第4話 また、ふたり。

いつも母親に聞かされる、俺の出生秘話。

百篇も聞かされたら、もうすでに秘話じゃなくなる。

おまけに

「旦那さんは?」

と聞いてくるおせっかいなどっかの誰かにも、簡単に話す。

「いやー。いつの間にかいなくなってー。気がついたら、代わりにこの子がおなかの中にいてー。参るよね~。堕ろすわけにもいかなくってさー。シングルマザーでもいっかーとか思ってたら、旦那の代わりもできなくてー」

本人は冗談のつもりかもしれない。

笑えない。

アホらしい。

そそくさと人が離れていく様子を3歳から見せられていたら、厭世的小学生が出来上がる。

「いやー。旦那がいないおかげで、面倒なママ友付き合いしなくてすんだわー」

飲み切れない500mlのビール缶を煽り、自分では豪快なつもりの下品な笑い声をあげて、中学生の俺に次のつまみを要求してくる。

老けたな。

疲れてるな。

またなんか言われたのか?

同情はしないけど、料理上手になったのは感謝してる。


行政のシステムとそれなり処世術を駆使して、俺は大学に受かった。

高校?記憶にないな。あるけど、思い出したくない。

普通に学校行って、普通にツレができて、普通に彼女ができて。

母親は荒れた。

「アタシが育てたのに!アンタまで出ていく気なの?!」

そんなわけないだろう。

見捨てられるわけないだろう。

飲み残しのビール缶の中から、まだ飲めるのをいくつか寄せ集めて、少しは料理に。少しは俺の中に。少しは排水管に。

機嫌のいい時には、彼女にまで生い立ちを話してくれる。

機嫌の悪い時は、二人そろって出ていけと喚かれる。

「いいんじゃない?その時はその時。アンタ一人くらい、アタシが育ててあげるわよ」

豪快に笑う、同い年の彼女。

好きだ。

ついてく。

ついでに俺の母親も。


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