第93話 勇者とオハナの邂逅

平原地帯は正面から大規模な武力衝突が起こり、戦場は激化の一途を辿っていた。

何としてでもイベント後に行われる〖捕虜交換〗で自分たちが確実に被る不利な条件を緩和させたい勇者勢力、それを許すまいと奮戦する魔王勢力、他の森林地帯、山岳地帯でも最終日に相応しい激戦が繰り広げられている。


平原地帯で一番大きな衝突が起こっている主戦場、それを遠目に眺めながら勇者ローウィンは憤りを感じていた。

彼は〖聖剣グランシャリタ〗に選ばれ勇者となった。

その時は本当に誇らしかった。

〖勇者〗という責任が重く圧し掛かってきても、これで人々の平和を守ることが出来ると希望に目を輝かせ、その重圧さえも強くなるための糧として進んでいこうと誓った。

しかし彼は〖勇者〗である以前に〖王子〗でもあった。

聖剣が〖あらゆる魔物に対して特効〗という効果があったとしても、王族を魔王退治の危険な旅へと行かせられるはずもなく、専ら彼の〖勇者〗としての活動範囲は彼の住む王都周辺地域に限られていて、それも護衛の騎士団が最低3つは付いてくるという「修業とは?」というものだった。

近場ですらそんな状態なのに、激戦区へ行くなど当然許しが出るはずもなかった。

だから彼は今もこうして後方に控え、今自分たちが置かれている状況と前線の戦いを見て憤っているのだ。


「焦る気持ちは解るが――――――」

「わかってる。けれど到底納得できそうもないよ」


グラシュが見るからに焦れているローウィンを宥めようと声をかけたが、今の彼にはそれすら煩わしさを感じてしまうほどだった。

全ての魔物に対して優位に立てるである〖勇者〗、それを温存し続けた結果が招いたのが今のこの戦況であり、そんな状況に陥っておきながら未だローウィンに出撃命令もないのだから、グラシュも笑えないしローウィンが憤るのも無理もない。

今すぐに獣のように飛び出して魔物を撃滅したい、そんな衝動をローウィンは勇者と王子という立場で培った理性を総動員して紙一重で耐えていた。


「〖勇往騎士団〗十五人の内、五人が二日目っつー序盤で敵の捕虜にされちまったのが痛手だったな」


グラシュは最早勇者側では〖二日目の悲劇〗として語られるその時を思い出す。

グラシュ自身も戦場にて聞こえてきた天の声の言葉を信じることが出来なかった。


たった一匹の魔物に。〖勇往騎士団〗の五人が敗れたのだから。


そしてその相手が単独で砦を陥落させた魔物、オハナだという事にもグラシュは驚いていた。

グラシュでさえそうなのだから、その事実は国家の運営を担う者たちにとっては激震に近かった。

だからこそ自分たちの身の安全の為に、『切り札』を傍に置いておこうという事で軍議は満場一致だった。

ローウィンは未だにこの結果にも不服なのは言うまでもない。


「まさかオハナという魔物がそれほどの力を持っているとは――――――」


少しでもローウィンの気を紛らわそうと話している最中、ふと視線を移動させた先でグラシュは言葉を失った。


――――――魔物が居たのである。

その魔物は下級の植物型で何故か勇者側の兵士の兜を被っていた。

グラシュの視線に気が付くと、「よっ!」と気軽に挨拶でもするかのようにシュビッと片手を挙げた。

憤りを抑え込むために地面を凝視しているローウィンは気付かない。

呆気に取られたグラシュは呆然としながらも片手を挙げて応えると、魔物は満足したのかテケテケと人ごみに紛れて姿を消した。

まだ呆気に取られていたグラシュはそれを見送ってから暫くして、


「お前らぁ!!?何やってる!!!!?魔物が此処まで来てたぞぉ!!!!!!?」


呆気に取られていた自分を棚上げして、あれに気付かずに此処まで接近を許した周囲の者たちを𠮟責した。

グラシュは部下たちと共に捜索するも完全に逃げられたことに対して、腑抜けていた己に喝を入れ、部下たちにも檄を飛ばし気を引き締める。

暫くして主戦場の外れから突如魔物が出現した。

現れたのはストーンゴーレムと中位の植物型の魔物だった。

完全に側面をつかれたこと、種族が違うというのに妙に連携が取れている事と、中位の植物型魔物が放った眷属によって被害が膨れ上がった。

側面から現れた魔物たちは真っ直ぐこちらに向かってきているらしい、その報告を聞いてグラシュは先ほどの下級の植物型魔物がこちらの位置を探る偵察目的だったのだと理解して舌打ちした。


「魔物風情が小賢しいマネをッ!!」


グラシュが迎撃に出ようとするより速く、ローウィンが聖剣を携え弾丸のように飛び出して行った。

そのグランシャリタの白き輝きを纏うローウィンは憤怒を爆発させて、とうとう我慢の限界を迎えたのだとグラシュは悟ると、


「俺たちも行くぞ!!勇者ローウィンに続けぇ!!」


己が仕える主の背に頼もしさを感じつつ、号令と共に駆け出したのだった。





--------------





一旦種に戻ってもらっていた(殺さなくても戻せるって最近知った)2号と4号を主戦場に向けて放ち先行してもらった。

それにしてももう植物成分が一切無い2号が種から生まれる不思議、出てくるときは芽が出るとかじゃなくてモン〇ターボールから飛び出てくる感じに似てる。

ここにきてポケ〇ン?まぁ今更なんだけどねぇ?


4号と4号眷属たちがオハナたちの進路を確保してくれる。

2号も周囲の敵を一手に引き受けてくれている。

それに――――――。


「だらぁあぁぁっ!!!!!!!」

「やぁぁぁぁっ!!!!!」


拳をふるうアウグスタと、杖をフルスイングするプリムさんがもう頼もしいのなんの、敵を確実に排除してくれるのでオハナも他の箇所に集中できる。

そうして進んだ先で、突然白い光に飲み込まれた4号眷属たちの反応が一瞬にして消し飛ぶ。

雷鋼やホタルちゃんので見慣れてきたからもうビーム程度じゃ驚きませんよ。

そしてその二人が撃てるくらいだもの、当然撃てると思ってましたよ勇者さん?


オハナの視線の先で、白く輝く剣を構える勇者がそこに居た。

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