第11話 俺の彼女、行動力SSS

 やべぇ。やべぇわ。綾香ちゃんマジぱねぇわ。何がって?


「正吾君、おはよう!一緒に学校行きましょう!」


「……」


 休み明けの月曜日、何故か綾香ちゃんが家を出てすぐの所にいる。色々ツッコミたい。君の家、俺の家と方向違くない?とか、どうやって俺の家の住所調べたの?とか、俺が早く登校するタイプだったらどうするつもりだったの?とか。朝からテンション高けぇし。我慢するなって言ったのは俺だけど何事にも限度があると思う。

 だが俺も伊達に長生きしてはいない。この程度で俺の動揺を誘う事はできないぜ。


「ごめん、朝があんまり得意じゃなくてね。俺も綾香ちゃんを迎えに行きたかったんだけど起きられなかったんだ。重いだろう?カバン持つよ」


 さぁ、どうだ?


「は、はい!カバンお願いします好きです!」


 通算三回目の告白。待てよ。彼女は他県出身だし、もしかしたらそこでは挨拶代わりに好きだなんだと言うのが習慣なのかも知れない。欧米か。


「あ、あと、お弁当も作ってきました!」


 あれ?今日運動会だっけ?うちの中学校、お昼は給食なんだけど……。いや、彼女は他県から来てるから文化の違いなのかも知れない。って、先週普通に給食食べてたやないかーい。……なんだ?俺は何を試されてるんだ?やはり地雷なのか?


「……なるほど。ちなみにメニューは?」


「小さいおにぎり一個で、中身はご飯ですよです!」


 何で作ってきたのかは良く分からないけど、普通に旨そう。


「学校で食べるのもアレだから、それじゃあ、今頂こうかな。出してもらって良い?」


「駄目です」


 ねぇねぇ、何で急に真顔になるの?


「ええと、一応理由を聞こうか」


「それだと正吾君に食べさせることができません」


 お握りってあんまり食べさせるタイプの食べ物じゃない気がする。


「ええと、それはまたの機会と言うことで。今度家で手料理でも作ってくれ。とにかく、学校ではちょっと目立ち過ぎるから止めよう。そういう些細なことからイジメに発展したりするだろう?」


「正吾君がいるから大丈夫です!」


 無敵か。ただですねぇ、それ、俺と別れた後の事を想定してないですよね。


「でも私は正吾君の言うことに100%賛同するので、ここは大人しく引き下がります!はい、どうぞ!」


 面倒臭いような折れてくれる宣言してるから許容範囲のような。判断が難しい。モグモグ。お握りうまい……。良い米使ってるわ。




 そして二人揃って登校。当然教室へも同時に入る。みんなの目がこちらを向く。あ。綾香ちゃんのカバン持ったままだった。目立つわそりゃ。

 途端にザワザワし始めるが元々遅刻ギリギリだったから俺の着席後すぐに担任が来て一先ず静かになる。ホームルームが終わり授業が始まる。俺は授業をノートに取りながらこっそり読書。バレているような気もするが二回目なのもあって俺の成績は常に学年一桁に入ってるから特に文句も言われない。この世は力こそが全てなのだ。なにそのラスボス感。


「で、土曜日のデート、どうだった?」


 休み時間、彰がニヤニヤしながら話し掛けてくる。綾香ちゃんも周りの女子に囲まれている。同じ事を聞かれているのだろう。


「朝、見てただろ?晴れて彼氏彼女だよ」


「流石に早過ぎない!?おまっ!今日からお前の二つ名は閃光の正吾ウェイだな」


 語呂悪っ!


「彰、小説とか読むんだっけ?」


「いや、ゲームから。最近Gジェネにハマってる」


「なるほど。良いよね、ガンダム。して、その意図する所は?」


「閃光については言うまでもないだろうが手の速さだ。後は、そのリア充っぷりがウェイって感じだし、次々と女の子を乗り換える羨ま……、反社会的なリア充は早く死ぬべきだという意味も込めてる」


 マジで?そんな理由で、俺、最後は処刑されちゃうの?


「いや、浮わついた気持ちとかは別にないんだ。俺はいつも真剣だ。本気で自分と相手の未来について吟味して、結論を出してる」


「冗談だよ。正吾がマジなのは知ってるし」


 まぁ俺も冗談なのは分かってるし、彰から俺への苦言については多少はしょうがないとも思っていた。何せ香苗と付き合いだした時に俺は彰が香苗の事を良く思っている事を知っていたのだ。

 授業間の休み時間は短いからすぐに次の授業の教師がやって来て話はそこで終わる。その後も休み時間の度に綾香ちゃんとのデートについて話しつつ、俺も彰が香苗と上手くやってるか聞いたりした。今のところ楽しくやっているようで良かった。


 学校も部活も終わり下校しようとすると校門の前に人影が。デジャブかな?


「正吾君、お疲れ様です!それじゃあ、私の家に行きましょうか?」


 何がそれじゃあなのか……。


「ずっと待っててくれたの?」


「はい!私、まだ部活入ってませんので!あ、途中まで図書館で時間潰してたのでご心配なさらず!それじゃあ、私の家に行きましょうか!」


 大事なことなので二回言ったのかも知れない。NPCかな?


「ああ、今度家で手料理をって話?いや、流石に迷惑じゃない?もう夕飯作っちゃってるでしょ?綾香ちゃんの親も知らないだろうし」


 うちだって夕飯作ってるだろう。いや、今すぐ連絡すれば間に合うか。作ってたとしても食べ盛りの兄弟が二人いるから問題ないっちゃない。


「じゃじゃじゃーん!日曜日に携帯買ってもらったのでした!親には既に連絡済みです!帰りは送ってくれます!そうだ!アドレス交換しましょう!」


 フットワーク軽過ぎ問題勃発。え。これ、マジで行く流れなんすか?まぁ彼女の手料理を食べたいと思ってたのは本当だし遅かれ早かれだから良いか。


「……了解。俺も一応親に連絡入れるからちょっと待ってて。……ああ、俺俺、今日彼女の家で夕飯食べてくるからいらない。ああ、うん。よろしく言っとくから。はいはい」


 今までにも何回か付き合っている女の子の家にはお邪魔してるしその度に俺はちゃんと親に報告してるから母親も慣れたものだ。


「さて、アドレス交換ね。赤外線付いてるヤツ?」


「ええと、良く分からないです……」


「ちょっと貸して…………。はい、交換完了っと。じゃあ、綾香ちゃん家に行こうか。ちなみにメニューは?」


「……」


 何故かフリーズする綾香ちゃん。この頃のPCって何するにも重かったよね。


「どしたの?」


「いえ、あの、私、男の人と付き合うの始めてで、しかも相手が正吾君だから、凄い舞い上がってて。自分でも変なことしてるなって分かってるんです。でも正吾君は冷静で、全部受け入れてくれて、それが、凄く嬉しいんです。優しく包まれてるみたい。あなたの事が、どんどん好きになってる……」


 それはただの年の功だよ。年齢の差がなせる技だとも言える。誰だって子供の願いはできるだけ叶えたいと思うだろう。俺は、自分の気持ちに素直に行動できる君が羨ましいよ。輝いて見える。


「綾香ちゃんの行動からは愛を感じるからね。俺も君が好きだから、そりゃ受け入れるよ。可愛い彼女の、可愛いワガママだ」


「はい!私も大好きですっ!」


 そうして俺達は仲良く手を繋いで彼女の家へ向かう。ルンルンだ。



 先程の俺の言葉に一切の嘘はない。

 ……だが一方で。俺の行動は打算に溢れている。彼女の行動を受け入れるのは、そうしなければ相手の本性が見えないからだ。



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