第97話 瞬間 心 折られて

先代魔王の頃より幾多の戦いを経て、勇者の実力もある程度は理解していたつもりだった。

だが、知っていたつもりだった己の慢心なぞ、実際に目で見て、肌で勇者の殺気を感じ取ればそのようなもの一瞬にして吹き飛び、勇者と真の姿となって戦い、勇者の聖剣で最初の一撃を受けた時――――――このまま戦い続けても勝てないと悟った。

そこからはただひたすらにハミルダとトラゴースを出し抜いて、私が助かる方法を模索し続けていた。

幸いにも回復の援護は通りすがりのヒーラー――――――あれは確か闇の聖女とか呼ばれていた者だったか、なかなかに使えるではないか、覚えておこう。




くっ…………またしても失敗か…………。

我ら七牙三人を相手にしてもまだまだ攻勢に出てくる勇者に、私は内心歯噛みした。

先ほどはトラゴースが攻撃に転じた隙に逃げようと試みたのだが、思いの外勇者が反撃に出るのが早く失敗に終わったのだった。

私がこの場から離脱すれば間違いなくこの二人は捕縛されるだろう。

だが魔物側の優位?そんなもの所詮はあの忌々しい植物魔物の小娘によって稼がれたもの、それをこの二人が捕縛されることによって帳消しにはならずとも足を引っ張るくらいしてやらねば我々を勇者の前に置き去りにされた腹の虫が治まらん!!

こうなっては仕方あるまい、リスクはあるが確実に隙が出来るであろう方法をとるか…………。


「ハミルダ、トラゴース聞け、勇者に大技を撃たせる。その時に必ず隙が出来るはずだ、そこを狙うぞ」

「こ、このまま戦闘終了時刻まで粘るのは…………?」

「バカがっ!!貴様は良くともハミルダの精神がそこまで持つと思うのか!?」


トラゴースは観念したようだった。

ハミルダは何も言わないが、反対はしないようだった。

そもそも私もこれ以上勇者と対峙などして居たくはないのだ。

勇者の大技も私に残されている全ての力を注ぎ込めば何とか凌ぎ切ることが出来るであろう、そもそも私はHPが半分残っている状態でそれが一瞬にして失われるような大ダメージを受けた場合、必ずHPが1残るというスキル〖生への飽くなき渇望〗がある。

大技を放った後の勇者もさすがにすぐには動けまい。

そんな時、幸運にもあの植物魔物の小娘が勇往騎士団の者を三人捕縛した旨の天の声が響いて、勇者の動きが完全に止まった。

それを好機と見た私は、植物魔物の小娘がまた戦果を挙げたことへの怒りを力に変え、高らかに勇者に言い放った。


「聞けぃ勇者よ!!我らでは貴様に敵わぬだろう、だが我ら三人の死力を尽くした一撃を喰らうが良い!!」


三人で何やら力を集結させて凄い攻撃をするぞという脅しをかける。

勇者も我らの気迫に圧されたのか、我らと早く決着をつけようとしているのか定かではないが、突撃ではなく身構えて迎え撃つかのように聖剣の力を研ぎ澄ませていくのが解る。

そうだ、それでいい……………あの一撃を耐えきれば私は――――――。


そうして睨み合っていると勇者の背後から魔物の集団がこちらに向かって来ているのが見えた。

何処から現れたというのだ!?そして何故このタイミング――――――!!


止せ!!止めろ!!今こっちに来るんじゃない!!


私の願いも虚しく、その集団に気付いた勇者は躊躇いなく先ほどまで力を溜めていた大技を使い、こちらに来ようとしていた魔物たちを殲滅した。

そして私が偽りで提案した作戦通り、トラゴースとハミルダが襲い掛かる。

此処で何もしないわけにもいかず、私もヤケクソで攻撃に参加するが呆気なく対処され吹き飛ばされる。


こちらが想定していたよりも勇者の行動が早いッ……………。

だが大技の影響かそれ以上の追撃は行われず、その間に闇の聖女によって回復することが出来た。

何か…………何かないか………くっ、このままでは本当に勇者と制限時間まで戦わなければならなくなる。

そう考えを巡らせてみても良い考えなど浮かばず、焦りだけが募っていく。




――――――そんな時だった。

勇者が突然大きく後ろに飛んだかと思えば、そこに弾丸が撃ち込まれる。

勇者が聖剣の力を再び強く放つと今度は――――――。


『弾丸の雨』が降ってきた。


全ての者を射殺さんと降り注ぐ銃弾の雨、初めの間こそ回避をしようとした勇者だったがすぐに間に合わなくなって聖剣の力を放ち、それをバリアのようにして防御に専念し始めた。

しかし動かなくなった獲物をもう二度と逃がさぬとでも言うかのように、弾丸の雨は激しく降り注ぎ、勇者の聖剣の白い輝きさえも見えなくなるほどだった。


何て凄まじい攻撃だ…………魔法で同じようなものはある、だがMPの消費が激しく問題なく放つまでにも時間がかかる。それを物理攻撃で行うには……………大軍団で攻撃するしかない、しかしそれではこうまで一人めがけて攻撃を集中させることなど出来はしない。

大軍団による攻撃に匹敵する火力、そして魔法攻撃のような高い命中精度、その両方を兼ね備えた攻撃に戦慄を覚えた。

勇者という理不尽を封じ込めたのもまた理不尽な攻撃だった。

そんな理不尽を叩きこむことが出来る存在など私は知らない…………。


ふと横目にこの状況を歓喜しながら見守る魔物が居た。

それは闇の聖女を守るかのように傍に居た植物型の魔物、あの忌々しい小娘の眷属だった。

まさかこの攻撃はあの小娘が――――――……?


逃げ出したのではなく、この攻撃を撃ち込むための時間稼ぎに我々を利用したというのかッ!!

我ら〖七牙〗の三人を、否。何よりこの私をッ!!

利用したというのかッ!!小娘ぇッ!!

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