撲殺魔女のプレイ日記～魔法使いは攻撃力が命と聞いたのでそれっぽいステータスに全振りしたら、筋力極振りの脳筋魔女になってました～

第98話 弱点部位と大悪魔

「来るよ……！ エレインはぐるっと回りながら弱点部位（ウィークポイント）を探って、ボコミは正面でヘイト稼ぎ、ベルはまず私と下がって様子見！ 《エスケープオーラ》！」

「りょーかい！」

「分かりましたわぁ！」

「わかった！！」

　ココアの指示と敏捷バフを受け、まずはスカイワイバーンと戦った時と同じように散開する。

　大胆にも正面から近付いてくるボコミを最初の標的と見なしたのか、悪魔の瞳が妖しく輝く。

「グオォォォ！！」

　悪魔がまず選んだのは、シンプルな打撃技だった。

　右の拳を握り締め、真正面から思い切り振り下ろす。

　圧倒的な体格差から繰り出されるその一撃は、離れた場所から見ても思わず竦み上がりそうな攻撃だったけど、ボコミは構わず真っ向から盾で受け止める。

「ふんぬぅぅぅぅ！！」

　とても女の子の口から出たとは思えない、気合の雄叫び。

　HP特化のボコミが、あの重装備で受けて尚目に見えてガクンと削られたのを見るに、私が同じのを受けたら即死しそうだ。

「この程度、温いですわぁ！！ 《リベンジャーズブラスター》！！」

　そうして蓄積したダメージを、ボコミはすぐさまスキルとして解放。悪魔へと打ち返す。

　巨体なだけに当てるのに不自由しないその体に、外れることなく直撃したその攻撃は……けれど、ほんのちょびっとしかそのHPを削ることが叶わなかった。

「んなっ、どんだけ頑丈ですの！？」

「グオォ！！」

　さしものボコミも驚きに固まる中、悪魔は続けて左手を掲げた。

　開いた指の間に緑の球体を浮かび上がらせ、目の前にいるボコミを見据える。

「《メディテーションオーラ》！」

　すかさず、ココアちゃんからかけられたMIND上昇の支援魔法。

　ボコミの体をエフェクトが包み込むと同時に、悪魔の左手から無数の光球が連続で乱れ飛ぶ。

　避ける隙間もない雨のような弾幕に囚われたボコミは、そのまま一方的に嬲られていく。

「ぬぅぅぅぅ！！ 魔法攻撃と物理攻撃、両方を併せ持っているのですわね、どちらも高威力で中々厄介ですわ！！」

　ゴリゴリと削れていくHPの中、珍しく漏れるボコミの弱音。

　やっぱり、いくらボコミでもエリアボスの攻撃を真っ向から受け続けるのは厳しいらしい。

「なら、ちょっとはこっちでも引き付けないと、ね！！ 《パワードスロー》、《投擲乱舞》！！」

　そこへすかさず、エレインからの援護射撃。巨大手裏剣と小さな手裏剣がいくつも飛び、悪魔の体を傷付けていく。

　けれど、

「ぜんぜん効いてる気がしないなぁ……！」

　元々攻撃力が低いエレインの攻撃を受けても、悪魔のHPは全く減っている様子がない。

　命中すればダメージエフェクトが散ってるから、全く通じてないわけじゃないと思うんだけど……こいつ、すんごいHPが多い！

「状態異常と弱点部位の発掘は？」

「毒にはなった、他は効果なし。弱点部位はごめん、ダメージ小さすぎて分からない！」

「わかった、ベル！」

「私の出番？」

「うん、危ないけど、出来る？」

「もちろん！」

　エレイン一人の攻撃じゃ、悪魔を怯ませることも出来ない。攻撃パターンを掴みきっていない今、私が不用意に飛び込めば、回避不能な攻撃で死に戻るかもしれない。

　なら、二人で力を合わせるだけ！

「エレイン！」

「待ってました！」

　私のところまで跳んで来たエレインが、私の体を後ろから抱える。

　両手に杖を構え、準備が整ったところで、私は満を持してスキルを使った。

「《エアドライブ》！！」

　周囲を満たす暴風に負けないくらい強い風が巻き起こり、私の体を包み込む。

　ふっと軽くなり、風に持っていかれそうになる体をエレインがぐっと押さえ込んで、そのまま空へ跳び上がった。

「《魔法撃》！ どりゃああああ！！」

　空中で体を捻り、杖を一閃。叩き出された風の砲弾が、悪魔の顔面に叩き付けられる。

　私の全力を込めた一撃だったけど、削れたダメージ量はやっぱり多くない。ボコミのカウンタースキルより少し多い程度？

　倒しきるまでに果たして何度攻撃しなきゃならないのか、考えるだけで億劫になりそうだけど、今の攻撃で悪魔のヘイトがようやくボコミから外れた。

　散々にタコ殴りにされ、いい加減限界が近かったボコミのHPをココアが回復させているのを横目に、私達は悪魔と正面から対峙する。

「ベル、まずは弱点部位探しだよ！ 回避は私が全部やってあげるから、出来るだけ全身色んなところ攻撃して！」

「分かってる！」

　エレインと短く受け答えをしている間にも、悪魔は動く。

　ガパリと口を開け、中に緑色の光がどんどん集まって……って、これやばくない！？

「よいしょお！！」

「グオォォォ！！」

　悪魔が首をもたげ、再びこっちに口を突きつけると同時に放たれたのは、巨大な竜巻。

　翠緑の光を纏う破壊の嵐が、咄嗟に自前のウィングブーツで横に跳んだエレインの横スレスレを通過していく。

　あ、危な……！ 今の、もうちょっとで私達も巻き込まれるところだったよ。

「ベル！」

「うん！ とりゃあ！！」

　でもその代わり、攻撃直後の隙が大きい。大口を開けたまま固まる悪魔の胸板を直撃。でも……ぐう、頭とダメージが変わらない！

「それなら……！！」

　エレインに動きを合わせて貰い、悪魔の回りをぐるぐると飛び回りながら杖を振るう、振るう、振るう。

　肩口、腹、角、首、胸板と、色んな部分を風弾で攻撃してみるんだけど、どこも大してダメージが変わらなかった。

　また頭が弱点だろうと思ったんだけど、まさかそこでもないなんて……一体、こいつの弱点はどこ？

「グオォ！！」

「っとぉ！！ 《空歩》！！」

　悪魔が右の拳を振り回して来たのを見て、すぐさまスキルを交えた緊急回避を取るエレイン。

　それに合わせて、私も腕に向けて攻撃。ダメ、やっぱりダメージに変化がない。

「そろそろ私の番ですわぁ！！ 《ヘイトアクション》、《ブラストチャージ》、《シールドバッシュ》！！」

　回復を終えたボコミが、悪魔の足元でスキルを連発。ヘイト誘引系の盾スキルまで使ってくれたお陰で、悪魔は私達に無防備な背中を向けてくれた。

　よし、今がチャンス！

「うりゃああああ！！」

　悪魔の背後から、両手の杖をぶん回して必死の連撃。背中、後頭部、腰、太もも等、目についた場所へ片っ端から風を叩き込む。

　だけど、

「これでもダメ……！？」

　やっぱり、特別多くのダメージが通る場所は見付からない。

　ひょっとしてこいつ、弱点部位がない？ と、そんな嫌な予感すら浮かぶ。

「くっ、ぬぬ……！！」

「グオォ……！」

　すると、悪魔の攻撃を一身に引き付けていたボコミに向け、再び悪魔が口を開いた。

　やばっ、またあのブレスをぶっ放す気だ！ 流石にあれはボコミでもキツいんじゃ……！？

「ふふっ、上等ですわ、かかって来なさいな！！」

「避ける気ゼロだね……《メディテーションオーラ》、《プロテクションギフト》！」

　むしろ嬉々として盾を構えるボコミの姿に、ココアがやや呆れ顔でバフをかけ直し、援護している。

　まあ、あの様子なら耐えられるかな？ 実際、攻撃の後は結構な隙があるし、ボコミがあそこで受け止めてくれた方が都合は……って、ん？

「うん？ どうしたのベル」

「ううん、こいつの弱点部位、分かったかもしれない。エレイン、こいつの正面に回って！」

「えっ。……ああ、そういうことか、じゃあ仕方ないね！！」

　私の頼みに一瞬だけ表情を強張らせたエレインだけど、すぐに私の言う弱点の心当たりがついたらしい。ニヤリと笑みを浮かべ、私の体を悪魔の正面にまで運んでくれた。

「グオォォォ！！」

　そうして解き放たれる、破滅の竜巻。

　正面から受けるボコミのHPがまたもゴリゴリと削れていくのを見ながら、私とエレインはそれに巻き込まれないギリギリのところまで接近を果たす。

「グオォ……」

「そこ、だぁ！！」

　やがてブレスが終わったことで入る、長い硬直時間。

　そこを狙って、私は効果終了間際の風の砲弾を打ち放つ。

　狙いは、ただ一つ。たった今ブレスを放った、無防備な口の中だ。

「グオォォォ！？」

　攻撃を受け、初めて上がる悪魔の絶叫。ぐらりと巨体を揺らし、後ろへ数歩下がりながらよろめいた。

　目に見えて減ったHPと合わせて考えれば、もう答えは歴然だ。

　私はエレインと一緒にウィングブーツの効果で空中に浮かびながら、得意気に呟く。

「弱点、みーっけ！」