人成らざる傾慕(声劇台本集)

台本書ク子

相合い傘(声劇台本 1:1 or 1:1:1)

【役表】

傘1:♂

傘2:♀

持ち主:不問


(持ち主はセリフが少ないので、傘2が兼役でも◯)


【注意事項】

男女逆転、自作発言、この台本を使用した作品の有償公開はお断りしております。


ご了承ください。


アドリブ、アレンジ(一人称改変含め)は内容が変わらぬ程度にお願いしております。


使用報告は任意ですが、してくださると大変ありがたいです。(投稿している場所を明記してくだされば、聞きに行ってしまうかも。ご了承ください)


【コピペ用】(配信テーマなどにどうぞ)

【人成らざる傾慕〜相合い傘〜】 

台本書ク子作

傘1:

傘2:

持ち主:




傘1(N):(咳払い)さて、吾輩は傘である。名前はまだ無い....なんてかっこつけた自己紹介もしてみたいものだが、実際傘なんだから名前があるわけ無いし「まだ」という言い方もおかしいな。なんだか変な出だしになってしまったが、僕は兎にも角にも傘なのである。


傘1(N):まぁそんなわけで、今回は僕の少しだけ特別な体験談をお話しして差し上げよう。あれは、雨が強いある夜の話だった。



持ち主:やべ、残業終えてやっと最寄り駅まで辿り着いたと思ったらこの雨かよ。全く.....傘持ってきてて良かった。


傘1:今日はやけに雨が強いですね、主人。これじゃいよいよ折れちゃいそうだ......僕の扱いには気をつけてくださいよ?僕、ワンタッチ式だし結構近代的かと思いきやこう見えてもビニール製なんですから。


持ち主:早く帰らないと........ヒィー寒い。鞄が濡れちゃうな.....


傘1:そうはさせませんよ。ちょっと大きめのこの体に、守れない物はありません。貴方も、その大事なお鞄も守って見せますよ。


持ち主:嗚呼.....どうしよう。夜ご飯何も食べてないや.....コンビニに寄って行こう。


傘1(N):主人は、疲れた様子で僕を開いた。バサァという大きな音とともに僕の仕事は始まる。お疲れの主人を守らなきゃ!あの時の僕の頭にはそれしかなかった。


持ち主:うぅ....!?風が!冷っ、早く帰りたいな......


傘1:安心してください、僕が.....


(強い風が吹く)


傘1:お守りしますよ.....っ、んぐぁっ!?痛っ!骨が.....一本折れてしまった.....


持ち主:あ、骨が一本折れちゃった.....まぁまだ使えるから良いか。


傘1:いった.....いたたた、でもこの位ならまだ、少し休めば。そんな事より主人をお守りしないと!


持ち主:どうしよ.....これ、直るかな....?


(持ち主、折れた骨を弄り始める)


傘1:イタタタ!?ちょ、主人!弄らないで....痛ぁ!?


持ち主:こうしたら直るかな....?


傘1:(悲鳴をあげる)


持ち主:うーん、ダメそうだな。まぁいいや、まだ使えるし。


傘1:ハァ、ハァ.....いたた、全く.....酷いじゃ無いですか主人!


持ち主:ハァ、これはもうちょい壊れちゃったら新しい傘買うしか無いかな。


傘1:主人!?そんな怖いこと言わないでくださいよ!こんな命がけでお守りしてるんだか....


持ち主:(遮って)お、やっと着いたぞコンビニ....ふぃー、中あったかそうだな。


傘1:お、おぉ.......それは良かったですね主人....


持ち主:さてと。傘立てに傘を入れて....っと


(持ち主、傘1を乱暴に傘立てに放り込む)


傘1:痛っ!ちょ、主人!そんな乱暴に投げ込まなくても.....って、行っちゃった。


傘2:あの......どうかなさいましたか......?


傘1(N):主人がなかなか僕を乱暴に扱うもので、僕が主人に幻滅しかけていた時。背後から話しかけてきたのは、えんじ色の綺麗な傘だった。


傘1:へ、ぁっ!?あ、僕、ですか....?


傘2:はい、その......なんだか、お困りだった様に見えたので.....


傘1:あ、いえ特に!大丈夫ですよ。大丈夫大丈夫!


傘1(N):彼女は僕と違って手動で開く型式かたしきの傘であったが、ビニール製の僕なんかよりずっと綺麗でずっと大事にされている様だった。


傘2:本当ですか.....?なら良かった。


傘1:あ、はい......


(数秒の沈黙)


傘2:あ、貴方ワンタッチ式なんですね!羨ましい......


傘1:え!?あ、はい.....そう、ですよ.....?


傘2:私、まだ手動式で.....「時代に乗り遅れてるなんて、傘として終わってんな」って言われちゃったんですよ、この間。


傘1:いや、全然そんなことないと思いますよ。僕なんかよりずっと綺麗だし.....


傘2:そ、そうですか!?


傘1:はい。だって、すごい綺麗な赤だし。取っ手が木みたいな模様だし.....ワンタッチ式なんて、逆に似合わない。


傘2:........


傘1:あ、なんか失礼なことを言ってしまいましたか!?


傘2:ふふ......ふふふっ(笑い始める)


傘1:えぇ!?何か可笑しいことありましたか!?


傘2:いえいえ、そういう意味じゃないんですよ。なんだか、面白い人だなぁって.....


傘1:そ、そうですか?人じゃなくて傘だけど....


傘2:たしかに。


(暫く笑い合う2人)


傘1:ってか、そんな失礼なこと誰がいったんですか!そっちの方が傘として終わってますよ....


傘2:この間別のコンビニの傘立てで隣になった傘です。彼、紺色のボディに黒い取っ手、勿論型式はワンタッチ式で.....最新モデルだったんです。一方私は、ご主人様が大事に使われているから結構古くって......


傘1:良いじゃ無いですかあなたの方が!時代に流されるより、僕は愛されてる方が好きだな.....


傘2:ふふ、とっても優しいんですね。


傘1:いえ、当然のことを言った迄ですよ。


傘2:ありがとうございます.....あら?その腕....


傘1:ん?


傘2:骨が、骨が折れてるじゃ無いですか!大丈夫ですか?痛みとかは.....


傘1:いたっ、あまり触らないで.....


傘2:あ、すみません......それより、大丈夫ですか?


傘1:何、こんなの気にするほどでもありませんよ。確かに痛いけど、一本ですしね。僕ら傘にとっては、そんな事より主人を守る方が優先だ......


傘2:.....かっこいい


傘1:......へ?


傘2:かっこいいです!そういうの......尊敬します。


傘1:え、こんなの当たり前.....


傘2:(遮って)当たり前なんかじゃありませんよ!私が今まで出会った傘はみんな、唸ったりしてましたもん.....それなのに貴方は、それでも傘の仕事を全うしようとしている.....


傘1:はは、そうなんですね。だって、貴方みたいな魅力的な傘ならまだしも僕はビニール傘だ。持っていてファッションになるわけでも無いのなら、仕事を全うする以外役目ないじゃ無いですか。


傘2:.......凄い。かっこいい......


傘1:そ、そんなに褒められては照れてしまいますよ.....


傘2:だって、本当ですもん!でも.....人も傘も、案外見た目じゃありませんよ。私だってきっと、お仕事ができなくなったら捨てられちゃう......私は、最新式のかっこいいブランド傘より貴方の方が好き!


傘1:す、好き!?


傘2:あ.....


(気まずい空気が流れる。また数秒の沈黙)


傘1:あ......えっと.....


傘2:べ、別にそういう意味では!


傘1:そ、そうですよね.....ははは......


傘2:でも.....本当に、貴方は素敵な傘ですね....


傘1:ありがとうございます。貴方もとっても素敵ですよ.....?


傘2:そんなそんな!私はそんな......


傘1:あ、えっと.......なんというか、その.....


傘2:なんか......すみません


傘1:いえ.....その、僕......貴方に、一目惚


持ち主:(遮って)ふぃー、よし帰ろう!


傘1:いやこのタイミングでぇ!?


傘2:あ、その.....じゃあ、また会えたら!


傘1:はい!えっと、さようなら!


傘2:お気をつけてー!


傘1(N):さて.....これが僕の初めての恋である。結局あの後、折れた骨はかの有名な瞬間接着剤によって直され、今ではまた普通に仕事ができる様になった。彼女に会うことはもうできないかもしれないけれど、僕は一生、この瞬間を忘れる事はないだろう。でももしまた会えたら.......


(少し間を開け)


傘1:ふぅ、全く......相変わらず主人は僕の扱いが荒いんだから。こんな乱暴に投げ込まなくても......


傘2:あの......

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