日々をすり減らす君へ
kuhei
第1話 すり減らして
「お客さんへメールを送る時ももっと言葉遣いとか、枕詞とかもっと使った方が相手も気持ちよく返事してくれるんじゃないのかな。」
「すみません。そこまで意識が回っていませんでした。確かに効率重視してほかの企業にも同じ内容を送っていました。。」
「私ならアポイント貰うのであれば、端的に要点などまとめながらも例えばその企業の事業にかかわるニュースとかを冒頭にお伝えして、貴社はどうですかとか聞いてみると思うそうしないと機械的に業務を行っているように見えて、『本当に企業について考えてくれているのかな』って思われてしまう。」
「なるほど。確かにそうですね。効率重視したとしてもご返事が返ってこないかもしれない。それであればしっかりとメールの文章を作ってご返事いただけるように質問を書くってことですね。」
「今回のアポイントはどうだった?」
「全然だめでした。」
「そうか。なんでダメやと感じたん?」
「お客様に持っていたご提案がまずお話できなかったです。以前の担当者の方はそういう方ではなかったのですが、今回当日の担当者がお話の勢いがすごくて、何も話せなかった。ただパンフレットをお渡しするだけになってしまいました。」
「じゃぁ次どうする?どう考える?」
「次は、人の性格に左右されないようにヒアリングシートを持っていこうと思います。」
「それでうまくいくイメージある?」
「それは…」
「‥‥それもいいと思う。ただイメージが持ててなかったら、たぶんうまくいかない方が多いから、それなら先に別担当者にその担当者が何に困っているのかとかお伺いしておいて、そのうえでご提案の準備を先にしておくとか、そういうのはどうだろう。」
「1週間振り返ってどうだった。」
「‥‥1件ご契約をいただけました。1か月前からずっとお話させていただいていた方だったんですが、その方からやっとご契約いただけました。」
「よかったやん!それで今回は何がうまくいったの?」
「何がうまくいったか‥‥。」
「これまで話していたことでご契約いただけたってことは、何か君が課題解決の方法を提示してくれているってお客さんが感じたからじゃないのかな。だから今回はどんな風に課題を引き出して、解決策までどのように提示したんだろう。一つ一つ教えてほしい。」
「はい…・。」
「今月はまだノルマ達成していないし、やはり売り上げを上げないと君自身がどんどんつらくなっていくから、早く実力を付けていこう。そのために、やってきたことを振り返って何がうまくいったのか。どうしたらうまくいくのか一緒に考えよう。」
「了解しました。」
メールにて全体発信。
○○君、ヨミ表の記入が終わっておりません。至急、記入のほどよろしくお願いします。
「今月のヨミ、まだ表に記入されてないよ。記入の期限おとといまでだけれど。」
「すみません。」
「先月も書いていなかったから、そこはしっかりと記入しよう。今期はチーム全体が厳しいんだから、みんなで報告しあって助け合っていかないと。」
「先輩大丈夫です。○○の分まで俺が売り上げ上げるので。」
「そうか。ありがとう。これぞチームだな。」
「迷惑かけて申し訳ない。」
「いいよ。けれど頑張ろうぜ。仕事の一つ一つこだわらないとやっぱり信頼も何も生まれないからな。」
フロアの扉を開ける。すると部屋は真っ暗でもう誰もいなかった。今日のご契約内容見直してからすぐにでも帰ろう。
中に入るとクラッカーが鳴った。暗闇からどこからともなく7~8人ほどが出てきた。
「誕生日おめでとう!!」
「ほら。さぁこっち」
個人用のブースではなく会議室の方へ案内される。会議机の上には5本ほどの火が付いたろうそくとケーキが置かれていた。さっと火を消す。
いつも誕生日などを企画してくれる女性が手早くケーキを切り、分けていった。
「おいしいね。これどこで買ったの?」
「少し遠いんだけれど、大通りに面した一角にあるケーキ屋さん。お店自体は狭いんだけれど…」
こんな話をしているけれど、たぶん常に仕事のことを考えているんだろう。表情などがぎこちない笑みを浮かべていた。そのほかの人たちも食べながら、会話を楽しんでいるように見えた。
「おいしかった。ありがとう」
「いえいえ。」
そういって部屋を後にした。
まだみんなは会議室に残り話をしながらケーキを食べている。僕は暗い部屋の中、パソコンを立ち上げた。パソコンが起動しているのか前がぼやけて見えなかった。僕はとっさにトイレに駆け込んだ。
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