第84話 観葉植物と百合の花
「ふぅ……勝った……」
「おめでとーココアちゃん!」
「わわっ」
決闘エリアが解除されると、私はココアちゃんにぎゅっと抱き着いた。
前に少しだけハンマー使ってるところを見たことはあるけど、まさかサポートメインの僧侶でこうもしっかり戦えるとは思ってなかったよ。
あまりはっきり言えないけど、やっぱり雫はすごいなぁ。
「ふふ、負けました。やっぱりお二人の愛は強いですね……見込んだ通りです」
そうしていると、大人狼から幼獣に戻ったワッフルを肩に乗せながら、サーニャちゃんが歩み寄ってきた。
途端、警戒の眼差しを向けるココアちゃんを見て、サーニャちゃんは微笑ましげに目を細める。
「約束通り、私は大人しく身を引きます。そして……」
サーニャちゃんが、ピピッとメニューで何かしら操作すると、その体が光に包まれ――それが弾けた時、中からは樹木の着ぐるみっぽい何かに身を包み、両手に枝を持ったサーニャちゃんの姿が。
……いや、え?
「今日から私は、お二人の愛を見守る観葉植物になります!!」
「はい?」
「へ……?」
突拍子もない衣装と発言に、私とココアちゃんは揃ってポカンと口を開けたまま硬直する。
いや、ちょっと待って、どういうこと??
「ふふ、実は私、女の子同士が好きでして……男は全員滅んで観葉植物か女の子になればいいと思ってるんですよ」
『いや草』
『過激すぎるだろこいつw』
『真面目そうな顔してなんつー危険思想をw』
『この子のお父さん涙目』
「ふふ、いつから私の両親に男がいると錯覚していました?」
『なん……だと……!?』
『ちょっと待てどういうこと』
「まあ半分冗談ですけど」
『『『半分ってどこまで!?』』』
流石にこれは予想外だったのか、普段は変態発言の多い視聴者のみんなですら驚いている様子。可視化されたそれを見て、サーニャちゃんまで悪ノリしてるし。
いや、流石に両親とも女の人だなんてそんなことは……ない……よね……?
「なので、
『しれっとストーカー発言』
『なあ、このゲームなんでこんな変態しかいないの?』
『俺に聞くなw』
「そして、最近ちょっとベルさんを中心にそれっぽい感じになってきたので焦れったくなって、ちょっとやらしい雰囲気にしてやろうかと思いお二人に干渉しに来たというわけです。まあそういうわけなので、さあさあ、私のことは気にせずぶちゅっとやっちゃってください!」
「やらないよ!?」
いや確かに私も雫の許しがあるならキスの十や二十しても構わないけどさ!
でもこう、こんなオープンにお膳立てされながらは流石に恥ずかしいよ!?
「そんな……NTRの危機を演出してそれを乗り越えれば、新たな絆が育まれると思ったのに……!」
「それ本人達前に暴露したら意味ないから!?」
ていうかNTRってなに!? なんか不穏な気配がする単語だけど!!
あと、そんな「今気付いた!!」みたいな顔しないで!?
「くっ、ココアさんはどうなんですか!? ベルさんにちゅーされたいですよね!?」
「え? ええ、っと……」
突然話を振られ、ココアちゃんは困ったように私の方をチラチラと見る。
そして、
「されたい、けど……そういうのは、誰もいないとこで……二人きりで、したい……」
もじもじと顔を赤らめながら、今にも風に紛れて消えてしまいそうなか細い声でそう言った。
思わぬ一撃に、私は「くはっ」と血反吐を吐くようにその場で崩れ落ちる。
「えっ、ちょ、おね……ベル!?」
『ぐはぁぁぁぁ!!(尊死)』
『誰か、誰か早くブラックコーヒー持ってこい!! 砂糖吐きすぎて死ぬ!!』
『もうなんなのこの子、可愛すぎない?』
『私女だけどこんな彼女が欲しいだけの人生だった』
『あまりの破壊力に新たなレズが誕生してて草』
『もうこれは仕方ない』
私だけでなく、視聴者さんの中にもココアちゃんの魅力にやられる人が続出。
そして当然と言うべきか、こんな事態を招いた元凶さえも例外ではなかったみたいで、呻くように膝を突いていた。
「くふっ……さすがココアさん、私の想像を容易く超えるその尊さ、やっぱり私の目に狂いはなかったです……!」
「いやいみわかんないよ!?」
ココアちゃんから困惑の声が上がるも、サーニャちゃんはそれを無視して立ち上がる。
そして、さながら血反吐を拭いとるように口元を腕で擦り上げると、そのままココアちゃんの元へ歩み寄り、その手をガッチリと掴み取った。
「ココアさん、私とフレンドになってください。そして一緒にこの腐れ朴念仁なベルさんを攻略しましょう!!」
「誰が腐れ朴念仁!?」
「そういうことならわかった、仲良くしよう」
「ココアちゃんまで!?」
あれ!? 朴念仁てあれだよね、恋に鈍感とかそういう意味でいいんだよね!?
私に恋してる人なんていないよ? 雫は相思相愛だけど妹だし……はっ、ボコミ!? まさかボコミのこと!? いやいや、でもあれはただの変態だよ!? 恋とかそういう対象じゃないと思うんだ!!
「お姉さんから勘違いの匂いがしますね……これは強敵です」
えっ、それともあれ? もしやサーニャちゃんが私に本気で?
う、うーん、さっきの言動を見るにそんな感じはしないんだけど……いや本当にどういうこと? 誰か教えて!?
『いやなんでそこで本気で困惑してるのか分からない』
『いや、え? むしろ既に相思相愛だったのでは?』
『あんだけいちゃついててその気がゼロとかたらしってレベルじゃねーぞw』
『実はリアルで誰に対してもこんな感じなのか……?』
『もしそうだったらいつか本気で刺されるぞw』
……はっ、これはあれか、ココアちゃんと私が他人だと思われてるのか!!
あぁー!! 違うの、この子妹なの!! 私別に、誰に対してもこんなことするわけじゃないよ、妹だからこんななの!!
でもそれを言うわけにもいかないし……私どうしたら!?
「まずはこの無自覚っぷりをどうにかするところからですね……ふふ、お姉さん、覚悟してくださいね?」
にっこりと笑うサーニャちゃんに、そう宣告されて。
私はもう、目を白黒させることしか出来なかった。
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