第97話 ハーレムパーティとコラボ開始

「来たか、待っていたよ」


 一通り雫といちゃいちゃして、気付いた時には思ったよりギリギリの時間というハプニングを経つつ、私はFFOにログインした。


 ココアやエレイン、ボコミと合流して、踏破済みの《天空城前》までやって来れば、案の定そこには既にアーサーさんと、そのパーティメンバーと思しき人達の姿が。


 重装備の戦士系お姉さん、おっとりした僧侶のお姉さん、小柄な魔術師の女の子……うん、見事に女ばっかりだね! 私達も女しかいないし、この場の男女比率おかしくない?


 まあ、それはそれとして。


「すみません、遅れました!」


「いいさ、可愛らしいお嬢ちゃんを待っているこの時間も、俺にとっては至福の一時だからな」


「そうだよベル、こんな女の敵みたいなやつに謝らなくてもいいよ。時間に遅れたわけじゃないし」


 相変わらず、シレッとキザな台詞を吐くアーサーさんの姿に、ココアは露骨に嫌そうな顔で毒を吐く。

 初めて遭遇した時からそうだったけど……まあ、こういう距離感の近い人は苦手だもんね。仕方ない。


「君達は初めましてだね。俺の名はアーサー、FFO最強の騎士さ!お見知り置き願うよ」


「私はエレイン、動画はいつも見させて貰ってるよ、今日はよろしくね」


「おおっ、それはありがたい! こんなところで俺のファンに出会えるとは僥倖だ! この美しき出会いに感謝して、フレンド登録などどうだろう?」


「いいよー」


 一方のエレインは、さらっとフレンド登録してた。

 相変わらず、コミュ力が高いというかなんというか……若干心配になるけど、まあこの人も無理強いはしない程度の良識はあるみたいだし、エレインも分かった上でやってるだろうから、大丈夫かな?


「私はボコミ、お姉様の忠実なる玩具ですわ!!」


「忠実なる……えっ、玩具?」


「うん、ボコミは事実と異なる自己紹介やめようか?」


 ボコミは別段私に忠実でもないし玩具でもないよ。むしろ欲望全開ですり寄って来るゴブリンだよ。


「なぜですの!? お姉様はいつも私の体を散々に痛め付けてくださるではありませんか!!」


「誤解を招く表現はやめようね? ボコミが飛び掛かって来るから正当防衛してるだけだよ」


「そんなことを言って、お姉様はいつも私をいたぶる時は生き生きと……あぁぁぁぁ!?」


「それ以上言うと誤解を招くからね? やめようか」


 私は別にボコミをいたぶって遊んでるわけじゃないから。あくまでボコミが殴り飛ばされるまで延々と絡み付いて来る以上、仕方なく付き合ってあげてるだけだから!


「な、なるほど……中々、個性的なメンバー、だね?」


 心なしか、アーサーさんにすら引かれてる気がするんだけど。

 おかしい、確かに今こうしてボコミを叩き伏せて踏みつけにしている絵面だけ見たら酷いものだけど、私はただボコミのバカな発言を止めただけなのに!!


「えっと……そろそろ配信を始めても大丈夫かい?」


「ああ、この子はいつもこんな感じなので大丈夫ですよ。私の方でも始めちゃいますね」


「そ、そうか……」


 ボコミを踏んづけたまま、配信スタート。


『わこつー』

『待っていたぜ、この時を』

『ちょw 開始早々ボコミが踏まれてるw』

『ちょっとそこ変わってください』

『いつもの』


 最初の絵面が既に酷いけど、視聴者さん達は軽く話題にする程度でさらりと流す。

 ほらね? とアーサーさんの方を見たら、その表情が若干引き攣ってる。


 まあうん、普通じゃないのは自覚してるけど、まさかこの人にまで引かれるとは思わなかったよ。


「んんっ、それではまぁ、まずは今回の企画について説明させて貰おうかな!!」


 気を取り直すようにそう叫び、私の配信の視聴者にも伝わるよう、明朗な声でコラボ企画の概要とルールを語り出す。

 その内容は私が把握していた通りで、特におかしなところもない。


「今回は俺とこちらのお嬢ちゃんとのコラボ企画だ。楽しむのはもちろんだが、それはそれとして……」


 ふっと、アーサーさんから漏れる不敵な笑み。

 前に会った時にも一度見せた、それまでの軽薄さが嘘のような男らしいその表情で、真っ直ぐ私に手を差し伸べる。


「全力で勝ちに行かせて貰う。覚悟してくれ」


「……ふん、望むところ! でも、勝つのは私達だよ!」


 ナンパではなく、あくまで対等のゲーマーとして互いの健闘を祈る握手を交わすと、それぞれに城の前に設置された転移ポータルへと向かう。


 フィールドボスとは一線を画し、プレイヤー一人につき一度しか戦えないという《エリアボス》の前に出現するそれに全員が集まったところで、私の前にウィンドウが表示された。



『この先はエリアボスです。準備はよろしいですか? YES/NO』



「当然! さあ、みんな行くよ!」


 ココア、エレイン、ボコミとそれぞれに頷き合い、最後にアーサーさんとタイミングを合わせてYESボタンをタップ。一瞬で視界が切り替わる。


「ここは……」


「ん。ちゃんと城の中に来たみたいだね」


 ココアの言葉通り、そこはお城の中。ダンスホールみたいな場所だった。

 玉座の間とかじゃないのか、と思ったけど、そんな疑問も部屋の中央に座す現在の城の主を見たら霧散する。


 その姿を一言で言えば、とにかく大きい漆黒の悪魔。二階まで吹き抜けになっているホールでも結構ギリギリで、ここまでどうやって入って来たのか疑問が尽きない。


 凶悪な二本の捩れ角、エルダートレントの幹にも匹敵する太い手足。血のように真っ赤な目玉がギョロリと私達を捉え、遥か上空から見下ろしてくる。


 エリアボス――大悪魔ボレアス。


 風の神の名を冠した強大なボスが、私達に向けて咆哮を上げ、城の中を暴風が吹き荒れた。

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