子供の情景

辻岡しんぺい

プロローグ


 真っ赤に燃え上がった空に彼らは遊んだ。そうするより他になかったのである。

 赤く燃え上がった空はまるで絞りたての絵具のように明(アキラ)の目に張り付いた。

 彼はほうっと一息吐いて無気力に寝転がった。

 空はどこまでも赤々と燃えている。大地は見えうる限り荒涼としていた。

 彼の横には誰もいない。頼もしい大人たちはいなかった。

 そうだ、俺だって大人だ。

 彼がようやっと口に出した言葉は血のような空に吸い込まれていった。

 今頃は八つ岐の怪物が侵略者たちを血祭りにあげているに相違ない。悲鳴のような轟音と、怪物の怒号が世界を揺らした。明はただぼうっと空を見つめていた。

 今となってはもう須佐之男命はいない。天叢雲剣は音を立てて折れた。もうあの怪物を止めるものは誰もいない。今度は怪物の笑い声が世界を揺らした。

 明はゆっくりと体を起こした。遠くの空に怪物が侵略者の乗り物に食らいついている姿が克明に描写されている。怪物は心底笑っている。

 怪物が侵略者の乗り物に鬼灯のような目を向ける。ゆっくりと口を開けると、火炎が咳を切ったように飛び出した。

 侵略者の乗り物はぐるんぐるんと音を立てて落下していく。巨大な鉄の塊は、かつて世界で一番高いと言われていた建物に突っ込んでいった。

 子供の情景がまた一つ燃え上がった。

 そうだ、俺だって大人だ。

 明はぐっと立ち上がって前だけを見て走り出した。

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