八月二十四日、日曜日、午前九時。

 僕は能登空港の出発ロビーにいた。世間も夏休みである。東京から能登へ来て、これから帰ると思しき親子連れが目立つ。出発ロビーとその外を隔てるガラス越しに、孫とお年寄りが別れを惜しんでいる風景が僕を和ませる。

 一方、僕は、これから旅に出ようとしている。一人で。こんな気持ちは久しぶりだ。高揚感と不安感、落ち着きのなさと冷静。混沌の中を空気のように漂っていた。

 午前十一時四十五分。飛行機は予定通りに羽田空港に到着した。以前飛行機に乗るときなどは、不安でいっぱいだったものが、今では何事もなく飛び、何事もなく着陸して当たり前だと思っている。不思議なものだ。

 この日は東京に一泊する予定だ。東京も久しぶりのことで、いろいろ楽しもうとは思うのだが、頭の中はインドである。むしろ、慣れてしまった東京のどこが面白いんだ、といった心境である。

 この日に、ある知り合いとお会いした。都内の喫茶店で、何でもない会話をし、旅の抱負を語った。別れ際、インドへのお土産にと「炊き込みこんぶ」をいただいた。なかなか食べる機会がなく、インド国内で何か所か空港を利用するのだが、その荷物検査にて、その「炊き込みこんぶ」が何度か引っかかり、説明に困ったことは秘密である(インド人に「炊き込みこんぶ」を説明するのは難しい)。

 東京のどこが面白いんだ、などと言ったものの、都内ホテルにチェックインをすました後は、東京の街をふらふらと歩いた。ここには数年暮らしたが、不思議と懐かしさは感じなかった。常に新しくなっていく街だからだろうか。

 翌日、午後六時五十分のANA918便で、インドへと発つことになっていた。

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