ギルドへの報告

 僕たちはネブラスタの村を朝のうちに出た。

 ネブラスタの馬は健脚で街道をすいすい進み、昼過ぎにはミネストレアに到着した。


 街の外に馬車を止める施設があり、村の二人はそこに馬を預けた。


 それから、五人で入り口を通って街の中へとやってきた。


 都市を囲う立派な防壁、その内側では背の高い建物が立ち並ぶ。

 石畳の道を歩く通行人はイーストウッドの何倍もいて人酔いしそうになった。


 活気のある場所とはこういうものなのだと感じた。


「お三方、早速ギルドへ向かいたい」

「はい、それでかまいません」


 村の二人はギルドへの道を知っているので、彼らに案内してもらった。

 それにセイラもミネストレアの地理に詳しいようだった。


 ギルドにたどり着くと、妙に見覚えのある感じがした。


「……そうか、町役場に雰囲気が似ているのか」


 ギルドの建物はイーストウッド町役場を縦と横に長くしたような建物だった。

 たしか、ベルリンド国内の公的な建築は似たような造りが多いらしい。   


「では、中へ入りましょう」


 村人の一人が先に進んだが、緊張した面持ちだった。


 順番に中に入ると、正面に受付があるのが目に入った。


「ようこそ、何かご用件でも?」


 受付には二十歳前後に見える女性が立っていた。

 肩の長さで切り揃えられた金髪で、長い前髪で左目が隠れている。


「村に魔物が大量に出て、その報告に……」

「村、ですか? どちらの?」

「ネブラスタ」

「……ネブラスタ。少々お待ちください」


 彼女は村人に断りを入れて、部屋の奥へと消えてしまった。


「相手にされなかったどうしよう」

「そんなに弱気になるな、きっと大丈夫だって」


 村人二人は何気ない会話をしていた。

 お互いに緊張をほぐそうとしているように見える。


「――魔物が大量に出たそうで?」

 

 受付の女性と共に眼鏡をかけた細身の男がやってきた。

 村人を軽くあしらおうという雰囲気を感じる言葉だった。


「間違いないです。この方たちも見ていますから」

「それはそれとして、ネブラスタといえば遠い農村ですが、ギルドへの報酬は支払えるので?」

「そ、それは……」


 商会ならともかく、農村がまとまった現金を急に用意できないことは分かっているだろう。

 聞いていた通り、足元を見られるような流れになっていた。

  

「お金が必要? だったらこれで足りる?」

「……えっ」


 会話の流れをぶった切るように、エリカが革袋を机に乗せた。

 彼女が袋の口を開くと、中から金貨が顔を出した。


「トーマス、これでいくらぐらい?」

「……ちょっと待って」


 1000クロム分あると聞いていたが、確認のために数を数える。

 

「10枚だから、1000クロムちょうどだよ」

「やせ眼鏡、1000クロムで足りる?」

「なっ、やせ……失礼な」

「どちらが失礼だ」


 エリカに加わってセイラが強い態度に出た。

 第三王女かつ凄腕剣士だけあって、彼女から発せられるオーラがヤバい。


「ま、まあ、それだけあれば足りる……足ります。君、手配を」

「は、はい」


 眼鏡の男は受付の女性に何か指示した。

 すると、彼女は書類の作成を開始して、慌ただしい動きを見せた。


「これで、村に来てくれるんですか?」

「も、もちろんです。調査と数日間に渡る夜通しの警備。しっかりやらせて頂きます」


 ギルド側はしっかりやるつもりらしいが、建物の中は閑古鳥が鳴くような状態なので、引き受ける者がいるのか気になった。


「――俺の名はスタン」

「――私の名はクラーク」


 そんなことを考えているとギルドの入り口から名乗りを上げて、謎の二人がやってきた。


「すぐに人員を手配しますが、お急ぎなら、あちらの二人がネブラスタに伺います」


 受付の女性はちょうど現れた二人を指さした。


「お前たち、何か困っているようだな。でも安心しろ、この戦士スタン様が全て解決してみせる」

「この時代に戦士? 彼らに任せて大丈夫か?」


 セイラが疑問を投げかけると、スタンは険しい表情を見せた。

 たしかに彼女の意見はもっともだった。


 戦争が少なく、魔物の動きも活発ではないため、剣技が戦いの主流になって久しい。

 戦士は対兵隊や魔物の群れを突破するのに向いているが、一騎打ちでは敏捷性に欠けて不利だと考えられている。


「彼の不足を補うために魔法使いの私がいる。軽率な扱いは控えてくれたまえ」

「俺たちは二人ともレベル40だ。簡単にやられはしないぜ」

「……ふむっ、40か」


 本当にスタンたちがレベル40ならば、その半分のレベルしかない僕では太刀打ちできない。


「私は60だ。何なら手合わせしてみるか?」

「何っ!? 60だとぉ!? ありえない。それが本当だって言うなら、賢者の石で証明してみせろ!」

「望むところだ」


 ネブラスタを守ってもらうはずが、スタンとセイラが関係ない方向で興奮している。

 その場にいる他の面々は静観するしかなかった……僕も含めて。


「すまない。そういうわけで、この戦士と賢者の石に行く」

「ああっ、分かりました」


 そういえば、ミネストレアの賢者の石なら細かいステータスが見れるはず。


「エリカ、一緒に行って測ってみたら?」

「うん、そうする」


 エリカは素直な様子で頷いた。


「報告が済んだので、我々はネブラスタへ戻ります」

「分かりました。お気をつけて」 

「後で俺たちが行くから、大船に乗ったつもりでいてくれ!」


 村人たちが別れの挨拶をしていると、スタンが彼らに声をかけた。

 二人の村人は曖昧に会釈をして、ギルドを出て行った。


 続いて、ピリピリした雰囲気のセイラとスタンが賢者の石に向かったので、僕とエリカ、クラークはその後に続いた。

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