05 流れ星

 身体の前の部分に、暖かい感触。


 小刻みの揺れ。


「あ、起きたかな。おはよう?」


「おはようございます」


 彼女に、おんぶされている。


「なんか、はずかしいな」


「そう?」


 背負われてしまっている。


「あったかいよ。背中の、下のほうまで」


「うわちょっ。わっ。離れますっ」


「だめです。離しません」


 背中に回った手が、しっかりと私の身体をホールドしている。離れられない。


「あとちょっとだから。もうすこし寝る?」


 寝ようがない。彼女の暖かさが、背中を通して。伝わってくる。


「はい。着きましたっ」


「ここは」


 自分の住んでる、タワーマンションの屋上。


 あの夢の草原とは、似ても似つかない。


「ここはむかし、草原でした。それが再開発されて、小さめの都市になってます」


「私の住んでる、街が?」


「身体の記憶というのは、無意識の領域と繋がってるの。あなたは、無意識に、この場所を選んだ。わたしといた、あの夢と同じ場所を。わたしも同じ」


「星は、見えないですね」


 街の灯り。夜の空にきらめいている。


「はい。だから、今から灯りを消します」


「え」


「内閣情報担当室付秘書官の権限です。だあれも逆らえません。はいスイッチオフ」


 街の灯り。


 一斉に。


 消える。


 少しして。


 星空。


 浮かび上がる。


 空一面に。


 あの日の。


 星空。


 流れ星。


「あの日と、同じ」


 風。


 身体。


 優しく。


 ぶつかってくる。


「逢いたかった。あなたに。もういちど。大好き」


「私も、逢いたかったです」


「大好き?」


「ちょっと、現実が飲み込めてないです。夢だったらどうしよう」


「夢でもいいの。あなたの気持ちを、聞かせて?」


「好きです。大好きです。しかも、こんなに綺麗になって。なんか、もう、はずかしいな」


「やったっ。わたしも。大好きっ。もう離さないっ」


 彼女のことを抱き留める。


 あの夢のように。


 もういちど。

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