第170話 2号、飽きる

扉の前から動く気配のないオハナ眷属、どうやら先手は此方に譲ってくれるようだ。

それならばこっちがまず考えなければいけないのは、その最初の一手でどれだけ此方に優位な状況に傾けられるかだ。

攻撃魔法全般が弱点という大きなハンデがあっても、高いHPによってある程度耐えられてしまい全滅するプレイヤーも多いらしい。

物理攻撃はほぼ通らないと思っておいた方が良い、不用意に近付けば狩られるのは此方だ。


「使える人は攻撃魔法を主体に――――――!!MPを温存して勝てるような相手じゃない!!最初から全力でお願いします!!魔法が使えない人たちは撹乱・防御、あと隙を見て魔法攻撃アイテムを――――――!!」


僕の声に心地良いほどの大きな返事が聞こえてきてちょっと笑ってしまった。


心強いな………だからこそ、此処で勝たないと!!


向こうの扉は開いている。

けれど簡単に通らせてくれる筈が無いのは判りきっている。

それなら最初から此処に居る皆でオハナ眷属を退けておいた方が、あとから合流してくるはずの味方プレイヤーが楽に通れるはずだ。

言葉にはしないけど皆も同じ考えなんだろう、一人も抜け駆けしようなんて人が出なかったのは幸いだった。















………2号は飽きていた。

自身の弱点である魔法攻撃、そこを突いてくる相手の定石通りの戦い方に。

それが悪いと言うつもりは毛頭ない、2号も敵の弱みが分かっているのならそこを躊躇いも容赦もなく突くだろう。

普通の魔物であればそのように思うことも無かった。

けれど2号はオハナの盾として、そしてダンジョンの難関として長く戦い続けてきた知識と経験があり、今も尚その経験は蓄積され続けている。


だがしかし、こうも相手取った者たちの対応が同じだと………2号は退屈ささえ感じてしまっていた。


離れた位置から此方へ魔法攻撃を仕掛けようとしてくる者たちを見つめ、2号は「またか………」と呆れながら嘆息した。



2号は徐に地面に落ちている石を拾い、強力な魔法攻撃を放とうとして魔力を溜めていた一人のプレイヤー目掛けて全力で投げつけた。


2号の行動を見ていた前衛のプレイヤーが慌てて盾を構えて守ろうとするが、その勢いは殺せずに後ろに庇い守るはずだったプレイヤーごと吹き飛ばされた。


何が起きたのか呆気に取られた相手を見て2号はほくそ笑む。


さあ、次はどうする?此方はしたぞ?



――――――扉を開け放ったのは、2号にとってはどちらでも良かったからだ。


先へ進むために死にもの狂いで通過しようとする者たちを狩るか、それともまだ比較的戦力が整っている間に2号を倒そうと挑んでくる者たちを相手にするか、その程度の違いでしかないのだから。

けれど前者には少しは退屈な戦いに変化が生まれるだろうか?という淡い期待を込めていたのだが、それは見事に打ち砕かれた。


2号が対処しても尚距離を取り魔法攻撃を繰り出そうとしている相手方、変化したのは前衛が2号に向けてわらわらと群がってきた事くらいだろう。

手近に居た一人のプレイヤーを鷲掴みにすると、再び離れた位置で此方を狙う敵に向けて投げつける。

悲鳴を上げ、中には逃げ惑い始める敵の姿に2号は怒りを感じ始めていた。


情けなくも退屈な戦いをこれ以上続けるつもりならば、主の下へなど到底行かせることなど出来はしない。

主にまだ退屈な日々を過ごさせてしまうという罪をまるで理解しておらず、挙句此方が対処しても馬鹿の一つ覚えのように不甲斐ない戦いしかできない敵対者たちに2号は憤り、そして震え始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る