第4話 レベル上げとスキル発現
ベースキャンプの外には、どこまでも続く荒野が広がっていた。
西の方には大きな森が見え、北の方には山も見えるけど、それ以外はとにかく大きな岩がゴロゴロしてる赤茶けた大地。
「さーて、モンスターはどーこっかなー♪」
そんな大地の上を、取り敢えず山のある方角に向けて歩きながら、私はキョロキョロと辺りを見渡す。
ゲームは初心者の私だけど、蘭花が結構なゲーマーだからその手の話を聞く機会はあるし、流石にモンスターを倒せばレベルが上がって強くなることくらいは知っている。
私の目的は森のフィールドボスだけど、雫が最低基準にしてくるくらいだし、いきなり行って勝てるとも思えないから、まずはこっちの方でレベルを上げていこう。
というわけで、何でもいいからモンスター狩りを、と考えながら歩くこと少し。視界の先に、小柄なモンスターが現れた。
「よーし、まずはあいつからだ! たのもー!」
意気揚々と声を上げ、杖を振りかざしながら駆け寄っていく。
ゴブリンなら、私でも知ってるファンタジーの定番雑魚モンスターだし、最初狙うには持って来いだろう。レベル上げするにはちょうどいい。
そんなことを考えてる私の方を、ゴブリンはチラリと見て……そのまま、何事もなかったかのように反対方向へ向かって歩いて行った。
「いや、なんで!? 私と戦えー!」
今私の方見たよね!? なんで無視するの!?
とにかく、追いかけないと!
そう思って走り続けるも、この小さな体のせいか、はたまたそういうステータスにポイントを振り分けなかったからか、中々追い付けない。
ゴブリンがスタスタと歩けば、私はとことことそれを追いかけて。
ゴブリンがくるりと曲がれば、それに合わせて私もくるりとターンして。
スタスタ。とことこ。
スタスタスタ。とことことこ。
スタスタスタスタ。とことことことこ。
「ぐぬぬ、そこのゴブリン、待ちなさ~い!」
叫んでも、ゴブリンはこっちを見向きもしない。聞こえてないの?
まるで私をおちょくるように歩き回るゴブリンに、フラストレーションが溜まっていく。
「なら、これでどう!? 《マナシュート》!!」
いい加減、追いかけっこも飽きてきたので、距離はあるけど魔法をぶっ放す。
一発目は、遠いのもあって外れた。なら狙いを調整して、もう一発!
「グギャ!?」
光の弾がゴブリンの後頭部を捉え、HPバーがちょっとだけ減少する。
それによって、ようやく私の存在に気付いたのか。ゴブリンは怒りの表情で振り返った。
どうやら、私をおちょくっていたわけじゃなかったらしい。このゴブリン、鈍すぎない?
「ギャッ、ギャッ!」
ともあれ、攻撃したことで私に気付いただけじゃなく、自分から向かってきてくれるのはありがたい。
全然追いつけなかった私が言っても説得力はないけど、攻撃自体は船乗りさんよりも遅いし、避けるのも反撃するのも簡単だ。
「ほいっ!!」
振り下ろされるボロ剣を一歩横にズレて躱し、お返しに杖の一撃を顔面に叩き込む。
衝撃に怯み、仰向けに倒れていくゴブリン。うん、やっぱりというかなんというか、魔法より殴った方が強いね。なんでだろう?
まあ、そんなこと今はいいか。隙だらけだし、このまま倒しきるチャンス!
「えいっ、とぉ!!」
「グギャー!?」
転んで無防備を晒すゴブリンへ、ボカスカと杖を連続して叩き込む。
どうやら、当てる部位によって与えられるダメージが変わるようで、ゴブリンは頭が弱点っぽい。
動きはともかく、打たれ強さは船乗りさんより上なゴブリンの頭を滅多打ちにすること三回。結局一度も起き上がれないまま、哀れなモンスターは私の経験値と成り果てた。
「ふぅ、初勝利ー!!」
杖を掲げ、勝利のポーズ。
ふっふっふ、雫にはついて来れないだのなんだの言われたけど、私だってやれば出来るんだよ!
「さあ、次々ー!!」
一度コツを掴んじゃえば、こっちのものだ。
遠くにいるゴブリン達を片っ端から魔法スキルの狙撃で呼びよせ、近づいて来た順に杖で殴り倒していく。
「よっ、とぉ!! その攻撃はさっき見たよ!!」
「グギャア!?」
「ギャアッ、ギャアァ!!」
大振りの一撃を回避して、腹部を一撃。怯んだところを狙ってアッパー気味に顎を強打して、弱点を突かれたゴブリンは霧散。
その代わり、私の攻撃後の隙を突くように、続くゴブリンが隙の少ない横薙ぎの攻撃を放って来た。
咄嗟に後ろに跳んで躱すも、避け切れずに胸の辺りを少しだけ斬られる。
「おっとと! 痛いなぁ、もう」
掠った程度ではあったんだけど、横目で確認すれば私のHPバーは今の一撃で一気に四割近く削られていた。つまり、三発喰らえばアウト。
手間取っている内に後続のゴブリンが二体もやって来て、一気に三対一になってしまった。
流石に、調子に乗り過ぎて失敗したかな? と少し反省しつつ、私は距離を取ろうとして……いや、と首を振って思い留まる。
「これくらい乗り越えられないと、雫に追い付けない」
ふふ、と笑いながら、木の杖を握り直す。
ゲームの中だし、死んだからって本当に死ぬわけじゃないけど、ペナルティはある。確か、取得経験値の一部を失う……んだっけ?
レベル上げと、その先にある雫とのハッピーゲームライフを夢見る私にとっては、経験値の喪失は痛い。すっごく痛い。
でも、雫はあれでかなり頑固だし、
それは嫌だ。絶対嫌だ。
だから私は、逃げない。
このまま、最速最短で殴り倒す!!
「いっくよぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げ、三体のゴブリンに向かって突撃していく私を見て、ゴブリン達もまた怯むことなくボロ剣を構えた。
大丈夫、ゴブリン達の動きはそう速くないし、よくよく見れば攻撃パターンも大体決まってる。
あくまで生物じゃなくて、ゲームプログラムによって動くAIなんだからある意味当然だけど、それなら
「よ、っと……!!」
正面から来る袈裟斬りを右に避けつつ、左のゴブリンから距離を取って、繰り出される横薙ぎの間合いの外へ。
ついでに、右のゴブリンがぐっと体に力を込めて必殺の唐竹割を放とうしているのを見て取った私は、その体重が軸足へ移動する瞬間を狙って足払いをかける。
「ギャア!?」
狙い通り、私に攻撃しようとしたゴブリンがすっ転び、無防備を晒す。
そんなゴブリンの腹を思いっきり踏んづけて怯ませつつ、残る二体に突撃。攻撃直後で硬直しているところへ、全力で杖を叩き込んだ。
「てやぁぁぁぁ!!」
頭を狙い、響く打撃音は二つ。
弱点に対するクリティカルダメージで倒れた二体をそのまま放置し、続けて狙うのは何とか起き上がった最初の一体。
一時的に一対一になった隙を突いて、次の行動を起こす前に頭を杖でぶん殴り、回し蹴り、そしてトドメの唐竹割。
お腹を踏んづけた時もそうだったけど、どうやら杖で殴るよりダメージが多少落ちるとはいえ、足で蹴ったりしてもちゃんとダメージは通るらしい。
ちなみにこれも、魔法を撃つよりダメージが大きい。いや、だからなんで?
「残りは二体!!」
ともあれ、数が減ってしまえば後は簡単だ。起き上がったところを一気に距離を詰め、一体に集中攻撃。
杖を顔面に叩き込んで怯ませ、そのまま流れるように突きを繰り出し、最後にトドメの唐竹割。
「グギャー!!」
その間に、最後に残ったゴブリンが私に攻撃を仕掛けて来た。
うん、ここで私がこれまでに見た行動パターンの中でも一番隙が少なくて、攻撃範囲の広い横薙ぎを選ぶっていうのは、敵ながら中々良いチョイスだと思うよ。
でもね、やっぱり相手の行動がある程度予測出来てさえいれば、それも対策出来る!!
「よっ……!!」
地面を蹴り、横からの攻撃を高跳びの要領で飛び越える。
流石に、こんな行動は予想外だったのか、AIであるはずのゴブリンに驚愕の表情が浮かんだように見えたのは、私の錯覚だろうか?
ともあれ、これで目の前には攻撃を繰り出した直後で無防備なゴブリンが一体だけしかいない。貰った!!
「やあぁぁぁ!!」
空中でくるりと一回転しながら、ゴブリンの脳天に杖を叩き込む。
落下の勢いを全て乗せた――と言っても効果があるかは知らないけど――一撃は、クリティカルダメージによってゴブリンに残されたHPを全て消し飛ばし、その体をポリゴン片へと作り変えた。
「んん~~! 勝利!!」
杖を掲げ、勝利のポーズ。
まあ、所詮ゴブリンだし、三体同時に倒せたからって大したことないだろうけどね。
「あ、でも今の戦闘でレベルが2つも上がってる」
まだ合計しても四体しか倒してないけど、中々順調だ。
ステータスポイントも少し貰えたみたいだし、今回もこの……ATK? に振ってと。
これで少しは、魔法も強くなるのかな?
「さて、この調子で狩りまくるぞー!」
こうして私は、上がっていくレベルに気を良くして、ゴブリンの乱獲に勤しんでいく。
なぜか魔法が全然強くならなかったから、仕方なくそのまま杖でゴブリンを殴り倒し続け……案外、これはこれで楽しいな? なんて思いながら先へ進んでいくと、今度はゴブリンとまた違ったモンスターが姿を現した。
「うわー……大きい」
全身をごつごつとした岩で構成された、巨大な人型モンスター。ロックゴーレム。
あんなでかい腕で殴られたら、私なんて一発でぺちゃんこだよ。
ただ、でかいだけあって動きは今まで見て来た中でも一番鈍い。ゴブリンの時みたいに追い付けないってこともないし、後ろから一気に仕留めちゃおう。
「てやあぁぁぁ!!」
気合一閃、膝裏目掛けて杖を叩き付ける。
ゴズンッ!! と重々しい音が響き、少しばかりゴーレムの体が揺らいだけど……大したダメージにはならず、すぐに反撃の拳が飛んできた。
「わっ、きゃあ!?」
流石に全然効かないというのは予想外だった私は、大慌てで距離を取って攻撃範囲から逃れようとするんだけど……直撃は避けたはずなのに、地面を伝わって響く衝撃によって吹き飛ばされてしまう。
しかも、ダメージがゴブリンの時の比じゃない。自然回復で全快していたHPが、今の一撃だけで八割持っていかれた。見た目通り、ヤバい攻撃力してるね。
でも、それ以上に厄介なのは防御力だ。まさか、私の攻撃が通用しないなんて。雫が言ってた、レベルに差があるとそもそもダメージが通らないって、もしかしてこういうこと?
「うぅ~、厳しい……でも、まだ諦めるのは早い!!」
回れ右しそうになる体を叱咤しながら、キッとゴーレムの体を見上げる。
ゴブリンを相手にしていた時も、部位によって与えるダメージに差があったんだ。なら、このゴーレムだって弱点を攻撃すれば、今の私でもダメージを与えられるかもしれない。
「弱点っぽいところ……頭か、それとも……」
じい、と、私の視線はゴーレムの胸部、岩に半ば埋め込まれるようにして赤く輝く、宝石のような部位に注がれる。
あれ、明らかに弱点だよね? どう見ても大事な部位……心臓みたいな感じだよね?
「とりあえず、あれを攻撃してみよう」
そうと決まれば、行動あるのみ。
ちょっと、そのままジャンプしても届かない高さにあるのが悩みどころだけど、それならそれでやりようはある。
「ほーら、こっちだよ~!」
杖を振り回し、ゴーレムを挑発。
すると案の定、ゴーレムは敵である私目掛け、再度拳を振り下ろして来た。
「もうちょっと、もうちょっと……今!!」
迫りくる拳を見極め、タイミングを合わせてジャンプ。
拳が叩き付けられ、グラグラと揺れる地面を眼下に見下ろしながら、私は攻撃直後で一瞬だけ動きが止まったゴーレムの腕に足を着ける。
「ふふふ、ちょうどいい足場をありがとう、ゴーレムさん!!」
挑発するようにそう言って、腕が動き出す前に再度ジャンプ。目指すはもちろん、ゴーレムの赤い心臓(?)部分だ。
「とおりゃあああああ!!」
気合の雄叫びを上げ、全力の一撃を宝石のようなそれへと叩き付ける。
今度こそ、ガクンとHPが減少したのを確認した私は、よしっ、と内心でガッツポーズを決めながら、すぐさまゴーレムの体を蹴ってその場を離脱した。
直後、私が張り付いていた胸部を直撃する、ゴーレム自身の岩の拳。
ドゴォン!! と激しい音を立てて叩き付けられたその一撃は、自分の攻撃だからなのか、ダメージこそ無かったものの、その体勢を崩すノックバックの効果はあったらしい。その巨体がぐらりと揺れ、仰向けに倒れ伏す。
当然、弱点である赤い宝石は剥き出しだ。
「貰ったぁ!!」
ゴーレムの体に飛び乗り、ボカボカと連続で弱点部位を殴りまくる。
杖を振り下ろす度に重々しい打撃音が響き、ガクンガクンとHPが減少していき、そして……。
「……いよっし、撃破ぁ!!」
四回ほど殴り付けたところで、ついにゴーレムの撃破に成功する。
早くも恒例となりつつある勝利のポーズを決めながら、私の内心は達成感でいっぱいだった。
ふう、厄介なモンスターだったけど、こうやって弱点を探って、隙を見つけて、それを突けばちゃんと倒せる。うん、今までやってこなかったけど、ゲームって楽しいね!
この調子でガンガン先へ進んで、早く雫とこの思いを共有するんだ! 頑張れ私!!
そんなことを考えていると、ポーン、と、いつぞやのチュートリアルで聞いた音が唐突に頭の中で響いた。
なんだろうかと思い、届いたメッセージに視線を向けると……。
「えーと何々、新しいスキルを習得しました?」
おお、それはいいね。スキルは戦闘や探索で重要な意味を持つって船乗りさんも言ってたし、習得できるものならなんだって歓迎だ。
スキル:魔法撃
分類:強化スキル
習得条件:【魔術師】単独行動時、杖による打撃でモンスターを一定数撃破。
効果:一定時間、INTの数値を0にし、減少した数値分装備中の杖のATK補正を上昇させる(最大で、自身のATKと同値まで)。
「ほー……」
INTっていうステータスを0にする代わりに、持っている杖にATK上昇のステータスを追加するスキルかぁ、なんだか強そう。
あれ? でも、INTってなんだろう? 下がると何か問題があるのかな?
そういえば私、各ステータスの説明文、最後までちゃんと読んでなかった気がする……。
ここに来て初めて、その可能性に気付いた私は、遅まきながらステータス画面を開き、各ステータスの説明文に改めて目を通していく。
「えーっと……HPはヒットポイント、無くなったらゲームオーバー。MPはマジックポイント、魔法スキルで使う……ATKは攻撃力、DEFは防御力、AGIは素早さ、INTは知力、魔法の効果が上昇する……って、え?」
INTは魔法の効果に作用? それって、もしかして威力にも関係ある?
いやでも、ATKは攻撃力が……んん? MINDは精神力で、魔法に対する抵抗力が上昇するって書いてあるよ。抵抗力って要するに防御のことだよね? じゃあ、明らかに対照的なことが書いてあるINTはやっぱり魔法の威力に関係してるんじゃない?
ひょっとして、私がいくら魔法スキルを撃っても全然ダメージが通らなかった理由って……これ?
「……もしかして私、ステータスを振る場所間違えてた?」
本当に今更ながら、私はその可能性に気付き。
しばしの間、その場で茫然と立ち尽くすのだった。
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