第14話 夫婦円満の秘訣
「綾香ちゃんママが結婚において大事だと思うことって何ですか?」
「二人の時は祥子って呼んで?」
「いや、まず二人じゃないですし、子供の前で誤解を生むような発言はちょっと」
俺は綾香ちゃんの家に来ている。今は夏休み中で俺の部活は割と適当なので綾香ちゃんの所よりも早く終わる。一度家に帰ってから綾香ちゃんが終わるまで彼女の家で待つ。何故かと言うとしゅんちゃんの面倒が見たいから。イクメンふぅーー!
「正吾、ゲームに集中しろ!」
「任せろ!」
しゅんちゃんの発言マジ面白い。一体どこで覚えてくるんだろ。俺は綾香ちゃんパパが買ったゲームでしゅんちゃんと遊びながら綾香ちゃんママとの会話を続行する。
「割と本気目にお願いします。綾香ちゃんママだけが頼りです」
綾香ちゃんの恋愛モードが終わらない限り彼女の本音は聞けない。しょうがないから俺は母親に聞く事にした。まぁ遺伝子半分同じなんだし大体一緒だろ。
「そうねぇ。まずはぁ、毎日ラブラブできる事でしょう?それからぁ……」
……きっつ!若く見えるけどこの人40歳手前でしょ?マジで?
「ええと、もう少し現実的なアレでお願いします。旦那さんがこうだったら良いのにな、とかでも良いです」
「パパに不満なんてないけどそうねぇ、もう少し仕事が早く終わると良いわよね。しゅんちゃんの面倒もあんまり見れないくらい疲れちゃうみたいだから、ほら、夜のスキンシップとか……」
いや、かと言ってそういう具体的なのは止めて?っていうか最初の答えとほぼ一緒じゃねぇか!
「恋愛感情って、いつまで続きますか?」
「出会ったときから今までずっと続いてるわ」
「……なるほど。確かに、綾香ちゃんパパって格好良いですね」
「そうでしょう!」
綾香ちゃんママと同じくもうすぐ40らしいが30前半にしか見えない。優しいしユーモアもある。うむ。綾香ちゃんママの気持ちは分からないでもない。
「……どうしてそんな事を聞くのかしら。あ、お父さんとお母さん仲悪いの?」
「いえ、別段良くもありませんが、致命的なイベントは回避しました」
父の浮気がバレる問題。母が気づく前に父の浮気相手のアドレスに定期的にメールを送った。私は知っている、と。フリーのアドレスから送信したので受け手としては怖い物があるだろう。しばらくしたら父とのやり取りの形跡が見られなくなった。完全に隠してるだけかもしれないが。
「それじゃあ、綾香と何かあったの?」
「ないから困っているというか、綾香さんが結婚相手に何を求めるかが知りたいんですけど、未だに舞い上がってる彼女に聞いても参考にならない訳です」
「なるほどねぇ。それで、正吾君はそれを聞いてどうしたいの?」
「安心したいんです。俺から見て綾香さんは結婚相手に相応しいと思っていますが、彼女から見て俺がそうなのか分かりません。俺はたまたま綾香さんを助けただけで、彼女はその状況に恋してるだけかもしれれない。魔法はいつか解けます」
「ずっと解けないかもしれないじゃない」
なるほど。目の前には体現者。説得力がある。
「ああ。それは、とても良いですね。本当に素晴らしいと思います。でも、確信がないんです。確実でなければいけない」
そうでなければ。生まれてくる子供が可哀想だ。……うん?
「そんなに気にしなくても、綾香はずっと正吾君の事を好きだと思うわよ?ちなみに、正吾君が結婚相手に求める条件って何かしら。興味あるわぁ」
おさらい。俺の要求事項。①顔、②家事能力、③根性。かいつまんで説明。
「……しっかりしてるわねぇ。私、そんな事考えたことないわぁ。でもアレね。正吾君の希望って、自分のためってよりも、子供のためって感じがする。とても良い旦那さんになりそう」
……子供の、ため?言われて気付く。そうか。そうかもしれない。美人な母親。料理ができる母親。ちゃんと、育児ができる母親……。
物事には理由がある。俺がそれらを求める本当の理由。大切な何かが抜け落ちているような違和感。……頭が痛い。ダメだ。分からない。吐き気がする。
「ただ、私から一つお願いがあるとすればね?正吾君には、綾香のことを本当に好きになってもらいたいの。それが一番、大事な事よ」
「……善処します」
さすが母親。見抜かれてる。いや、綾香ちゃんだって気付いてるかもしれない。
相手を本気で好きになる。それが大事。多分そうなんだろうとは思う。でも俺にはそれが難しい。
「正吾!集中しろー!死ぬでー!」
「俺は……。俺は、死なない!」
一回死んでるけど。
しゅんちゃん……。彼を見ると、何故こんなにも胸が温かくなるのか。一方でどうしようもなく泣きたくなる。
「ただいまー!正吾君!今日はどこに行きますか!」
綾香ちゃんが帰ってくる。
「ちょっと待って。もう少しでクリアできるから。綾香ちゃんは出掛ける前にシャワーでも浴びてください」
「……!?私、臭いますか!?」
「そんな事はないけど、浴びた方がもっと良い匂いになるよ」
「は、はい!すぐに入ってきます!」
ドタドタドタ!綾香ちゃんがお風呂に直行する。
「貴方達、まだチョメチョメしてないんでしょ?お邪魔だったら俊太と外へ行くわよ?」
綾香ちゃんママが小声で提案してくる。チョメチョメって。っていうかそんな事を奨励するんじゃないよ。
「うーん。とても魅力的な提案ですが、まだ早くないですかね」
「そんなことないわよ。私の初体験は丁度今の綾香くらいの時よ?」
ただのビッチなんだよなぁ。
「ちなみにお相手は?」
「もちろん、パパよ。私の魔法が解けないのは、定期的に掛け直されてるからかもしれないわね」
なるほど。一理あるかもしれないが、マジでくそみたいな魔法だな!
「今度、パパさんの休みの日に、綾香さんとしゅんちゃん連れて出掛けましょうか?」
「本当!?それ、とても助かるわ!さすがに多感な年頃の娘には頼めないもの。早速だけど、今週頼んでも良い?楽しみ!」
いや、俺も多感な年頃なんですけど。体的には。
「了解しました」
そうして俺は綾香ちゃん家の夫婦円満に一役買うのであった。
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