか。
多分、付き合ってくれた時点でルックスについては及第点を貰えています。少しでも彼に釣り合うために、今回は自分磨きにもかなり力を入れてましたから。良かったです。
料理に自信はありませんでしたが、最悪、今回の人生で練習してから、また自殺してやり直せば良いかなって思ってました。おかしいですかね。
子供についてはなんとも言えませんでしたが、うちの両親は仲良いし私も愛されてる実感があります。なんとなくそういう姿を見せれば行けるんじゃないかって思いました。
あと、一つ難しい事を言われました。私が結婚相手に求める事は何か、と。私的には相手が正吾君ならそれ以上は何も求める事がなかったので逆に難しかったですが、これも私がいかに彼を愛しているかを示せれば問題ないかなって。全ては順調だったように思います。私が余計な事を言うまでは。
あれは正吾君といつものようにデートしていた時のことです。何かの話の折、私は彼に転校初日に助けてくれた理由を聞きました。これまでも何回か聞いてたのですが、いつもはぐらかされてました。この時も、何も知らない正吾君からしたらはぐらかしたつもりだったのだと思いますが、私の受け取り方は違いました。
あのまま放っておくと綾香ちゃんがイジメにあうことを、俺は知っていたから。
彼は、確かにそう言いました。私にはその意味が分かりました。正吾君も人生をやり直している。私は狂喜しました!だって、こんな偶然ってありますか?私は我を忘れて、夢中になって自分の事を話しました!これまでの人生の事。正吾君に助けられたこと。彼の事をいかに愛しているか!正吾君は真剣に聞いてくれました。同時に、彼自身の事も色々教えてくれました。前の奥さんのことやきいちゃんのこと。だからこそ結婚相手を真剣に探していること。彼との絆が、一気に深まったと感じました!
しかしその日を境に、正吾君の様子がおかしくなりました。顔は日に日にやつれていく。目の下には酷い隈。眠れていない事が明らかでした。彼はなんともないと言って私を心配させないようにしていました。少ししたら、きっと良くなるからと。決して綾香ちゃんが悪い訳じゃない。思い出させてくれてありがとうと、感謝すらされました。
私にできることはありませんでした。だから、少しでも彼の負担にならないように、連絡やデートを控えるようになりました。私は正吾君を信じていましたから。彼の言うように、少ししたら今まで通りの生活に戻れるのだと、そう思っていました。
それから程なく、正吾君は登校中に事故に遭って、そのまま死んでしまいました。
私はトイレで自ら水をかぶり、いつものように自殺しました。
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