第178話 初公開 オハナダンジョン村 武器・防具屋編
アイテムの補充を終え、最後に僕たちはその品揃えが気になったので一応武器・防具屋へとやって来ていた。
どうせクセが凄い人が店主をしていたり、商品のクセが凄かったりするんだろう、此処まで来たら見ずに先に行くという選択肢はない。
毒を食らわば皿まで、最悪何も買わなければ良いだけなんだ。
「此処が武器と防具を扱うお店になります。購入した武器は村を出るまでは装備できませんので注意してください」
店に入る前にサーチェちゃんからの注意が入った。
なるほど戦闘禁止エリアならではの諸注意だね。
『戦闘禁止』なのだから装備の入れ替えなんて必要無いだろうって事なのかな?
皆がそれに納得してヒトヨリさんがお店の扉を開けようとすると――――――。
「待ってください!!」
サーチェちゃんから大声で止められてしまった。
すぐに彼女はお店の扉の前に移動すると、間に合った事に心底安堵したように大きく息を吐いてから、
「不用意に開けないでください、下手をすると死んでしまう可能性があるので………」
………此処戦闘禁止エリアだよね?
どうして下手すると死ぬ危険性が村の中に転がってるのかな?
僕たちが説明を要求する視線を彼女に浴びせていると、
「えぇっと………オハナ様の眷属様の御一人が度々此処を襲撃――――――じゃなくて、略奪――――――でもなくて、来店………?しておりまして此処の店主さんが少しナーバスになってしまっているんです」
あぁ………アレはオハナ眷属の中でもかなり質が悪くて有名だからなぁ。
それだけですぐに事情は察せられた。それにしてもオハナは主だろうにその御膝下で略奪を働くなんて、やっぱりオハナ眷属はどうかしてる。
来店って言うのもかなり躊躇ってたし、しかも疑問形だったし、ホント狂ってる。
「………戦闘禁止エリアでも犯罪行為をする者に対しては村人の権限で攻撃できますけど、7号様は早過ぎますので店の扉が開いた瞬間を狙うようにしているんだそうです」
「それはまだ犯罪行為は起こってないのでは………?」
思わず零れ出てしまった疑問には、
「オハナ様から特別に7号様に対しては「全て許す!!」と許可を戴いておりますので、攻撃しても戦闘禁止には抵触しないんです」
困り顔でそう言った彼女は一息吐いて店の扉をノックすると、
「………………合言葉は?」
「オハナ様は神様です」
「………入れ」
………合言葉もトチ狂ってる。
扉を開け中に入ると、店主らしき若い男が此方に向けて槍を構えていた。
「パーズさんお久しぶりです」
「村長さんか、其方は?」
「安心してください、この村を初めて訪れてくださったお客様ですよ」
「客………?」
そう言うとパーズさんは槍を床に落として、ゆっくりと涙を流し始めた。
「客………客かぁ………そうだよな、そういう存在が居たよな。此処は『店』なんだもんな」
どうやら相当襲撃されてきたらしいというのは想像していたけど、それが『客』という概念すら忘れるほどだったとは思わなかったよ。
きっと店を守るために奮闘してきたのだろう、その苦労が垣間見えてしまって何も買わないで店を出るのが憚られてしまう。
何かあるだろうとは思っていたけど、この変化球は予測不可能だったっ!!
「俺が創り上げた自慢の武器・防具を見て行ってくれっ!!」
そう言いながらも店主さんの手には黒く禍々しい意匠の大剣が握られ、それを見てくれとばかりに此方に差し出されていた。
「………コレは?」
空気を読んだヒトヨリさんが尋ねると店主さんは表情を輝かせて、
「コレっ!!これは『暗黒炎神剣』です!!オハナ様の部下であるカナきち様と共同開発した一品ですっ!!」
………もうこの初めての客に対して、笑顔を爆発させながら一生懸命説明しようとしてくる感じ――――――泣けてくるね。
でもどうして剣なのに引き金が付いてるのかな!?
「その引き金は何なの………?」
仲間の一人から出た質問に店主の輝きが一層増し、鼻息荒く迫ってくる。
「これはですねっ!!引き金を引くと剣自体に暗黒の炎を纏わせることが出来て、通常攻撃が火属性になります!!あとオハナ様に特効効果があります!!」
さっきのアイテム屋と言い、どうしてダンジョンマスターであるオハナへの特攻効果がある品が普通に売られてるんだろう?
もしかしてオハナは嫌われているのか………?
いや部下のカナきちと共同開発で作ったと言っていた、という事はオハナは少なくとも部下であるプレイヤー二人から下剋上を狙われている………?
その時だった。
店の扉が大きく音を立てて開き、そこにはオハナ眷属らしき一匹が「よっ!」とでも言っているかのような気さくな感じで手を上げていた。
「テメェ!今は接客中だ殺すぞ!!」
店主は槍を構え――――――全力で突き刺そうとしているが当たらない、完全に見切られている動きだった。
店主さんは増々ヒートアップして顔が真っ赤になっていく、
「キエェェェェェェェアッ!!!!!!死ねぇぇぇっ!!!!!!!」
………蛮族かな?
オハナ眷属は手近に置かれていた剣を素早く手に取ると、すぐさま店の外に飛び出していった。
「待ちやがりゃあぁぁぁぁぁっ!!!!!置いてけぇぇぇっ!!!!!」
――――――それは首かな?それとも商品かな?
店主さんの鬼気迫る様子に僕たちは呆然としてしまって誰も動けなかった。
オハナ眷属を追いかけて槍をぶん回して追いかけていく店主さん、ハッとした様子でそれを慌てて追いかけるサーチェちゃんに続くようにして店の外に出ると、
「嗚呼………オハナ様、ありがとうございますっ!!ありがとうございますぅっ!!」
店主さんが天に祈りを捧げていた。
その傍らにはあのイカれたオハナ眷属が持ち去った剣が落ちていて、何故か地面には穴が空いていた。
「やはりクロード様が言うように貴女様は神だっ!!」
あのトチ狂った合言葉は店主さんが決めたものだったのか………。
だけど「店主さんあの眷属を放置してるのもまたオハナなんだよね?」なんて――――――あの曇りなき眼を前にそんな事は言えやしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます