ようこそ幽霊街へ

藤川 成文

始まり

眠りから覚めると

 鼻腔をくすぐる香りが鼻をつきぬけた。あぁまるで天国にいるかのような、そんな心地がした。


 酸素を求めて欠伸を一度した。


 ふと、身体を起こすと花畑の上で横になっていた。しかし、眠りについた覚えはなかった。私はいつ眠ったのだろうか。



 いやいや、花畑なんかじゃない。ここは本当に天国かもしれない。だって私が入っていたこの箱は、葬式に使われる見覚えのある長方形。私は棺桶の中で眠っていたらしい。ご丁寧に花まで敷きつめられていた。


 誰がこんないたずらをしたのだろうか。こんな事をされる覚えはないし、恨まれるほど誰かと喧嘩をしたことだってないはず……。


 脳を落ち着かせようと、取り敢えず辺りを見回してみた。ここはどうやら丘の上らしい。しかし、家らしき建物はひとつも無い。そもそも建物自体見当たらないのだ。


 あぁ困った。どうして私はこんな所にいるのか全く分からないのだ。本当に身に覚えがない。


 どうしよう……。これが夢だったらいいのになんて思って、頬を抓ってみたが何も変わらない。ちゃんと痛みがある。今だけは痛みなんて感じず夢だったらよかったのに。


 そういえば、さっきまで何をしてたんだっけ……。


「へぇ、こんな丘の上に落ちちゃったのかあ。可哀想な子だね。」


 急に、背後から声がした。吃驚して後ろを振り向くと男の人が立っていた。



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