管理人さんの二週間


 私、柏柳美来の朝は早い。朝5時前に起きては歯磨きを済ませて身なりを整える。それが終わったらアパートの付近をたまに掃除して、朝ごはんを作り始める。


 そして朝ごはんを食べ終わったら学校に行く。……たまにサボるときはあるけど。学校が終われば部活動をやっていないのですぐに家に帰るか、もしくは絵を描いて時間を潰す。夜になれば晩御飯を作って、10時ぐらいには布団の中に入る。


 そんな生活を、私は高校生になってから一年間程してきた。母がいない日々は少し寂しかったけど、元々母は帰りが遅かったからすぐに慣れてしまった。


 でも、高校二年生になって……泰さんが越してきた時に、私の日々は変わったと思う。泰さんはちょっとだらしないところもあるけど、とっても優しくて思いやりのある人で……素敵な人だ。


 一緒にいると楽しくて……頼りになって……私には勿体無いぐらい、いい日々を送れている。


 「……あ、そっか」


 だから、今日から二週間泰さんがいないにも関わらず、つい朝ごはんを泰さんの分まで作ってしまった。作り終えてからいないことに気づいたから、残りは明日の分にとっておくことにした。


 「……今頃どうしてるかな、泰さん」


 久しぶりに朝ごはんを一人で食べながら、ぼんやりと私はそう思う。……きっと今頃楽しくやってるに違いない、だから私も楽しく過ごそうと決めて、今日は絵を描くことにした。


 泰さんといるより、一人でいる方が長かったんだもの。きっと我慢できるよね。


 数日後


 「……わあ」


 今日は私の好きな画家さんの個展を見にきた。やっぱり素敵な絵を描く人で、私は思わず見とれてしまう。


 あ、これとか泰さん好きそう。


 「……あ」


 ふと泰さんのことを考えてしまった。……最近ずっとそうだ。ことある事に泰さんと絡めてしまう。しばらくいないから会うことも喋ることもできないのに……どうして?


 「……はあ」


 帰り道、ついため息をついてしまった。楽しかった。素敵な絵も観れた。帰りに美味しいパフェも食べた。なのにどこか満たされなかったから。ぽっかり何かが私の中から欠けていて……。


 「……やっぱり、一緒に行きたかったな」


 その原因はわかってる。目を逸らそうとしても誤魔化せない。私は泰さんと一緒に絵を観に行きたかったんだもん。一人で観に行ったって満足できるわけがなかったんだ。


 数日後。


 「……!」


 自分でも恐ろしいことが起こった。私は無意識に泰さんの似顔絵を描いたノートを取り出して、眺めてしまったのだ。こんなことしたってなんの意味もないことわかってるのに……私のばか。


 「どうして、こんなに会えなくて寂しいのかな」


 もしかしたら何か原因があるのかもしれないと思って、私はスマホで【会えなくて寂しい】と検索をかける。すると……


 「か、彼氏!?」


 出てきたのはどれも【彼氏と会えなくて寂しい】と言う項目ばかり。わ、私と泰さんはそんな間柄じゃないのに……。泰さんは素敵な人だから、モテそうだし……私なんか……。


 「……でも」


 そう思ってても、結局自分に本音は隠せない。


 「そっか……好きだから、寂しいんだよね」


 部屋の隅で体育座りをしながら、真っ赤になった顔を下に向けて……私は小さくそう呟く。


 だって私は一年間ずっと一人だった。泰さんと出会ってからこれまでの期間よりずっと長い間。なのに二週間の短い期間に会えないだけで、こんなにも胸が苦しくなるのは……


 きっと恋なんだろう。今まで恋をしたことのない私でも分かる。


 「……じゃああの夢は」


 それに気づいた時、泰さんの部屋で寝かせてもらった時に観た夢を思い出す。私が泰さんに対して好きと言ったあの夢の中の私は……私自身だったんだ。


 「……!」


 ボッボッと沸騰するみたいに顔が熱くて目が回りそうになる。もし寝言で呟いてたと思うと……つい。


 「落ち着こう私」


 頰をペチンと叩いて、私は落ち着こうとする。……でも。


 「……ダメだ」


 今日の私はとことんダメだ。何をするにも気力が足りない。ああ、これじゃあ泰さんのこと言えないな……。


 「……早く会いたいよ……泰さん」


 私は体育座りをしながら、ポロリと涙を流してただただそう願うばかりだった。


  ――――――――――――


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